FC2ブログ

plumeria

plumeria

類は返事もせずにベンチの前に立っていた。
つくしが降りてくる階段の方に目を向けて、その姿が現れるのを少しだけドキドキしながら待っていた。

そうしたら校舎の壁からひょいっと人懐っこい笑顔が現れ、真っ白い歯を覗かせて大きく手を振られた。
でも、それに応える類の手はただ挙げるだけ・・・それでもこの青年にとっては進歩した挨拶だった。



牧野つくし・・・歳は類よりも1つ下で、現在二十歳の大学3年生。

セレブリティな親たちを持つ子女達が集まる英徳学園で、数少ない一般家庭の子だった。
両親の強い希望で難関と呼ばれる英徳学園高等部に入学し、家庭環境や経済的な部分で幾度となく虐めに遭ってきた彼女だが、それに負けることなく持ち前の明るさと根性を武器に闘ってきた。

自分の事を「雑草」と呼び、何度踏まれても逞しく伸び続けるのだと・・・漆黒の力強い瞳で真っ直ぐ前を見る少女だった。


一方、類は大企業の後継者として厳しく育てられた上に、10歳にして最愛の母を失ったことから人付き合いは決して得意ではなく、むしろ苦手としていた。
『花沢物産』を見て近づく連中を嫌い、特に自分の容姿だけを見て寄ってくる女子生徒には露骨に嫌悪感を示してきた。

愛想笑いも出来ず、気の利いた会話をスムーズに行う器用さは持ち合わせていない。
説教めいた事も言わないし、お節介と言われる手も出さない。そんな類を幼馴染み達は理解しているが、その他の人間は近寄ることも出来なかった。


やがてつくしの前に虐めの首謀者となった道明寺ホールディングスの御曹司、道明寺司が現れる。

司も類と同じような環境で育った、ある意味では孤独な青年だった。
親は常に自宅を留守にし、姉と使用人だけで暮らす冷えきった豪邸は司にも充分な愛情を与えなかった。
本来の優しさやピュアな部分は表に出さず、攻撃的で我儘、何事も思い通りにしないと気が済まないと言った荒々しい部分をつくしに見せ、彼女を支配下に置こうとした。

それにも反発して虐めはエスカレートしたが、司の心の方がつくしの天然とも言えるパワーに負けて穏やかになっていった。時折見せる司本来の姿につくしも惹かれていき、幼くも激しい恋は始まった。


ただ、あまりにも違いすぎる環境からその恋には邪魔が多く、つくしの涙は虐められた時よりも多くなる。
それをそっと見守ったのが類・・・2人だけの『非常階段』という場所で彼女の悩みを聞くようになり、心の傷を癒やすオアシスとなった。

類もこの時、つくしの明るさと力強さに惹かれていった。
自分には無いものを持っているつくし・・・生命力に満ち溢れた彼女の温かさは、塞ぎがちだった類の心の扉も開いた。


類はつくしの心の中の蟠りを毎回静かに聞いてやっていた。
そして行き詰まった時は滅多に出さないその手を差し出し、つくしを暗闇から引っ張り出す・・・そんな2人だった。


司との恋に終止符が打たれたのはつくしが大学に進学して間がない2年前・・・お互いに納得し合って、彼女らしく前向きに終わらせた、辛くもあり幸せだった恋。
道明寺司はその後、アメリカに居住を移して2人は会うことはなくなった。


納得して別れても涙は止まらなかった。
そんなつくしを類は初めて抱き締めてやった。

自分の腕の中で震えながら泣き崩れたつくしを見て、類は母以外の女性で初めて「守りたい」という感情を抱いた・・・それも桜の季節だった。




一流ブランドの服ばかりが見えるこの大学の中を、今日も薄手のセーターにデニムのスカートと言った安っぽい格好で走ってくる。アクセサリーなんて何処にもなくて、髪の毛も染めていないサラサラの黒髪のままだ。

それを惜しげも無く風に靡かせてつくしは類が立っているベンチまでやって来た。


「お昼寝、終わった?あっ、しゃがんで!花沢類」
「え・・・なんで?」

「桜の花びらが髪についてる!しゃがんでくれないと取れないよ」
「いいよ、自分でするから」

類が片手を髪の中に突っ込んで無造作に動かすと、落ちていく花びらが1枚・・・つくしはそれを慌てて自分の手の中に入れた。

「なんで取るのさ・・・」
「いいじゃん!なかなか度胸ある花びらだよ?花沢類の髪の毛にしがみついてさ!」

「・・・ぷっ!変な牧野」
「はぁ?年中寝太郎の花沢類に言われたくないっつーの!」


小さなつくしの手の中に入れられた桜の花びら・・・それを彼女が捨てずにハンカチに包んだのを見て呆れて笑った。

薄いピンク色の花びら1枚をどうしようって言うんだろう?
そうは思うが、その答えが多分突拍子もない事で、いつものように自分には理解出来ないんだと類には判っていた。


その時にまたサーッと風が吹き、中庭の桜を揺らした。
もう殆ど残っていない桜の花びらは、ラストダンスを披露して類とつくしの横を通り過ぎる・・・その1枚が今度はつくしの髪の毛に引っ掛かった。

類がそれを取るのに苦労はしない。
20㎝以上もある身長差は、簡単につくしの頭のてっぺんの花びらを摘まんで取った。


「あれ、今度は私にくっついた?それも頂戴!」
「これも?・・・はい」

「ありがと!ふふふ、丁度いいや!」
「何が?」

「内緒!」



たったこれだけの会話だったが、類にとってはさっき見た母の夢を忘れさせる温かい時間だった。





にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村
応援、宜しくお願い致します♡
関連記事
Posted by

Comments 1

There are no comments yet.
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/05/23 (Thu) 17:49 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply