FC2ブログ

plumeria

plumeria

-
車から降りてその老夫婦のところに行くと、畑仕事からの帰りなのかタオルで汗を拭きながら待っていてくれた。

そしてもう1度同じ質問をすると「そう言えば・・・」と女性の方が首を傾げながら思い出そうとしている。逸る気持ちを抑えて黙って待っていたら、男性の方が少し離れた崖の上を指さした。


「もしかしたらあの崖の上の・・・もう相当昔だがなぁ・・・もう少し暑い時期だったか?」
「あぁ、うん、あそこだっけねぇ?」

「うん・・・交番の池田君が大騒ぎした、あの事かいな?」
「ん~、それならあったねぇ」

「どういう事ですか?」



20年近く前・・・

この老夫婦が当時この道を歩いていたら、見慣れない夫婦のような男女がやってきて、あの崖の上に行く道があるのか?と尋ねたらしい。2人がその道を教えてやると「ありがとうございました」と疲れた顔で立ち去ろうとした。

ただその様子が気になって、背中を向けた夫婦に話し掛けた。


『あんたら、そこに行ってどうするんだね?何にもない崖だよ?』
『・・・はは、海なんてあまり見た事がないから眺めてみたいだけですよ』

『それなら、ほら、そこから砂浜に出られるからそっから・・・』
『・・・高い所から見下ろしたくてねぇ。後で下にも降りてみますよ』

『この辺の景色なら崖の上でも下でも変わりゃあせんよ?』
『そうですか?でも遠くまで見えそうだし・・・』

『変な事を考えてないだろうね?あんた、何処の人だね?』
『・・・・・・東京の人間ですよ。ご心配、ありがとう・・・無茶する勇気なんて無いですから』



でも、やっぱり気になってこの先の交番に行き、そこで事情を話したら捜索願いの出ていた夫婦に似ていると・・・。



「でも、その時には身投げなんてはっきりしなかったんだよ。仏様が出なかったしねぇ?」
「そうそう。ただ捜すために沢山警察の人間が来て、儂らも声を掛けた方だったから気になっての・・・どうなったんだろうか?」

「さぁ~、でも少し後で花を手向けに来た人がいるって聞いたよ?家族は諦めたんじゃないのかね?」
「そうだろうなぁ・・・あんなところから落ちりゃ助からんだろうし・・・」


その話は進から聞いたものと一致する。
それなら牧野の両親はここに来た可能性が高い。

有栖川家のあった村上市・・・牧野の両親が目撃されたのもここ。
それが偶然だとはどうしても思えなかった。

俺達も老夫婦にその道を聞いてから礼を言って別れ、車でそこに向かった。



建物も何もない草むらを進むと、車が停められそうな広場を見つけた。
そこに停めて車を降りると、下よりは強い風に髪を乱された。それに着ているコートがバサバサと音を立て、冬が近い日本海の冷たさを感じた。


「確かにそんな事をしそうな場所だけどな・・・」

総二郎がそう言って、俺達は崖の縁に立った。
見下ろすと荒い波が岩肌に当たって白い波飛沫が立っているのが見えてゾッとする・・・そしてここにつくしの両親が、と思うと胸が詰まった。


振り返っても見えるのはレンタカーだけ・・・俺はそこに佇む19年前のつくしの姿を想像した。


5歳の少女はこの光景を見てどう思ったんだろう。
そしてここから東京に戻らず、有栖川に連れて行かれたとしたら、それはどれだけ辛い事だったんだろう。

それなのに、今また俺の知らない場所で成瀬に捕らわれているなんて。


結局、有栖川の事は何も判らず、つくしが連れ去られた場所がほぼ判明しただけだった。


「次はどうするんだ、類」
「・・・花沢と成瀬コーポレーションについて調べる。どうして父さんが成瀬のパーティーに行きたがらなかったのか、それをまだ調べてなかった」

「おじさんが?成瀬と昔トラブルがあったのか?」
「企業間では無いと思うけどね」

「個人的?って事は・・・いや、おじさんに限ってそれはねぇよな?」
「・・・母さんと知り合う前なら可能性はあるけど・・・」

「自分の親の過去を調べんの、結構辛くね?」
「つくしに近づくためなら大丈夫。何も怖くないよ」


この後車を新発田に向けて走らせ、そこで西門の車に乗り換えて東京に戻った。
日本海東北自動車道から北陸自動車道、関越自動車道を走って4時間半・・・あの事故の日を思い出して、骨折した左腕が疼くのを感じた。





*******************




「お爺様・・・具合はどう?苦しくないですか?」
「・・・・・・・・・・・・」


熱が下がった次の日の夕方、お爺様の部屋にお見舞いに行くと、以前より一層顔色が悪くなってベッドに寝たまま全然動かなかった。私の言葉にも虚ろな表情しか浮かべず、開けてるのかどうかも判らない窪んだ目。

それを見ていると「その時」が近いような気がした。


すぐ側のテーブルには女の人の写真がある。
それは凄く古くて色褪せてるように見えた。

これが柊祐のお母さんだろうか・・・お爺様がよく寝ているのを確認してからそこ行って手に取って見た。
柊祐に似てると言えば似てるのだろうか、優しそうに笑ってるその人は、彼よりも随分穏やかな表情に見えた。それに美人・・・多分、色んな男性にモテたんだろうなぁって思わせる、とても魅力的な表情だ。

その写真をテーブルに戻して、またベッド横の椅子に座りお爺様の顔を覗き込んだ。


「・・・・・・祐子・・・祐子か?・・・」
「お爺様、目が覚めたの?」

「・・・・・・祐子・・・」


祐子さんは娘さん・・・お爺様は夢を見てるのね。

暫く寝顔を見ていたけど起きそうにもない。
私が妊娠したことで考えを変えてくれないかと思ったけど、そんな話が出来そうな状態じゃなかった。



「こんな所に居たの?つくしちゃん」

その声に驚いて振り向いたら柊祐が半分ドアを開けた状態で私を見ていた。いつドアを開けたのかすら気が付かないほどぼんやりしていたのだろうか、彼が来た気配なんて全然感じなかった。

彼も部屋の中に入ってきてお爺様を見下ろしていたけど、それは病気の身内を見るような目には見えなかった。何処かしら冷めてて無感情・・・この人はお爺様に対する愛情はないんだろうか。

私が不思議そうな顔を見せたら、それにはニコッと笑った。


「もうそんなに長くは無さそうだろ?だから急がないとね」

「そんな言い方しなくても!それに何を急ぐの?入院?」


「いや、花沢家への復讐・・・この人の望みはもうそれだけだから」


そんな恐ろしい言葉を、何故笑いながら言えるのだろう。
柊祐の横顔に夕日が当たって妖しく光る・・・その笑顔にゾッとした。





にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村
応援、宜しくお願い致します♡
関連記事
Posted by