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plumeria

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21年後・・・最後の桜の花びらが舞い散る季節。


21歳になった類は、いつものように自分の昼寝場所に決めているベンチで目を閉じていた。
そこは英徳大学にあるコートヤードの1つだが、彼が毎日のように過ごしているために誰も近づけなくなった場所でもある。幾つも建ち並ぶ校舎の1番北側にあり、大きな桜の木が1本だけ植えられていた。

半分ほど葉桜になったその木の下、そこにあるベンチで昼寝をする類を、学生達は遠目から見て溜息をつくだけだった。


表情こそ少ないが誰が見ても美しいと表現する顔立ちに柔らかな色の髪。
服はいつもナチュラルな色のもの。左耳に1つだけ付けているピアスは彼の宝物で、誕生石のアクアマリンが埋め込まれたものだった。それが今日もキラリと光る・・・類が身に付けるただ1つのアクセサリーだ。

スラッとした細く長い手足・・・それを無防備に投げ出している姿は女性達の目を釘付けにしていた。



そんな視線を無視して遠い日の夢を見ている類。
柔らかい日差しを真上の桜の若葉が遮り、何処か甘い香りがするような春風が彼の髪を靡かせていた。



『・・・ふふ、類、見て?桜が咲いたわ。綺麗ねぇ・・・あなたが産まれた病院にも綺麗な桜があったのよ?』
『・・・しゃく・・・ら?』

『桜、よ。私の1番好きな花・・・綺麗でしょう?』
『うん、ちれい・・・』

『うふふ、類可愛い!』
『しゃくら、ちれい・・・』


・・・母さんが小さな俺を抱いて自宅の庭に居る夢だ。
またこの夢を見てる・・・この季節になると毎年母さんが現れるな・・・



『あなたが産まれた時は凄く酷い嵐だったの。怖かったわ・・・もう、あなたに会えないんじゃないかって思うほど怖かった』
『今日も雨が酷いから思い出すの?』

『えぇ・・・雷は嫌い。だって私が頑張ってるのに、急かすみたいに光ってばかりで・・・あの時から本当に嫌いになったのよ』
『くすっ、母さん、怖がりだもんね。僕が守ってあげるよ。だから安心して?』

『まぁ!生意気言って!でも嬉しいわ、類』
『嵐が治まったらまた太陽が照らしてくれる・・・怖くないよ』

『ふふっ、類が横に居てくれたら何も怖くはないわ』


・・・まだ母さんが元気な時だ。俺が小学部に入ったぐらい?
この頃から母さんは嵐を凄く怖がり始めたんだっけ。自分に迫ってくる病魔の予感がしてたんだろうか・・・

稲光でカーテンが明るくなる度に俺にしがみついて離れなかった。
ちょっと恥ずかしくて嫌だったな・・・今思えばちゃんと抱き締めてあげれば良かった・・・



ここで類は1度目を覚ました。
この先の夢は見たくない、そう思うのに睡魔に勝てない。もう1度目を閉じると母、亜弓の笑顔が再び現れた。

だが、それはもう以前の母の姿とは違っていた。
青白く小さくなってしまった母の顔、痩せて細くなった白い腕には注射針が刺さっていて、その点滴から注がれる栄養分だけが彼女の命を繋いでいる状態。

医者の懸命の治療も彼女の病気を快方に向かわせることが出来ずにいた。



『・・・類、いる?』
『うん、ここにいるよ』

『また学校サボったの?ダメね・・・いけない子だわ』
『母さんの方が大事だよ。何か飲む?俺が飲ませてあげるから』

『ありがとう・・・お父様は?』
『さっきまでここに居たよ。でも会議の時間になったからって出ていった。母さんの好きなアイス、頼んでおいたから』

『まぁ・・・じゃあ夜には食べられる?楽しみだわ・・・』
『うん、一緒に食べよ?』



ここでハッと目を覚まし類は身体を起こした。
いつもここで夢は終わらせる・・・この後、母が亡くなるまでの辛い光景を夢に見ないために。



花沢物産社長夫人、花沢亜弓は類が生まれて10年後、病気の為にこの世を去った。
その葬儀は世界中から弔問客を集め、テレビ中継されるほど・・・その画面に映る黒い礼服の少年の悲しみに沈んだ瞳は、それを見た人の涙を誘った。

ただ、少年は涙を流さなかった。
立っているのがやっとの状態だったが、父の横に立ち参列者に頭を下げ、その唇は「ありがとうございました」と言い続けていた。


如何なる場面でも己の立場を忘れるな、と躾けられた類。
亡くなった母に縋り付いて泣きたいと思っても、それを許してはもらえなかった。




「・・・眩しいな。今、何時だっけ・・・」

夢で見た光景を早く忘れてしまおうと、類がベンチから立ち上がった時、校舎3階の窓から元気な声が響いた。


「花沢類ーーっ!またそこで昼寝してたの?私も行ってもいい?」



牧野つくし・・・唯一類が心を許している女性だ。





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2019/05/21 (Tue) 11:29 | EDIT | REPLY |   

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