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plumeria

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彩り鮮やかな前菜が運ばれ食事が始まった。
和やかな会話は仙道親子だけでつくしは微笑みを浮かべるに留めてナイフとフォークを動かしていた。

仙道の両親はテーブルマナーも問題ない様子で、食事の仕方は上品・・・こういう場に慣れているのだと、つくしは時々見る両親の手の動きを見て感じていた。


勿論つくしも完璧とは言わないが、恥ずかしくない程度の作法は道明寺と付き合っていた頃に覚えさせられている。だから数年経っている今でもそういう店に入ればそれなりに振る舞うことは出来た。
ただ緊張してしまうのは当然で、そのせいで美味しいとは思えなかった。

美味しいと思った時には全身でそれを表現したいのに、そういう部分を総て隠さないといけない食事は気疲れするだけ。少々行儀が悪いぐらいの食べ方がいいなぁ、なんて思いながら名前も判らない料理を口に運んだ。


「篤、仕事の方はどうなの?昇進はまだ?」
「え?あぁ・・・うちの社は年配の人が多いからね。その人達が居座ってる限りはね・・・」

「そう言うものか?仕事は年齢ではなく実力だろう?お前の働きが良ければ年上の部下も持てるというものだ」
「ははっ、そうだろうけど現実はその通りにはいかないさ。いくら俺の成績が良くても出来の悪い先輩が居たらチーム全体の評価が下がるだろ?いるんだよ、そう言う人・・・早く辞めてくれたらいいのに」

「ホントにねぇ・・・数字目標のある企業に勤めていてそれが達成が出来ないのなら、それなりのお仕事に変わればいいのに・・・」
「そう思うだろ?でもそう言う人に限って成績のいい俺等後輩に頼ってのほほんとしてんだよ。いい気なもんさ」

「・・・・・・・・・・・・」


果たしてそうだろうか。
そう言う人にだって苦しみはあるはず・・・全員がのほほんとしている訳じゃないだろうに。誰かが辞めてくれることを願うなんて淋しいことじゃないんだろうか。

そんな言葉が頭に浮かんだけれど、親子3人がその意見で統一されているのなら何を言っても無駄だろうし、わざわざここで仙道の怒りを買わなくてもいい。

多分、このあと自分は仙道を怒らせることになるだろうから・・・つくしはそう思って黙っていた。


今日のお昼は美味しかったな・・・ふふっ、花沢類と交換して食べたっけ。
ファミレスの日替わり定食だよ?花沢類、驚いてたなぁ・・・お箸もフォークもナイフもカゴに入ってて、自分で取るだなんて初めてだったんじゃないかしら。
エビフライと豆腐の交換・・・ドキドキしたなぁ。

目の前のローストビーフを見ながらつくしの脳裏には安いランチのメニューが浮かんでいた。



「牧野さんはどういう進路をお考えなの?」
「・・・・・・・・・」

「つくし、どうした?」
「・・・・・・はっ?あぁ、ごめんなさい。ちょっと考え事をしていました。なんのお話しでした?」

「・・・・・・いえ、もういいわ」


1人だけ全く違う世界にいたつくしは仙道の母親の質問が聞こえておらず、慌てて視線を向けたが既に気不味い空気に変わっていた。
また横から冷たい視線がつくしを刺す・・・でも、それを然程気にせず自分の皿に意識を戻した。

別にこのままの空気で終わってもいい。
いや、気に入られる必要がないのだからこれでいい・・・今、この時間を耐えればこの人とは後日話し合ってもいいのだから、と。


「つくしの進路だよ。何処の企業にするかって事。外資系企業ならそろそろサマーインターンシップのエントリーが始まってるだろ?申し込んだのか?」

「えっ?ううん、だって外資系企業なんて考えてなかったから・・・」
「そうなのか?有名企業だとインターンシップで優秀な成績を残した学生に”選考パス”や実質的な”内定”を与えたりするんだけどな・・・そうか、じゃあどうしたいんだ?」

「・・・・・・・・・私は」
「あぁ、日系企業ならインターンを採用の場としてる企業は少ないからな。ベンチャー企業とかよりも採用選考の時期が遅いから、のんびりしてるつくしにはいいかもしれないけど、どっちにしても早めに動かないとダメだぞ?」


如何にもつくしのことを心配しているかのように両親の前で説明する仙道・・・だが、つくしの返事など聞く耳も持たなかった。自分の言葉はつくしにではなく、両親に『頼りになる男』として映るように計算されたものだからだ。

「まぁ、篤ったらそんなに急かさなくても・・・」
「ははっ、でも篤の言う通りだ。早めに動いて損はない。就活とはそう言うものだよ」

「うん、そうなんだよ。俺が言わないとホントにうっかり時期を逃すから」
「・・・・・・・・・」

「ほほほ、良かったわねぇ、牧野さん。篤にいろいろ相談して良い企業に内定すればいいわねぇ」
「でも篤の会社を上回るような大企業だとそれも気にならないか?やはりお前の昇進も急がないと不味いぞ?」

「ははっ!大丈夫。つくしの受ける企業はちゃんと俺が選ぶから」



「・・・私、企業に入る気なんて無いんですけど」


つくしは持っていたナイフとフォークは皿に戻した。
そして真っ直ぐ両親の目を見つめ、自分の意思を伝えた。


「私には夢があるんです。でもそれはこのまま英徳大学に在学していては叶わないものかもしれない・・・ですから悩んでいます。もしかしたら中退してその道を目指すかもしれません。ですから企業なんて考えていないんです」

「・・・つくし、止めないか。何を言ってる?」

「以前にも話したでしょ?あの夢はまだ持ってるの。あっちゃんが聞いてくれないだけだよ」
「その呼び方は止めろ。両親の前だぞ」

「・・・私の気持ちを無視して話を進めないで欲しいの。あっちゃ・・・篤さんに選んでもらおうなんて初めから思ってないよ」
「馬鹿な事を・・・!俺が言わないと何も出来ないクセに」

「私の将来を篤さんの指示で決めたくないの。自分で選びたい・・・それだけだよ」


仙道の表情も声も変わった。
彼もまたナイフとフォークを置きナフキンで口元を拭った。それは両親も同じ・・・空気までも重たく変わった。

父親は特別厳しい顔にはならずむしろ冷めた表情だったが、母親はつくしを見る目が仙道のそれと同じ。自分の息子の言う事に反論するのか?と無言の内にもそう言われているような気がした。



「でも、あなたは篤と婚約しているのでしょう?婚約者のアドバイスを有り難いとは思わないの?」

「婚約・・・私と篤さんがですか?」

「そうよ。だからこうして会いに来たんじゃないの」


「・・・申し訳ありません。確かにお付き合いはしていましたけど、婚約だなんてしていません。もしかしたら今日、この場でそんな話が出るのかもしれないと思ったぐらいです。
でも、私の同意なくそんな事を決めてしまう人とはこれ以上一緒に居られません。私はこれで失礼致します」

「つくし!・・・お前、どう言うつもりだ!」

「篤、話が違うじゃないの!」
「どう言うことだね?お互いに気持ちが固まったと言ってたんじゃないのか?」

「いや、こいつが混乱してるだけだ。そうだよな?つくし!」
「混乱なんてしてないわ。ご両親が来るから食事しよう、それしか聞いてないもの」

「そのぐらい察しろよ!子供じゃあるまいし!!」



店に不似合いな怒声が響き、席を立ったつくしを睨む仙道の姿に周囲の注目が集まった。

それでもつくしは怯まなかった。
「さようなら、あっちゃん」・・・そのひと言だけを残し、両親に深く頭を下げて踵を返した。



たとえ一時期でも「この人なら」と思えた男だった。
母親思いの優しい人だと思った。

本気で好きになれたら良かったけど・・・・・・仙道から遠離るつくしの目に光るものがあった。






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2019/09/16 (Mon) 15:49 | EDIT | REPLY |   
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2019/09/17 (Tue) 08:10 | EDIT | REPLY |   

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