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plumeria

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「気持ちが100%前向きじゃなかったら会わない方が賢明だと思う・・・そう友達に言っといて?俺からのアドバイス」

「・・・あっ、うん、そうする。ありがと、花沢類」

つくしは自分に向けて言われているような気がしてビクビクしたのに、よく考えたら居もしない「友達」の事にしていたのをすっかり忘れていた。
だから急いで引き攣っていた顔を下手くそな笑顔に変えて「ははは!」と態とらしい声まで出してしまい、余計にその場の空気がおかしくなる。それをどうしたらいいのか判らなくなって、ガタン!と席を立った。


「どうした?」
「・・・も、もうすぐ講義の時間だから行かなきゃ!じゃ、また今度!」

「・・・は?」
「うん、ちゃんと伝えとく!100%ね、うん、そうだよね!馬鹿だよね、どうしてそんな事で悩むんだろうね、ははは!」

「・・・次の講義まであと25分あるけど?」
「そっ・・・そんなに?」


自分のスマホで時間を見ると確かにまだ講義の始まる時間ではない。
どれだけ余裕がないのかと、がっくりしながら、くしはまた椅子に座った。そして、空になったカップを見て溜息を漏らした。
類はそんな分かり易いつくしを見てクスクス笑い、店員に合図をして自分用の珈琲とつくしのお代わりを頼んだ。

すぐに持って来られた新しいカップ・・・再び甘い香りが鼻を擽った。


「あ、あのちゃんと払うから!」
「別にいい。海の約束がダメになったお詫びだから」

「それはだって仕方ないでしょ?私よりお婆ちゃんの方が大事だもん。それをすっぽかした方が怒っちゃうよ?」
「・・・うん。じゃいつにしようか?」

「やっぱり連れて行ってくれるの?」
「だって行かなきゃ俺のが作れないだろ?」


それまでどんよりと重たい気分を引き摺っていたクセに、急に出された新しい予定につくしの気分は急上昇した。それが手に取るように判るから類も噴き出しそうになるのだが、必死に堪えてスマホでお互いのスケジュールを確認していた。
時々くっつきそうなほど近寄る額・・・つくしはスマホを覗き込むので気が付いていなかったが、類はつくしの髪が触れそうな距離にドキッとしていた。

いつもと同じ香り・・・シャンプーなのかヘアミストの香りなのか。
艶やかな黒髪を耳に掛ける仕草はつくしを急に女っぽく見せる瞬間・・・類の視線はスマホや手元ではなく、つくしのふっくらとした唇に向かっていた。


「ねぇ、再来週の日曜なら行けるかも・・・バイトがね、夕方からしか入ってないの」
「・・・・・・・・・」

「花沢類は?何か予定ある?・・・花沢類?」
「・・・あ、ごめん。来週?」

「再来週だよ。ふふっ、聞いてなかったの?やだなぁ、自分から言ったクセに!」
「ごめん、再来週・・・って言うか、全然予定なんて無いし」


つくしと違ってバイトなんてする訳がない。
大学の試験だとかゼミだとかは日曜日には関係ない・・・類のスケジュールは大学生の間は考え込むほど埋まるはずもなかった。


「じゃあ再来週の日曜日に。行き先は全然判らないから花沢類に任せるね?」
「ん、判った・・・もう1回言っておくけどお洒落なんてするなよ?相手は砂浜の貝殻だから」

「はいはい!ご心配なく、いつもの牧野つくししか現れないわよ?」
「くすっ、それでいいよ」


ここまで話したら漸く講義の時間に近づいた。

2人同時に席を立ちカフェを出て、暫く廊下を並んで歩いたら分かれ道・・・そこでつくしはいつものように戯けて類に手を振った。
そして類は同じくいつものように片手をあげるだけ。

お互いに1度は消えた約束がもう1度出来たことでホッとしていた。




その日の夜、聖司が珍しく早く帰宅した。
類が父に会うのは葬儀の日以来。しかも夕食を共にするのはそれ以前からない事だっただけに2人の間に親子らしい会話などなかった。

微かに響くのは食器の音だけ・・・端から見ると恐ろしく重たい空気に包まれた一室。
そこでお互いの目を見ることもなく、聖司は片手に書類を、類は黙ったまま皿の上のものを義務的に口に運んでいた。

その沈黙を破ったのは聖司だった。
一通り目を通したのか、書類をテーブルの端に置き類に視線を向けた。


「葬儀のあと、夕方前には屋敷を出たのに帰ったのは遅かったそうだが、何処かに立ち寄ったのか?」
「・・・はい?」


聖司が類の行動をそうやって確認するのは珍しい。
これまで自分の行き先を尋ねられた事などなかった類は、父のその質問に一瞬驚いた。

顔をあげて聖司を見ると、質問の内容に比べて厳しい表情を見せている。その真意はわからなかったが、類は動かしていたナイフを止め口元を拭った後、隠す必要などなかったから自分の向かった場所の事を話した。


「西伊豆の展望台に行きました。それが何かありましたか?」
「西伊豆・・・?そこには・・・いや、何でもない」

「・・・随分前に何度か母さんと行った場所があるんです。久しぶりに静岡の屋敷を見て思い出したので行ってみただけですが」

「・・・そうか」

「あぁ、そう言えば変な老人に声を掛けられました」
「変な老人?」

「俺によく似た人間がその土地で問題を起こして姿を消したとか・・・勘違いされて『帰ってきたのか』と怒鳴られました。松島誠二郎・・・それがその男の名前のようです」


「・・・松島?」


聖司の顔色が変わった。
類はその時の父の表情を真っ直ぐ見つめていた。


松島誠二郎・・・この男の事を父は知っているのだろうか・・・漠然とそんな気がしていた。




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2019/07/07 (Sun) 18:00 | EDIT | REPLY |   

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