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この辺りでは名家として知られていた滝川家の葬儀はかなりの弔問客で溢れかえっていた。
その大半を占めたのは当然花沢物産社長の義母の葬儀への参列者。
東京から相当数の車が押し寄せ、田舎の葬儀会場はさながら何かのシンポジウムのよう・・・類は父の横に立ち挨拶を交わしたが、内心ではウンザリしていた。

ここで頭を下げるより亡くなった祖母の元に居た方がいいのではないか、そんな気がしていた。

しかもこの光景は母の時を思い出させ気持ちが沈む・・・聖司の仕事の延長のような言葉を聞きながら、目では祭壇の祖母の笑顔を見ていた。


「やれやれ・・・一体何の為に来てるんだか」
「うちの社の連中の姿なんて判りゃしない」

「数年ぶりに来たと思ったら・・・でも、こうやって見ると規模が違いすぎて怖いわ。見て、この弔花・・・殆ど花沢関係よ?」
「ははは!何かあっても助けてもらえるんじゃないのか?」

「我慢しよう・・・縁を切ることは出来ないさ。なんたって花沢だからな」
「亜弓が生きていればもう少し近い存在だったのにねぇ・・・これでお父様に何かあったら完全に滝川なんて無視じゃないの?」


伯父や伯母の声はこのザワザワとした会場内でも類の耳に届いた。
必要とされているのは「花沢」のネームブランド・・・それは何処に行っても同じだ。


そして祖母は白い煙となって母の元に行き、一連の「行事」は終わった。


「それでは私は夕方からの会議があるからこれで失礼する。類、お前はもう少し残るのだろう?」

聖司は最後の読経が終わるなり会場隅で秘書達に囲まれてそう言った。その時にも目にしているのは葬儀の為にキャンセルした仕事に関するメール。
礼服からビジネススーツに着替え、さっさと黒いネクタイは外されていた。


「もう少しだけ居ます。夜には自宅に戻ります」
「そうか。悪いが私の代理で宜しくな。色々言うヤツも居るだろうが上手く交わしておけ」

「・・・判りました」

クルリと向きを変えた聖司は途端に企業人から親族の顔になり、義父や義兄弟達に別れの挨拶をして回った。その変わり身の早さにはいつもの如く驚かされる。
自分にはそんな器用な部分がないだけに、類は溜息しか出なかった。



そして夕方近くなって類も東京に戻ると祖父に申し出た。

「またいつでも遊びにおいで。まぁ儂しかおらんから楽しくなかろうが、そのうち類にいい人が出来て、その人に会わせてもらえたら・・・なんて思っておるよ。家内ともそれをよく話したもんだ・・・亜弓の孫を見るまでは頑張ろうとな。はは、叶わなかったけどな」

「お爺様・・・ありがとうございます。そうですね・・・連れて来たい人は居るのですが、なかなか伝えきれずにいます」

「おぉ・・・そうなのか?ははは・・・お前の家は難しいからな。亜弓を嫁に出した時に比べたら随分と大きな企業になったから、類の相手になる人にもそれなりに気苦労はあるだろうな。まぁ、お前次第だ・・・父の真似などしなくていいのだからな?」


来た時とは違い、優しい笑顔を見せてくれた祖父に類も漸く笑みを溢した。
祖父に話した人・・・つくしを連れてここに来る事などまだ想像は出来なかったが、いつかそれが叶えばいいと儚い夢を描いた。

そこに立ち塞がる仙道という男の影も過ぎったが・・・。




一人で車に乗り込み、彼が向かったのは東京に戻る高速道路ではなかった。
南側に向かってハンドルを切る・・・その先には海が見え始めた。


あの時間に出たのには理由があった。
類は西伊豆のとある海岸に行こうと昨日の夜から決めていたのだ。

海岸線を遮るものがなく、夕日を自分のものに出来る場所・・・そこも幼い頃に母と何度か夕日を見に行った場所で、類が忘れる事の出来ない岬だった。
岬からは180度以上のパノラマが拡がり夕日を臨む絶好のポイント・・・「家族」と銘されたブロンズ像がある場所で夕日を見たかったのだ。

その場所が近づくと胸が熱くなる・・・こうして自分で車を運転して訪れるのは初めてだった。
少しずつ蘇る記憶・・・まるで母を隣に乗せているかのような錯覚さえ感じていた。

『懐かしいわね、類』そんな声まで聞こえたような気がして、「そうだね・・・」と、誰もいない助手席に返事をした。


今日もそこに行くと丁度海に太陽が沈む少し前・・・やがて来る濃紺の世界に呑み込まれる寸前の美しい光を放っていた。
類の顔までも同じ色に染めて、暖かな色をした太陽が消えようとする・・・この光景をつくしにも見せたいと思った。

そして昔、母が言っていたこの展望台の何処かにあるハート型の敷石。
子供の時にそれを見付けようとしたら止められた。


『ママと見付けないで好きな人と見付けなさい。そしてその日が来たら私にも紹介してね?』


だから今日も探さない・・・いつか彼女と探すから、そう思って太陽が沈みきるまで一人佇んでいた。



「なんだ!お前・・・帰ってきたのか!母親の命日に少しは反省したのか?!」

そんな大声が聞こえたのは類が帰ろうとした瞬間・・・驚いて振り向いたら知らない老人が立っていた。
地元の人間だろうか、作業着のような服装で日焼けした顔が恐ろしく歪んでいる。

類に鋭い視線を向けて、まるで怒りをぶつけられているようだった。


でも類には見覚えのない男・・・何故自分が怒鳴られたのか、呆然とその男の顔を見つめていた。



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2019/06/24 (Mon) 11:43 | EDIT | REPLY |   

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