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plumeria

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「お疲れ様でしたぁ!」

大学のすぐ近くにある喫茶店の午後7時。
つくしはそこのバイトを終えて、元気よく裏口のドアを開けた。4月のこの時間の空はもう半分以上が濃紺色に変わっていて、小さな星も見える程だ。
それを見上げながらつくしは早足でバス停に向かった。


つくしのアパートは都内ではなかなか見付からないほどの格安な物件で、当然ながら古くて狭い。
とても女子大生が住むとは思えない外見で、ましてや英徳大学の生徒が借りるような部屋ではなかった。

それでも彼女にはそれが精一杯。
親を頼らずに暮らすにはやむを得ない選択であった。


バスに揺られること十数分、つくしは最寄りのバス停を降りたらまた早足でアパートに向かった。
普段、天気も気分も良ければ歩いて帰ることもある道だったが、今日は特別・・・つくしにはやりたい事があった。だから走りながら自分が笑ってることにも気が付かず、鈍いベージュに変色した壁を目掛けてスピードを上げた。

剥き出しの階段を上がって自分の部屋のドアノブに古臭い銀鼠色の鍵を差し込んでガチャっと開け、勢いよくドアを開けたら誰もいないのにクセで出てしまう「ただいま!」。
そしてすぐに鞄からハンカチを取り出した。


「傷、付いてないかなぁ・・・?」

小さな声でそんな事を呟きながらハンカチを広げると、そこには昼休みに類の髪の毛から取った桜の花びらがある。
そして別の隙間には自分の髪にくっついた同じ色の花びら・・・それをテーブルに出したら、今度は道具一式を持って来た。

「よし・・・!傷は付かなかったわ。ふふっ、どれと組み合わせようかなぁ・・・」


つくしがテーブルに出したのはUVレジンと呼ばれる、日光やUVライトなどの紫外線に当たると固まる液体状の透明樹脂。
これで花びらをアクセサリーに加工しようとしているのだ。

作ろうとしているのは花びらが2枚だからピアス。
桜の花びらの他に何かを加えて自分だけのオリジナルアクサセリーにする・・・類の髪から取った時から真っ先に考えたことだった。

「形は・・・うん、やっぱり雫型かな?あっ!星の砂があったよね?あれを加えようかな・・・」


つくしがなりたいアクセサリーデザイナーの仕事とはほど遠いが、これも彼女の趣味の1つ。
むしろこう言うアクセサリーを作る方が得意ではあった。

レジンアクセサリーを身に付ける人と自分の生活スタイルが似ているからかもしれない。豪華で華やかな宝飾品を生み出すよりは
自分に合ってると考えてしまう。
問題は収入面に大きな開きがあると言う事・・・だから、これはあくまでも趣味なのだと自分に言い聞かせていた。



テーブルの上に並べられた数々の道具類。
細めのハサミに綿棒、手で触ることが出来ないからピンセットは必需品だ。硬化したレジンにアクセサリーパーツをつける為のピンバイス、パーツを処理する時のニッパー等々。

そしてつくしの中では贅沢品のUVライト。これを買う時には1ヶ月以上も悩んだのだが実は5000円程度・・・それでもつくしにとっては手痛い出費なのだ。



固まったレジンを簡単に取りはずせる透明なモールド(型)に雫型を選び、それに薄いピンク色に着色したレジンを少し流し込む。
これに桜の花びらをのせてその周辺に星の砂をパラパラと落とす。
その上からまたレジンを追加して小さな白のパールを入れる・・・また少しレジンを流してからUVライトを数秒間当てて仮止め。

裏側から花びらの位置と星の砂のバランスを確認して、最後にモールドの淵ギリギリまでレジンを流し込み水平になったら再びライトで照射して固める。

この作業を2回繰り返して左右のピアスを完成させる。
仕上げにピンバイスで丸カンを通す穴を開け、金具を取り付ける。


「出来たぁ!!うふふ、可愛い!」

出来たてのピアスをテーブルに並べ、つくしは今日の出来事を思い出していた。

類を廊下から見付けた時の胸の高鳴り。
平静を装いながら駆け寄った彼の元・・・風に舞う桜の花びら。
自分の髪の伸びた類の手、並んで歩いた廊下・・・聞いて貰った自分の夢。

最後に笑ってくれた優しい瞳・・・・・・『思ったように進みな』、ぶっきらぼうな類の言葉。


「右側が花沢類の桜・・・左側が私の桜。えへへ、今日の記念だ。大事にしようっと!」


ピアスを耳にあてて鏡の中を覗き込み、そこに揺れる薄ピンクの雫に目を細めた。この感情が何を意味するのか、つくしは判っているけれど認めるわけにはいかなかった。

2度と同じ思いはしない・・・そう心に決めているから。



出来上がったピアスをハンカチの上に乗せて小さなタンスの上に置き、つくしは散らかった部屋を片付けた。
そしてこんなに時間が経ってから自分が何も食べていないことに気が付き、急いで冷蔵庫を開けてため息・・・僅かな食材しかなくて、どうしたらいいものかとここで初めて首を捻る始末だ。

「仕方ない!非常食を出すか・・・!」

最悪な時の為に買い置きしているカップ麺。
困った時にしかそれに手を出さないのだが、今日はその「困った時」だと、つくしは湯を沸かし始めた。


その時、ハッと玄関に目をやったつくしの表情が曇った。

自分の部屋に向かってくる足音が聞こえていたからだ。




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2019/06/04 (Tue) 07:21 | EDIT | REPLY |   

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