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plumeria

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屋上から降りてくると、今日最後の講義は出席しないと不味いとばかりに教室に足を向けるつくし。
「じゃあ、また!」と片手をあげて数歩走り出した所で足を止め、類の方に向き直った。

類も反対方向に歩き出していたのに同じく足を止め振り返る。言葉も交わしていないのに彼女の行動が判るかのような感覚は、類本人にも「自分の中の謎」・・・ミステリアスな部分だった。
だからという訳ではないが、いつものように無表情に戻ってしまった類に、つくしは無邪気な笑顔を向けた。

「聞いてくれてありがとう、花沢類。よく考えてみる・・・また、聞いてくれる?」
「うん、このぐらいしか言えないけど」

「ううん、嬉しかった。この大学だけは辞めちゃいけないってずっと自分に言い聞かせてきたの。辞めることは罪なんだって思ってたから、そうじゃないって言ってくれたのは花沢類だけだから」

「誰かの夢を摘み取ろうとすることの方が罪だよ。思ったように進みな?あんたにはそれが出来るんだから」

「・・・花沢類?」


自分と比べて羨んだ訳ではない。
類は自分の宿命を受け入れている・・・生まれた時から定められた道のりを歩まなくてはならないのだと理解している。
コントロール不可な部分、それはどうしようも出来ないのだと。

自分でアクションを起こせば変えられるという運命・・・それも変える事は出来ないのだろうと中半諦めていた。


「金銭的に困ってるなら助けることは可能だけど、あんた、嫌なんでしょ?」
「うん、それは困る。自分の力で頑張りたいって言うのは変わらないよ」

「くすっ・・・出世払いでもいいけど?」
「えぇ?それはプレッシャーだよ~!出世出来なかったらどうするの?」

「冗談だよ。それは・・・あいつが許さないだろ?」

「・・・そうかもね」


つくしは類の最後の言葉に顔を曇らせ俯いた。
数秒の沈黙の後、パッと顔をあげ「今度こそバイバイ!」と白い歯を見せて、類に背中を向けるとカラーブロックの通路を走って行った。





つくしから夢の話を聞いた類は、その日横浜の水族館へと車を走らせた。
そこは彼が幼い頃に母とよく訪れた思い出の場所で、今でも思い悩む事があれば足を運ぶ場所でもあった。

車を降りると真っ直ぐに向かうのはイルカが見られる水槽。
そこはアーチ状になっていて、イルカたちを下から見ることが出来る。

普通は幻想的だとか、ファンタジー空間だとか言われるのだろうが、類にとっては「友達」の住まいのようなものだった。


そこには類が来ると必ず寄ってくるカマイルカがいる。
名前は「ルイ」・・・偶然にも同じ名前を持つ友達なのだ。

今日もその水槽の中を歩くと奥の方からルイは現れた。そして類が立つ場所まで来るとそこで動きを止め、暫くお互いの目を見つめている。
勿論テレパシーなどある訳もない。それでも類とルイはお互いの存在が「友達」だと信じ込んでいるかのようだった。


「・・・今日も来ちゃった。元気そうだね」

誰にも聞こえないような小さな声で話し掛けると、ルイもその場でクルリと回って元気であることをアピールする。それを見て微笑む類はキャンパス内を歩く彼とは同一人物とは思えないほど穏やかな表情になる。

そして類は水槽に映る自分の姿の横に、母の姿を思い出す。
その時にも目の前にはルイではないがイルカが必ず来ていた。そしてやはりジッと目を見つめて「心の会話」をした記憶があった。



『まぁ、類の事が好きなのかしら?ほら、目の前に来たわよ?こっちを見てるわよ?』
『・・・もう少し広いところで泳ぎたいんだって』

『あら!イルカとお話しが出来るの?』
『判んないけど・・・そう言ってる気がするよ?ママには判らない?』

『・・・残念、ママには聞こえないわねぇ。類にだけ判るのかもよ?』
『・・・この子、悲しいんだって。お母さんと別れたんだよ・・・ここでは独りぼっちなんだって』

『類?そんな事までお話出来るの?凄いわね、羨ましいなぁ~』



母はそんな類の言葉を「おかしい」とは言わなかった。
勿論類も嘘をついたわけではない・・・そんな気がしたので言葉に出したのだ。
その時のイルカの目が「悲しい」と彼に訴えた、亜弓はそれを決して否定しなかった。類の感受性だと信じて受け入れられる、彼女もまた心の広い人だった。

ただ、同じ事を父に言うと「馬鹿な事を!」と声を荒げて相手にしない。
グローバル企業という一種戦場のような場所で、世界を相手に日々闘う聖司・・・彼にはまだ幼い息子の空想物語には興味もないと言った感じだったのだろう。


『パパは僕の事が嫌いなんだ・・・』
『そんな事はないわ。あなたが産まれた時には凄く喜んで優しいお顔してたのよ?』

『でも、僕がイルカの事を話しても聞いてくれない・・・』
『あぁ・・・どうしてかしらねぇ。お父様は水族館が嫌いなのよね・・・それはママにも判らないわ』

『水族館が嫌いなの?僕じゃなくて?』
『勿論よ、類・・・あなたは私達の宝物ですもの』



人工的に作られた真っ青な水槽・・・ここから見上げると、水の向こう側に太陽が揺らめいて光を少し和らげている。
ルイは1度上の方に泳いで行ってしなやかな泳ぎを類に見せ、再び目の前に戻って来た。


「あら、こんにちは!今日もこの子とお話し中?」

類がアクリルガラスに触れてルイとのコミュニケーションを取っていると、不意に声を掛けてきた女性がいた。
ここの従業員でイルカの訓練士の真田瑞希。

類より2歳年上の女性だ。





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2019/05/29 (Wed) 23:03 | EDIT | REPLY |   

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