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plumeria

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「今日もこの子とお話し中?」

少し甘ったるく高めで、男性ウケしそうな声。
着ているものこそ作業着のツナギだが化粧もきちんとしているし、明るく染めた髪のサイドを編み込みにしてのポニーテールという姿は他の従業員とは少し違って見えた。

顔立ちも美しく、彼女が何故水族館でツナギでいるのかを疑うぐらいの風貌だ。
声と姿と仕事内容が酷くアンバランス・・・始めて彼女を見る人はそう思うだろう。


類が彼女と初めて会ったのは3年ほど前。
大学で海洋学を学んでいた彼女がインターンシップを利用してここの水族館で働き始めたのがきっかけだった。
類から話し掛けた訳ではないが、好奇心旺盛な瑞希がずっと1箇所で1頭のイルカと向き合う姿に興味を持ち、言葉を掛けたのが始まりだ。

元々は海洋生物専門の獣医師になりたかった瑞希だが、直接イルカたちと触れあう調教師に切り替えたと笑いながら話した姿は何処かつくしに似ていると感じた。
獣医師ならば年収は800万円から1000万円程度見込めるのに対し、契約社員の調教師は300万に届くだろうかという程度。
その差を惜しんだりせずに自分の好きな方を選べる「自由」を類は羨ましく思った事もある。

ただ他人に自分の内面を見せない彼は「花沢」の名前を口に出さなかった。
瑞希に教えたのはこのカマイルカと自分の名前が同じだという事・・・それだけだった。



「ふふっ、あなたが来るとルイが喜ぶわ。不思議ねぇ・・・この子は人見知りだからショーにも向いてないのに」

「・・・ショーなんてしなくてもいいでしょ。この子がしたい訳じゃないんだから」

「あはは!まぁそうだよね。人間が無理矢理教え込んで商売に使ってるんだもんね。そう言う事が好きな子もいるけどね~」

「それでも迷惑な話だよ。本当の居場所はここじゃない・・・この子は訴えてるんだよ」

「・・・そうかもね。でも、連れて来られたんですもの・・・それがこの子の運命かもしれないわ。
私の仕事はそんなイルカ達に少しでも新しい住処が楽しい場所だと思ってもらえるようにする事・・・そう思ってるのよ」


素っ気ない類の言葉にも優しく笑って答える瑞希は流石年上と言った感じだ。
「沢山話してあげてね!」と、大きなバケツとデッキブラシを持って、バックヤードに消えて行った。

途中、すれ違った子供からは「あっ!ショーのお姉ちゃんだぁ!」と声を掛けられ、「見てくれたの?ありがとう!」と人懐っこい笑顔を見せている。
類はそんな彼女の後ろ姿をほんの少しだけ歯痒い思いで見つめていた。



連れて来られた場所が楽しい場所だと思えるように・・・その言葉を自分に重ねてしまうからなのかもしれない。

生まれ育った家を楽しいと思えたのは母が生きていた時だけ。自分の家の中に居ても何処か居心地の悪さのような、仮住まいのような感覚を拭い去ることが出来ずにいた。


誰でもいい・・・あの場所から自分を連れ出してくれないだろうか。
そう思う時、類はここに来てルイと心の会話をする・・・そして必ず脳裏にはつくしの姿があった。



「・・・そんな目で見なくてもいいよ。彼女には恋人が居るからね・・・判ってるよ、ちゃんと」

ルイはその言葉の後でクルリと向きを変え1度逃げていった。それでも再び戻って来て類の前で止まり、顔を傾けるような仕草を見せた。

「くすっ、意地っ張りって?仕方ないだろ・・・彼女が選んだんだから」


この日の会話はここまで・・・類が水族館を出る時、別れを惜しむかのように激しく泳ぐルイの姿があった。





自宅に戻ると珍しく父、聖司専用の車がガレージにあった。
こんな早い時間に帰ったのか・・・イレギュラーな行動に違和感を覚えながら自分の車をその隣に停めると、足早に玄関に向かった。
こんな時には決まって自分にとっても嫌な話を持ち込まれる、既に扉を開ける時から気が重たかった。


案の定、リビングでは父がパーティースーツに着替え、再び外出しようとしている所だった。
背格好はほぼ類と同じで、その歳に似合わず若々しく精悍な顔立ちの父・・・誰が着ても同じだと思えるスーツでさえ、父が着るとスタイリッシュで上品に感じた。

ただし、それは類にとっては威圧的で緊張させるものでもあった。


「・・・なんだ、今帰ったのか」
「はい。少し寄り道をしていたので・・・」

「大学の事はいいとして、今後について真剣に学んでいるのか?」
「考えていますよ。それしか選びようがないのですから」

「相変わらず生意気な事を言うのだな、類。まぁ、自覚があるのなら今日は私と出掛けるか?そろそろこう言う世界にも正式に顔を出してもいいだろう。むしろ遅いぐらいだ」


ピクッと眉を寄せる類に聖司は今日の行き先を伝えた。
花沢物産と古くからの付き合いがある鳴海商事の創立記念パーティーであり、そこの会長、社長の一族が集まるらしい。その中には美しいと評判の令嬢も居て、歳は類の1つ下だから「顔見知りになって損はあるまい?」と。

度々出されるこの手の話題が1番苦手で面倒だった類にとっては迷惑なだけであり、勿論その気もないのだから逆に思わせ振りな対面をする方が失礼だろう・・・それをため息1つで父に示した。


「・・・そんな無愛想な顔しか出来ないのなら止めておくか。だが、いつまでもそんな子供染みた逃げ方が通用すると思うなよ?お前は花沢家の跡取りなのだからな。自由な時間はそろそろ終わりだと判っているだろうに」

「自由・・・そんなものありましたっけ?」

「まだ何も知らないのだよ、お前は」


数人の秘書を従えて屋敷の玄関に向かう父を見ることもなく、類は背中を向けて自分の部屋に戻った。






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