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plumeria

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「それで、あんた、俺になにか話があったんじゃないの?」
「・・・え?あぁ・・・うん」

「どうした?悩み事?」
「悩みって言うか・・・進路のことなんだけど」


そう言うとつくしの足取りは重たくなった。
そして数歩歩いたところで立ち止まり、深い溜息をつく・・・それを見て類は人差し指で上を指し示した。

これは2人だけに判るサイン。

高等部では非常階段だったが、大学では誰も来ない屋上の片隅に2人だけの秘密の場所があった。
「でも講義が・・・」、そう言うつくしに「どっちが大事なの?」と少し意地悪く言う類。

結局つくしは類と一緒に、屋上へと向かう階段を上がっていた。



そこの空気はコートヤードと違って、少しだけひんやりとした感覚を肌に残し、さっきのような甘い香りもしない。
つくしにはその風が自分の将来の厳しさを教えてるかのように思えて「冷たいね・・・」と呟いた。

端から見下ろせば少しは桜の花も見えるだろうが、こんな場面を誰かに見られるわけにもいかない。屋上中央にある貯水タンクの段差に腰を降ろして、そこの壁に凭れ掛かった。

類とつくし・・・2人の指定席だった。


真っ青な空の何処かで小鳥の囀りが聞こえる・・・暫くそんな声に耳を傾けながら黙ったまま。
それも数分過ぎた頃に類が再び問いかけた。

「それで・・・進路って牧野はどうしたいの?」


つくしはジッと空を見上げたまま、言葉を選らんでいるのか微かに唇が動くだけ。類はそれを急かすわけでもなく、彼女の準備が出来るのを待っていた。
急かしてしまえば本当の気持ちに嘘が入る・・・そんな気がするからだ。

類自身も急かされることを嫌う性格でもあった。
亡くなった母、亜弓がいつもそう言っていたから・・・。


『大事なことほどじっくり考えるのよ。焦って答えを出してはダメ・・・ゆっくりでいいの。
急いで焦って私みたいに人生を早く終わらせちゃダメ。ゆっくり時間を掛けてあなたの人生を楽しんでね・・・類』




「あのね・・・」と、漸くつくしの口から言葉が出た。
類は真っ直ぐ前だけを見てつくしの言葉を待った。

「本当はちゃんと会社に就職してお給料もらって、親にも恩返ししたいし自立もしたいって思うんだけど・・・」
「うん・・・」

「でもね、やっぱりアクセサリーデザイナーになりたいの。でも、それって・・・我儘なのかな」
「どうして我儘?」

「だってさ、そう言う仕事ってその人のセンスって言うか個性って言うか・・・認められなければダメでしょう?
自分の好きなものを好きなだけ作って売れるってもんじゃないから。下積みの時には殆ど仕事にならないかもしれないし、認められなきゃ大手企業には雇ってもらえないし。やっぱり夢で終わらせなきゃダメ・・・なのかなって考えたりするの」


もう1度「はぁっ・・・」と深いため息が漏れる。

つくしの家は裕福ではなく、むしろ両親は共働きでも生活していくのがやっとという収入しかない。幼い頃からそんな両親を見ているつくしには、それを親に言う勇気は出なかった。

両親が大変な思いまでして英徳に入学させたのにはそれなりの理由がある。金持ちの息子との恋愛からの結婚、それが駄目ならば一流企業への就職・・・それは彼女のプレッシャーでもあった。

道明寺との恋は大きな期待を持たせたのに破局となり、その時には納得していた本人よりも親の方が落ち込んだ。
それなのに今度は企業への就職も捨てて自分の夢を貫こうとしている・・・それが罪のような気がしてつくしは思い悩んでいた。



「それを叶えるための方法、調べた?」

「う~ん・・・宝飾品のブランドのそういう部門か宝石加工会社が就職先らしいけど求人は殆ど無いの。そういう所には既に専属のデザイナーさんが居てね、新人には狭き門なんだって。
でもね、そこだとお客さんの注文で作ることが多くて、自分で好きにデザインしたものを買ってもらえる訳じゃ無いみたい。ブランドのイメージも壊せないからね・・・」

「牧野は自由に作りたいの?」

「うん。どっちかって言うとそうかな・・・。私が自由に作ったものを気に入ってくれた人が大事にしてくれたら嬉しいな・・・って思う。そうなると今度は独立って事でしょう?それは無理・・・お金も無いし、すぐに収入には結びつかないし。
でもね、ずーっと先でもいいから自分のお店を持ちたい。都会のド真ん中じゃなくていいし、小さくても構わないから自分の作品をお店に並べたい・・・それが夢なの」


「・・・夢・・・か」

「花沢類?」


夢・・・類にはそれ自体を望む事が出来ない立場だった。

夢など持つことすら許されない、決められた道が用意されている。
父・聖司の後を継いで花沢物産という大企業を背負って行かなくてはならない・・・類にはそれを拒否することも許されず、自らの意思とは関係なくその道を歩かなくてはならないのだ。


だが、学生もあと1年という今になって、類にも小さな「夢」が生まれていた。
彼もまたそれを誰にも言えず、自分の胸にしまい込んでいた。

恐らく自分の夢は一生叶えられることはないだろう。
それならつくしの夢は何とかして叶えてやりたい、そう思った。自分が恋人なら、それが次に浮かんだ言葉だった。


「あいつはなんて言ってるの?」

「・・・ははっ、馬鹿じゃないのって言われたよ。現実を何も判って無いって、笑いながら怒られちゃった。あの人は社会人だからね、私の甘さが許せなかったんじゃないかな?判ってるつもりなんだけどなぁ」

「夢を馬鹿だと笑うヤツは嫌いだ」
「・・・えっ?」

「あ、ごめん。あんたの彼氏なのに・・・言い過ぎた」



夢を馬鹿だと笑うヤツ・・・類はつくしの夢を嘲笑う仙道の事が許せなかった。





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2019/05/26 (Sun) 13:10 | EDIT | REPLY |   
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2019/05/26 (Sun) 18:14 | EDIT | REPLY |   

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