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plumeria

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次の日の午前中、類は特に受けなくてはならない講義がある訳でもなかったが大学のキャンパスを歩いていた。


自宅には昨日遅くに創立記念パーティーから戻った父がまだ休んでいる。
顔を合わせれば、また余計な話が持ち込まれそうで鬱陶しかった。

どこの企業が花沢にとって有益なのか、企業家達の性格分析や経営戦略などを延々と話されても興味を持って聞くことは出来ない。返事をすることは出来ても本心かと言われれば違う。
その場で父に合わせた「都合のいい答え」しか出せないことを知っているからだ。

しかも父はそんな類の気持ちにはすぐに気がつく・・・親子であるにも関わらずお互いに真正面からぶつかることをせず、何故か遠回しに相手を探り合ってるようで居心地が悪い。
特に母が亡くなってからは類と父には目には見えない大きな壁が有り、どちらもその壁を壊そうとしない。

遠慮でもない。拒絶でもない。
掴み所のない違和感・・・どうしてそう思うのか、類にも判らなかった。


朝っぱらからわざわざ険悪な雰囲気になるぐらいなら会わない方がいい。
一時期の無駄な抵抗だと思いつつ、類の目はキャンパス内でつくしの姿を探していた。



つくしは講義の空き時間、よく図書室で自習をしていた。
何度かそこで見掛けたから行ってみると、1番窓際の彼女の指定席にその姿があった。

外の通路から彼女を見付けると、ホッとして気が付かないうちに口元が緩む。
今日も飾りっ気のないストレートの黒髪で、リボンもフリルもない無地のブラウス。遠目に見るつくしはどう見ても幼くて大学生には見えなかった。

左肘をついてその手の平に顔を乗せ、膨れっ面で右側に置いた何かのページを捲っている。時々右手に持ったシャーペンで頭を掻きながら眉に深い皺を寄せる。
そして机に伏せた・・・判らない箇所でもあって悩んでる、それが手に取るように判る仕草で類は思わず噴き出してしまった。



校舎に入り図書室に向かうと、つくしに一番近い入り口から静かに入って行った。

幸いそこまで人は居ない。この英徳大学では殆どの学生が卒業するという事に対しては困らないから、講義の空き時間にまで勉強する者は余り居ないのが現状だった。
それだけ将来を約束された人間が多い大学なのだ。

「英徳大学卒業」・・・この言葉がある意味では彼等のステータス・シンボルなのである。



類はまだ机に倒れ込んでいるつくしの傍に、足音を忍ばせて近づいて行った。
そしてゆっくり耳元に唇を近寄せ・・・ほんのり漂うシャンプーの香りにドキッとしながら囁いた。

「・・・何か悩んでるの?」
「うわあっ!!あっ・・・やだ、大声出ちゃったじゃん!」

不意に囁かれた声にウサギのように飛び跳ねて身体を起こす、その予想外の動きにも笑いが出て類は自分の口元を押さえ込んだ。
つくしはと言うと、今の声で誰かに怒られやしないかと参考書で顔を半分隠しながら辺りをキョロキョロしている。
それもまた可笑しくて、肩を揺らしながら彼女の前の席に座った。


「大丈夫、そんなに人は居ないよ」
「・・・驚いた!もうっ・・・凄く真剣だったのに!」

「真剣だった?伏せてたじゃん」
「伏せてたけど考えてたの!もうすぐ特待生だけの試験なのよ」

「あぁ、そう言えばそんなのがあったね」
「・・・そうなんです。いや、本当はもう少し先だけどバイトもあるから早めに勉強しないとね」


自分の進路に悩みはあっても次々に来る試験をつくしはクリアしていかなくてはならない。
特に年に数回ある「特待生資格保持試験」は彼女にとって絶対落とせないものなのだ。ここで認定されなければ枠から外されて学費が発生する。
そうなれば払えないつくしは自然と退学となり、大学を去らなくてはならない。

確かに自分の夢はこの大学にはないのだが、昨日類に話を聞いてもらったからと言って急に試験放棄する訳にもいかない。
彼女も前向きに取り組めない試験に苛立ちを覚え、文字が素直に頭に入らない状態なのだ。


「はぁ、少しだけ休憩!花沢類は何しに来たの?卒論の仕上げ?そもそも卒論ってどんなテーマなの?」
「寡占市場のシェア拡大のための効果的なマーケティング戦略について」

「・・・聞いた私がバカだった。何の事かさっぱりだわ」
「くすっ、でしょ?」


つくしが顔をあげて大きく背伸びした時、類はそこに光るものを見付けた。
彼女の耳の下で揺れた桜色・・・雫の形をしたピアス。

つくしも類が何かに驚いてる事に気が付いて「は?」と変な声が出た。


「それ、初めて見る・・・」
「それ?あっ、こ、これ?気が付いたの?」

「うん・・・桜?」
「昨日の花びら!驚いた?部屋に帰ってから作ってみたの。レジンアクセサリーって言うんだけどね」

「レジンアクセサリー?自分で作るの?」
「そうだよ。こう言うの好きなの。花びらも地面に落ちちゃうと傷が付いてるものが多いからさ、昨日のは貴重だったのよ?」

「だから丁寧にハンカチに包んだの?」
「えへへ・・・まぁね」


自分でピアスを揺らして頬を染めるつくし・・・類には窓から差し込む日差しよりも眩しかった。



「よし!気分転換になったわ。もう少し頑張ろう!」
「そお?じゃ・・・俺もここで本読んでいい?」

「どうぞ。私も判らないところがあったら聞いてもいい?日本語教育学なんだけど」
「いいよ、判る範囲でね」


類が机に持って来たのは「海洋生物学」・・・つくしはそれを不思議な気持ちで見ていた。
経済学部の彼に似つかわしくない選択に思えたからだ。

それでも真剣にその本を読む類に今度はつくしが釘付け・・・また頬杖ついたまま参考書のページが変わらない。窓から差し込む日差しで彼の髪が余計に茶色く光るのにも目が行ってしまう。

心ここにあらず・・・これでは自習にもならない。
いつの間にか口に咥え込んでいたシャーペンの先・・・それをチラッと横目で類が見てしまった。


「あんた、試験勉強してんの?」
「はっ!忘れてた!」

「・・・・・・ぷっ!」





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