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plumeria

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目の前で笑う2人に掛ける言葉なんて出てこなかった。
『おめでとうございます』・・・本来はこの言葉が出るはずなのに、そんなのを”つくし”に言える訳がない。

わざわざ俺の前で幸せそうに寄り添う2人を、まるでテレビドラマの一部みたいに眺めてる・・・そんな感じだった。


「あぁ、ごめんなさい、花沢類君。君の前で失礼したね。妊娠を知ってからは嬉しくてね・・・お許しを」
「本当に申し訳ございません。主人が浮かれ過ぎちゃって・・・」

「・・・・・・いえ」


主人・・・?

”つくし”が柊祐の事を主人って言ったのを初めて聞いて腸が煮えくりかえった。それは柊祐に対してだけど、つくしにも・・・だ。

これまでにも何度か喧嘩はしたけどここまで腹が立った事はない。いつだってどっちかがすぐに謝って仲直りして、その繰り返しで絆を深めてきたんだ。それなのに・・・!
この妊娠が本当かどうかは別として、仮に柊祐に強制された嘘でも俺の目の前で他の男を「主人」だなんて・・・!


「・・・そんなに驚きました?何かひと言欲しいなぁ、類君」
「・・・・・・・・・」

「あぁ、ごめんなさい。奥様がお怪我してるから君の所は少し先になるんですよね?私だけがこんなに有頂天で失礼。嬉しすぎると回りが見えなくなるんだよね」
「・・・・・・・・・」

「早く良くなるといいですね。私達も祈ってますよ。それじゃあ帰ろうか、鈴花」
「はい、あなた」

「・・・・・・これだけの為にここに?」


この男が何を言おうが頭には入らなかった。
それは何処か他人事のように思えて、俺とは関係ないような・・・でも、”つくし”が「あなた」と呼んだ時には流石にカッとした。

柊祐の台詞はどうでもいい・・・でも、”つくし”からそんな言葉は聞きたくない!
途端に憎しみのような情が湧いてきて、わざわざ俺の前でそれを見せつけるこいつを睨みつけた。許されるものなら殴り倒したい・・・でも”つくし”の前でそんな事はしたくなくて、精一杯理性を保ってこの感情を抑えた。


「これだけ・・・ははっ、確かに他の人にはこれだけの事ですよね。申し訳ありませんでした。
実は今度花沢と共同で、バイオガスプラント建設などどうかと思いましてね?その窓口に君を指名しようと思うんだけど、どうでしょう?」

「バイオガスプラント建設?それなら私より適任者がいるでしょうからそっちに回しますよ」
「君がいいって言ってるんだけど?」

「・・・どうぞ話を持ち込まれたらいい。後はうちの内部で決めることでしょうから」

「判りました。では後日、改めて・・・」


この会話の最中もつくしは自分の腹を大事そうに抱えて微笑んでいた。
まだ妊婦らしい体つきじゃ無いからそれが真実だとは思えないけど、その嬉しそうな顔は演技とは思えない・・・そのぐらい愛おしそうに自分自身を抱き締めるような素振りを見せていた。


俺はそれを黙って見ることしか出来ない。

”つくし”の本意が・・・柊祐の目的が判らない。



**



2人が帰った後、俺は応接室のソファーに座ったまま動けなかった。

何も聞こえない・・・何も見ていない、何も匂わない。
五感が総て失われたかと思うほど何も感じなかった。
あれからどのぐらい時間が経っているのかも・・・1度秘書課の女性がドアを開けたようだけどすぐに閉めた。辛うじてそれぐらいは覚えてるけど、まだ目の前の椅子に幸せそうなつくしの残像があった。


つくしの妊娠・・・しかも3ヶ月。
事故の後なら俺の子供じゃ無い・・・本当に妊娠しているのなら、だけど。


でも3ヶ月と言えばつくしだって大怪我してるはずだから、それが良くなって来たぐらいの時だ。
そんな時にそんな行為を?

事故直後、すぐに他の男に抱かれたって事になるけどそんな事を許すとはどうしても思えない。それなら・・・まさか無理矢理?でも無理矢理ならあんなに喜ばないだろう。

いや、だからそれは意識操作された上での・・・・・・同意か?



「・・・くそっ!!」

ガタン!と大きな音を立てて目の前のテーブルを叩き付けたら、さっき2人に出した珈琲カップがガタガタと鳴ってソーサーの上のスプーンだけが床に落ちた。
ふとそのカップに目をやると・・・2人とも口をつけていないようだった。


思えば柊祐はここに入った時からつくしを守るように支えていて、つくしは座っていた時も手はずっと腹に当てていた。
彼女はカップを触らなかった。


何故だ?妊婦だから・・・いや、もしかしたらここでも指紋を残さない為だとしたら?




********************




・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・なんだろう?誰かが泣いてる。


それは私?私が泣いてるのかしら・・・どうして泣いてるの?何が悲しくてしゃがみ込んでるの?

ううん・・・違う・・・これは車の中だ。
男の人が倒れてる・・・早く病院に連れて行かないと、頭から血が出てるんじゃないの?腕にも赤いのが見える・・・怪我してるんじゃないの?
どうしよう・・・全然動かないよ?

大丈夫?ねぇ・・・大丈夫?


ねぇ・・・・・・・・・この人は誰?


『・・・・・・もう起きる?つくしちゃん起きてもいいよ・・・』


また「あの音」が聞こえて、私はハッと目を覚ました。


本当に車の中だ・・・でも、ここは何処?

身体を起こして窓の外を見たら、全然知らない山の中・・・?
真っ暗な道に車のライトが当たって、左右の木々が不気味に揺れてる。空には月しか見えなくて回りの薄雲を光らせる・・・そして何処にも灯りがない・・・!
その光景はあの日を思い出させて私は身体中が震え始めた!


「いやだ・・・!いやだ、こんな所はいや!!」
「つくしちゃん、大丈夫だよ。俺が居るから」

「いやああぁーーっ!類が、類がっ・・・誰か類を助けて!」
「・・・彼ならちゃんと元気に暮らしてるよ。もう仕事にも復帰してるし」

「いやだ、いやだ!こんな道通らないで!!」

「つくしちゃん、落ち着かなきゃ。お腹の子供が驚いちゃうよ?」


その穏やかな声に震えていた身体が止まった・・・。


「・・・・・・お腹の・・・赤ちゃん?」
「そう、君はもうお母さんだろ?しっかりしなきゃ・・・その子には君しか居ないんだから」





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