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plumeria

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遅咲きの桜でさえ全部咲き終わって、新緑が目に眩しい4月の終わり。

つくしからの呼び出しを受け、例の屋上で類は寝転んで彼女を待っていた。
柔らかな風の音に混じってリズミカルな足音が聞こえてくる・・・それが判った瞬間類の口元は軽く緩む。

そして転けないかな?と思ったところで本当にリズムが狂って大きな音がしたら、我慢出来なくて口を抑え込んで笑った。

やがて重たく鈍い音がしてドアが開き、片足を引き摺りながら「いたたた・・・」と眉を顰めたつくしが現れた。それを見た瞬間、さっきまで笑っていたのに今度は心配になって、つくしの元に駆け寄り片手を差し出した。

それに掴まってヒョコヒョコと左足を浮かせ、足首を摩ってる。
たった今の出来事だから瞬時に腫れたりはしていないようだったけど、左手の小指まで汚れているのを見たら、かなり派手に転けたんだと想像出来た。


「大丈夫?階段踏み外したの?」
「あはは!判る?踏み外しただけならいいけどさ、その後転げ落ちたのよ。5段ぐらいだけど」

「はぁ?転げ落ちたって・・・捻挫した?」
「こんなの少し休めば大丈夫だよ。ほら!ここに上がる階段ってさ、最後のほうって薄暗いじゃん?足元灯って言うの?付けてくれたらいいのにね!」

「・・・屋上なんて普通、誰も行かないからじゃない?」
「そ、そうか!」


ここで抱きかかえていつもの場所まで連れて行こうか、そんな事を考えたがつくしの方にその気配はなく、右足に重心を置いて笑いながら歩いている。
何となく支えてるのが手の平だけだと言う事がもどかしかったが、恋人のいるつくしにそれ以上の事が出来なくて類は下唇を噛んだ。

そして段差に腰を降ろすと「行儀悪くてごめんね~!」と言いながら左足を右の太股にひょいっと乗せて足首の確認・・・今日はジーンズだったからそんな事も気易くしてしまうつくしだったが、類はそんな仕草にもドキッとしてしまう。

何故なら自分の足首を確認しようと前屈みになったつくしのTシャツの胸元が少しだけ見えてしまうから・・・。
瞬間、自分の頬が熱くなったのを見られなくなくて、頬杖をつくフリをして自分の熱を隠した。それでもつい向けてしまう視線・・・彼女のクリーム色のブラが視界に入ると慌てて空を見上げた。

「頼むから他の男の前でするなよ・・・」、そんな呟きはつくしの耳には入らない。


「はぁ・・・やっぱり少し赤くなってる。バイトまでに痛みが引くかなぁ・・・」
「後で医務室行って湿布もらえば?急激に腫れて熱を持たなければ骨折じゃないだろうし」

「うん、そうする・・・転けた場所は嘘つかなきゃだね!」
「くすっ・・・だね。それで何の話?」

「あぁ!そうそう、試験無事に終わったの。特待、今回は維持出来たから次は夏休み前・・・一応その報告とさ」
「そう・・・良かったね。それと?」


「・・・海、いつ行く?」


その言葉を自分で出しておきながら、今度はつくしが真っ赤になっている。
こんな場所に呼び出しておいてその話?と、類は驚いてつくしの目をジッと見た。

つくしの真剣な目付きに赤らんだ頬、何故か拳になってる両手・・・全身を緊張させてるから可笑しくなって類は噴き出した。


「なんで笑うの?!だって花沢類が行こうって言ったよね?ネックレスの材料探しに自分で行くって言ったよね?」
「ぷっ!あははは!うん、確かに言った。言ったけどさ、そんなのド真剣に約束するものなの?あんたが空いてる時でいいのに。俺は基本、いつでもいいんだから」

「だ、だって!支度とかさ、考えるじゃない?天気とか、道具とか・・・」
「天気は兎も角、道具なんて何にも要らないでしょ?支度だってお洒落したって誰も見ないし」

「そ、そうだけど!でも、でも・・・いつにする?」
「くくく・・・あんたってホント面白いよね。じゃあ・・・今度の連休の最終日とかは?バイト、入ってる?」


ゴールデンウィークの最終日をスマホ画面に表示させて類はそこを指さした。
勉強もバイトも随分前から予定がいっぱいのつくしにはいきなり明日、なんて言う事は出来ない。だから余裕を持った最終日を選んだだけのこと。

つくしも自分のスマホを出してスケジュールの確認・・・「うん!その日なら大丈夫!」と笑顔で返事をした。


「じゃあ5月6日ね。時間はまた連絡する。朝早いほうがいいんだけど大丈夫?」
「うん!朝早いのは平気。慣れてるから」

「ん、じゃあその日にね。お洒落するなよ?汚れるだけだから」
「うん、判った。でもお洒落するにも何も持って無いけどね。花沢類が知らない服なんて多分無いと思うよ?」

「ぷっ!」



「ねぇ、花沢類」
「・・・ん?」

「私、もう少しここで休んでから医務室に行く。先に教室に戻っていいよ」
「・・・判った」


つくしの言葉の意味は、自分に支えられて階段を降りる姿を誰かに見られては不味いと言う事・・・そう理解した類は黙って彼女の言う通り、先に腰を上げた。
「降りる時は気をつけろよ?」と軽く頭を小突いてつくしの前を通り過ぎた。

そして薄暗い階段の踊り場で、確かに誰かの手の跡らしきものを埃の中に見付けて苦笑い・・・振り向いてドアを見つめたけど、そこがすぐに開くことはなかった。




ゴールデンウィークの終わり頃。

類はつくしと約束した貝殻拾い・・・シーコーミングを何処の海でしようかと調べていたが、静岡に住む母方の祖母・滝川玲子死去の一報が花沢家に入った。

丁度この時花沢物産には大きな商談が持ち込まれており、連休中にも関わらずクライアントとの重要な会議と親睦を深める為の会食が予定されていた。
それに出席することを優先した聖司は仕事が終わってから静岡に向かう事になり、類とは別行動。
むしろそれを望んでいた類にとっては有り難いことだったが、ここまで来ても仕事優先なのかと、秘書との打ち合わせの電話が終わらない父の姿を憮然とした表情で見つめていた。

そして電話を切って立ったまま珈琲だけを口に運ぶ父の後ろでは、使用人達が供花や供え物の手配に奔走していた。


「・・・なんだ、文句でも言いたそうな顔だな」

「いえ、そうじゃないけど・・・お婆様との最後のお別れだというのに休めないのかと思っただけです」

「・・・確かにそうだがお亡くなりになったお婆様が生き返るわけではない。悪いが私の出欠がこの度の商談を花沢優位に持っていけるかどうかの決め手にもなる。そう考えたら優先順位は決まるという事だ。
遅くにはなるが顔は出すから、それまでお前が私の代わりにお爺様に付いてて差し上げなさい」


「・・・判りました」


祖母との別れは確かに悲しい。
母と死別した後は疎遠になっていたが、幼い頃は可愛がってもらった記憶がある・・・母によく似た美しい祖母だった。

だが、それ以上につくしとの約束が守れなくなった事が類にとってはショックだった。






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