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車の中に苦しそうに踞る亜弓を残して、由美子は必死に扉を叩いた。

当然ここは掛り付け医でも何でもない初めて来る街医者だ。果たして受け入れてくれるのかどうかも判らなかったが、医学的知識のない由美子にはこれしか思い付かなかった。
兎に角急がなくては、この思いだけで彼女は何かに追われるかのように扉に縋り付いた。


「誰か居ませんか!お願いします、赤ちゃんが産まれそうなんです!開けて下さーい!!」

その声は暴風雨に掻き消され、建物内部には届かないのかもしれない。反応があるのかどうかさえ判らなかった。

産婦人科なら必ず誰かが居るだろうに・・・そう思わせたのは閉められた窓から僅かに漏れているカーテン越しの灯りだったが、この嵐では声も音も窓を揺らす風には勝てない。
由美子が諦め掛けた時、診療所の外灯がパッと明るくなった。


助かるかもしれない・・・再び由美子は大きな声を張り上げ救いを求めた。


「すみません!助けてくださいっ!お願い、助けてぇーーっ!!」

拳を振り上げドンドンと叩くと入り口の照明も点いて人影が現れた。ただ、この雨風で扉を開けることもままならない。
ほんの少しだけ開けられた扉の隙間から、眉を顰めた医者らしき男性かその目を光らせた。


「・・・・・・・・・」


ビュービューと鳴る風の音が邪魔で何を言ってるのか判らない。
だから男性の言葉を無視して自分たちの説明をするしかなかった。由美子は全身ずぶ濡れで髪の毛も顔に張り付いている。目にも容赦なく雨が入り込み、開けているのさえ困難だった。

「妊婦さんが車に居るんです!は、破水したみたいで苦しんでます!お願い、助けて下さい!」
「・・・・・・破水したって?!」

「多分そうです!このままでは掛り付けの病院まで行けません、お願いします!」

それを聞いた男性はやっと扉を全開し、由美子に「押さえてろ!」と怒鳴った。


慌てて扉を押さえると男性は車まで飛び出して行き、後部座席のドアを開けた。そして亜弓を抱きかかえて戻ってくると、そのまま奥の部屋に運んでいった。

「あんたは車をうちの駐車場に入れて来い!この人は分娩室に連れて行くから!」
「わ、判りました!!」



言われた通りに車を移動させ、院内に戻ってくると何処に居たのか看護師も慌ただしく術衣を着て走り回っていた。
息を荒くしてその様子を見ていた由美子に、ここの医者の家族だろうか普段着の女性がやってきてバスタオルや着替えを渡してくれた。

それを受け取ったものの亜弓の状態が気になって落ち着かない。
奥の分娩室と書いてあるドアを見つめながら濡れた髪を拭いていた。


「大変でしたねぇ。多分今から出産に入ります。心配でしょうけど少し待っていなさい。ご家族に連絡するならどうぞここの電話を使って下さいね」
「ありがとうございます。あの、お嬢様は大丈夫でしょうか?」

「お嬢様?あぁ、大丈夫じゃないかしら。あの人が何も言わずに準備してるから。それに運が良かったわ」
「えっ、、運が良かった?」

「えぇ、今日は先ほどもう1人の妊婦さんが出産したばかりで看護師がみんな残ってたの。と言うより、この天気で帰ることが出来なかったのね。だから人手があって助かったって意味。私は看護師じゃないから」

そう話しながら、医者の妻らしき女性はカルテをとりだし「妊婦さんの情報を書いてね」と由美子に差し出した。


「・・・私、お嬢様の詳しい事は知らないんです。お名前と別荘の住所ぐらいしか・・・」
「判るところだけでいいですよ。あとはご本人に聞くから」


花沢亜弓・・・それしか書けなかったが、由美子はカルテを妻に返して狭い待合室に座った。


そして必死に祈った。
どうか無事に生まれますように・・・。

両手を組んで目を閉じ、冷たくなった身体を震わせながら祈り続けて1時間が過ぎた頃、分娩室で産声が上がった。


おぎゃあーーーっ!
   おぎゃあああっーーっ!!


「はっ・・・う、産まれた?」

由美子が立ち上がった瞬間、もの凄い音と共に辺り一面が黄金色に光り、ドドーーン!!と爆音が響いた。
そしてバッ!と全部の電気が消え真っ暗に・・・いきなり闇夜になったせいで奥からも看護師の悲鳴があがった。

「きゃああぁーっ!停電?!」
「大丈夫、落ち着いて!自家発電があるから」

「誰か、誰か森川さんの様子を見てちょうだい!」
「暗くて判りません!」

そんな看護師達の会話は耳を塞いで踞っている由美子にも聞こえた。


それはほんの数秒で自家発電に切り替わり、診療所には明るさが戻った。


おぎゃあーーーっ!
   おぎゃあああっーーっ!!


産声はちゃんと聞こえる・・・そして安心したのか、泣いている亜弓の声も聞こえた。


「花沢さんのお付きの方、おめでとうございます!」
「あ、ありがとうございます!お嬢様はご無事ですか?赤ちゃんは?赤ちゃんは・・・」

「お母さんも大丈夫ですよ。赤ちゃんは男の子でとても可愛いお顔です。今は処置の最中なのでもう少ししたら会えますからね」

「・・・男の子・・・あぁ、良かった!良かったぁ・・・!ありがとう、ありがとう・・・!」


暫くして新生児室でスヤスヤと眠る赤ちゃんをガラス窓越しに見ることが出来た。
少し早くにこの世に生まれ出たというのに何と綺麗な顔立ちなのか・・・その小さな命を眺めながら由美子はこれまでと違う涙を流していた。



3月30日、凄まじい嵐の夜。
花沢類・・・花沢家、跡取りの誕生だった。




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2019/05/16 (Thu) 22:31 | EDIT | REPLY |   

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