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plumeria

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もうすぐ次の講義の時間になる。
つくしが腕時計をチラッと確認したのを見て、類も珈琲カップをテーブルに戻した。

穏やかな時間ならもっとゆっくり過ぎればいいのにと思うが、そう言う時間こそあっという間に終わってしまう。類が漏らした小さなため息はつくしに届いたのかどうか・・・つくしの目はもう窓の外に向いていた。

その時、再び類の目に入った桜のピアス。


「ねぇ、牧野」
「ん?なに?」

「そのピアス・・・レジンだっけ、なんでも出来るの?」
「なんでも?生もの以外だったら出来ると思うよ?私はやったことないけど切手とか写真とかもカビ防止みたいな薬品を塗ったら作れるんだって。どうして?」

「作って欲しいなって思って」
「・・・花沢類に?」


つくしは類の突然の依頼に驚いた。
アクセサリーを全く身に付けない訳ではないが彼は総二郎やあきらのように自分を飾ることはなく、つくしが知る限り左耳のピアスだけ。
派手なネックレスやブレスレット等が類の肌の上で光ったのを見た事がなかった。

しかも身に付けるのならば当然ブランドの特注品だろう・・・そう思うのにレジンアクセサリーが欲しい、それをすぐに信じることは出来なかった。
でも類は安っぽい趣味を笑うような人ではない。それも知っていたから尚更戸惑った。


「どうしてそんな顔すんの?ダメだった?」
「ううん、そうじゃなくて本当かなって思って。だってさ、金とかプラチナとか使わないよ?しかも私の手作りだよ?」

「・・・だから頼んでるのに。俺の希望のもので作れるんでしょ?」
「まぁ、そうだけど。くすっ、どんなのがいいの?」

「・・・色は深い海の色。そこに貝殻・・・う~ん、なんだろ・・・小さなスターフィッシュとか入れてさ」
「へぇ、じゃあ材料探しからだね。私は星の砂しか持ってないの。だから海に行かなきゃ、だね!」

「うん・・・自分で探そうかな。牧野、一緒に行こうか?」
「・・・・・・いいの?」


そこまで話した時、カフェに学生達がガヤガヤとやってきた。
それを見てハッとする2人・・・次の講義が始まる時間になっていた。

つくしは慌てて席を立ち、類に「ご馳走様!」と言って自分のカップを持ち、鞄を肩に引っ掛けた。類はそれを見て「転けるなよ?」と笑う。でもカフェを飛び出そうとした足を止め、つくしは類の隣まで戻って来た。
そして「日にちが決まったら教えてね!」・・・そう言うと、髪を翻して今度こそ掛け出していった。




「きゃああぁーっ!海だって!何処の海だろうーっ!」

学生達の行き交う中を、そんな事を叫びながら走って行くつくし。
本来の目的は彼のアクセサリー素材を選びに行くというのに、頭の中はその日に着ていく服の事でいっぱい。
持ってる服では可愛くないので新しく買いに行こうかとまで考えながら、頬を真っ赤にして自分が行くべき教室を通り越したことにも気が付かなかった。

「うわぁっ!ここ何処よ?」

立ち止まってキョロキョロ周りを確認し、今来た廊下を戻って行った。




つくしが居なくなったカフェでは類が1人でスマホを弄くっていた。
調べていたのは『ルリガイ』・・・美しい青色の薄い殻を持った貝だ。自分で泡を吐き出して、それにぶら下がって沖合を浮遊しながらギンカクラゲやカツオノカンムリ等の青色のクラゲを食べて生活をする。

殻が余りにも薄いためにサクラ貝同様、完全な形で取れる時は希で、海水浴シーズンだと殆ど踏み潰されてしまう。
だから拾いに出掛けるなら春か秋の早朝がベストだ。


「・・・でも、無理かな。あいつが知ったら牧野が辛いかも・・・」

それまで見ていたルリガイの画像を閉じてスマホもテーブルに置いた。
そして誰も居なくなった前の席を眺めて、さっきまでの笑顔を思い出していた。



「よっ!類。こんな所で何してんだ?1人か?」
「こんな時間に大学に現れるなんて珍しいな」

急に真横から声が聞こえて、類が思いを馳せていた席に遠慮なく座ったのは総二郎とあきら。
それまでつくしの事を考えて眺めていた場所に侵入してきた幼馴染みを、類は不機嫌そうに睨んだ。でもそれも一瞬の事で、今までここで何をしていたかなんて事は説明する気もない。

だから「別に・・・」などと返事らしい返事もせずに、残り少なくなっていた珈琲に手を伸ばした。


「そう言えばさ、類の親父さん、今度はデッカい事業に参入するんだな」
「デッカい事業?なにそれ・・・」

「お前の所の話だろ?知らねぇのかよ!海底油田開発らしいぜ?」
「・・・海底油田ね。そんな事言ってたっけ・・・」

「うわ・・・今から始まる事業ならお前が花沢に入る頃には本格稼働だろ?知っとけよ!」
「メキシコ湾 だって聞いたぞ。あそこは凄い数の油田施設があるけど、もっと深い所には手つかずの地層があるんだそうだ。そこには130億バレル近くが眠ってるらしいけど、古すぎる地層で固いからすぐに断裂するらしくてさ、掘削自体相当難しいらしい」

「・・・ふぅん、大変そうだね」
「お前んとこだよ!」


幼馴染みから自分の家の事を聞いても、何故か他人事に聞こえる。

自分が将来そんな事業に参加して指示を出したりする姿を想像出来ない。
数字で埋め尽くされた書類を見る毎日が信じられない。自分の居場所はそこだろうか、と類はこの頃強く感じるようになっていた。


『そうじゃない・・・そこじゃない


誰かが自分にそう言ってる気がしていた。




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2019/06/11 (Tue) 06:31 | EDIT | REPLY |   

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