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plumeria

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「なんだ!お前・・・帰ってきたのか!母親の命日に少しは反省したのか?!」

「・・・母の命日?あんたが誰だか知らないけど、俺の母の命日は今日じゃない。それに反省ってなに?俺はあんたに迷惑なんて掛けた覚えはないし、そもそも初対面だよね?」


類の後ろにある海は既に夕日を呑み込んで落ち着いた色だけを残している。
その僅かな光を浴びた老人は類の言葉で訝しげな顔をしてもう1歩近づいた。そして厳しい目付きのまま類の全身を見つめ首を傾げた。

誰かと間違えられているのは明白・・・類は然程気にもせず、その老人の横を通って車に戻ろうとした。


「お前、松島んとこの誠二郎じゃないのか?」
「え?・・・松島・・・?」

「誠二郎じゃ・・・ないんか?」

「・・・誰と間違えてるのか知らないけど俺はそんな名前じゃない。松島も誠二郎も知らない。おじさん、怒鳴る時には相手をよく確かめて怒鳴ったら?俺じゃなかったら殴られてるよ」


1度だけ振り向いて老人にそう答えたが、その前の「反省したのか」・・・が引っ掛かる。
自分に似た誰かが世間から疎まれるような事をしでかしているのならそれも気分が悪い。類はそれが何かだけを老人に尋ねてみた。


「その誠二郎ってヤツ・・・何をしたの?」
「・・・違うのなら関係ないだろう。悪かった・・・あいつがそんな気障な格好してこの土地に戻って来たのかと思ったから・・・」

「別にそれは構わない。でも俺に似たヤツがどんな事をしたの?まさか刑事事件になるようなこと?」

「・・・事件にしようと思えばいくらでも警察に突き出せるような事ばっかりじゃよ。その度に母親しかおらんのに泣かせてばかりでどうしようもない男だった!
最後にこの町で人に大怪我させた挙句に東京に出て行くと言ってそれっきり・・・母親は心痛でその後すぐに亡くなったんじゃ。それが今日・・・墓だってこの近くにあるんだ」

「・・・・・・じゃ、俺はこの辺りを彷徨かない方が良さそうだね。で、そんなに似てるの?」

「・・・本人だと思ったぐらいだからな。あいつもそんな髪の色でそんな目をしておった。ただ、よく見たらあんたみたいに穏やかな雰囲気じゃない。いつも誰かに牙を剥いてるような、そんな殺気があったな・・・」


まるで自分の容姿で司の雰囲気か?
類はそう考えたがイメージが浮かばず、逆に聞かなければ良かったと老人に背を向けた。

そして車に戻り、気を取り直して東京に戻った。




自宅に戻ればすぐに電話を掛けたのはつくし。
少し嫌なことがあったとは言え、久しぶりに思い出の場所に行き、幼い頃の事を思い出した類はどうしてもつくしの声が聞きたかった。
いつか一緒に行きたいなんて言うつもりは無いが、今日見た光景を伝えたい・・・それを伝えたい相手はつくししか居なかった。


『もしもし・・・花沢類?』
「・・・どうしたの?そんなに小さな声で・・・何かあったの?」

『あっ、ううん・・・花沢類が元気ないかなって思って。もう帰ってきたの?』
「あぁ・・・うん、今自宅に戻ったとこ。大丈夫だよ、ちゃんと別れは言ってきたから。穏やかな顔してたよ」

『そうなの?・・・じゃあ安心した』


自分の心の心配をしてくれるつくしに類は柔らかい笑みを浮かべる・・・それは勿論つくしには見えない。
昨日からずっと「呼吸」が出来ていない気がしていた類の方が安心したようにベッドに倒れ込んだ。そして目を閉じたまま、スマホから聞こえてくる優しい声に意識を集中させた。


「今日は何してたの?予定変更させたから暇だった?」
『あっはは!それがね、丁度バイト先の店長から電話があってさ、1人急病だから来られないかって言われたの。だから喜んで行ったわよ!無駄な休日は作らない主義なのよね!』

「そうなんだ?あはっ、良かったじゃん」
『まぁねぇ!それにゴールデンウィーク最終日だから逆にお客さん少なくてさ、でもね、聞いて聞いて!あのね・・・』


特別な言葉ではない、在り来たりな会話なのにこんなにも温かく感じる。

つくしが話す内容はバイト先での失敗談や愚痴・・・そうかと思えば大笑いしたハプニングの報告もあったりして、電話の向こうはとても1人とは思えない賑やかさだ。
言葉の1つ1つがまるで音符のように生き生きと類の耳には届いた。その擽ったい音をいつまでも聞いていたい・・・そう思うと返事もせずにスマホを耳に押し当てていた。


『・・・ちょっと、聞いてる?花沢類、もしかして寝てる?』
「くすっ、起きてるよ・・・少し眠たいけど」

『仕方ないなぁ、じゃあもう寝たら?明日は大学来るんでしょ?』
「・・・起きられたら行く。牧野、電話で起こしてよ」

『えっ?!目覚まし掛けなさいよ!』
「・・・気が付いたら止めてるんだよね、いつも・・・」



あんたの声で目覚めたいんだよ・・・そう言えたらいいのに。



「西伊豆にさ・・・凄く夕日が綺麗な場所があるんだ。水平線が弧を描いててね・・・そこにオレンジ色になった太陽が沈んでいくんだけど、怖いぐらい綺麗だった。
海と空と太陽が一瞬だけ全部同じ色に染まるみたいに見えてさ・・・でもすぐに紫色の空に覆われてくんだ。波の音だけ聞こえてきてね、それが子守唄みたいだった」

『・・・花沢類?』

「・・・うん、凄く綺麗で目が離せなかったんだ」

『そうなの?私も見てみたいなぁ・・・水平線に沈む太陽なんて見たことあるかな・・・ないかも!』

「いつか・・・いつか見てみなよ。牧野、感動して泣くかもね」



いつか一緒に見ようよ・・・・・・そう言えたらいいのに。




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2019/06/30 (Sun) 08:20 | EDIT | REPLY |   

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