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plumeria

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サインをして欲しいと言う”つくし”に「すぐには出来ない」を繰り返しても、尚続く同じやり取り。
本当はサインをしてもいいけれど、こんなやり取りの最中に彼女やガードの男に感情の変化があるのだろうかと思っただけだった。でも思った通り、”つくし”は目を見て懇願する風でもないし、ガードの男はピクリとも動かず俺達を見ていた。

2人共がまるで仕掛けられた人形のように思えてならない。それをこの場で解くことが出来ないんだろうかと思うけど、俺にはそんな専門知識は無い。
もし、これが柊祐の仕業なら解放することが出来るのもあいつだけ・・・目の前に彼女が居るのに何も出来ない自分が腹立たしかった。


「・・・サインをしては下さいませんの?」

「どうしてそんなに急かすの?」
「・・・困りましたわね」


困ったという言葉を出しながら表情は特別困った風でもない。
次に何を言う気だろうかと思っていたら、ガードの男のスマホが鳴ったのか、急に立ち上がってポケットからそれを取りだし「失礼します」と言って俺に背中を向けた。


「どんな書類なの?この計画書の受領書とか?」
「・・・・・・・・・」

取引も始まっていない企業間でどんなサインが必要なのか、と言われればその程度しかない。
それを持って帰らなければ”つくし”があいつから叱られるのかもしれないと思ったから、仕方なく封筒の中をもう1度見てみた。そうしたら”つくし”の言う通り冊子の後ろの方に受領書というものがあって、そこに受け取りのサインがあった。

成瀬コーポレーションはこんなものを書かせるんだ・・・とぐらいにしか思わなくて、俺はデスクの引き出しからペンを取り出し、そこにサインをした。情報管理としてどんな書類であろうが受領書を求める企業は多いから。


書いたものを”つくし”に渡すとニコッと笑って「ありがとうございます」と言い、俺はそんな彼女の顔や身体をジッと見ていた。


少し伸びてしまった髪の毛・・・相変わらず綺麗だ。
それに今日の化粧は少し以前の”つくし”に似てる・・・そこまで濃くなくて彼女に似合ってる。目立ったのは赤いマニキュア・・・その裏の指紋はどうなってるんだろうと気になって仕方なかった。

でも、やっぱりそこよりも腹に目が行く。
今日も厚着してるけど、以前よりふっくらしてるのが判る・・・そしてそれがフェイクでないことは彼女の少し丸みを帯びた輪郭で判った。


順調なんだろうか・・・それなら嬉しいけど、出来たらその過程をこの目で見たい。
初めての自分の子供なのに何も知らない。その状況が凄く苦しかった。

その時デスクの内線が鳴り、今度は俺が「失礼」と”つくし”に声を掛けてそれに出た。


「なに?来客中だけど」
『申し訳ありません、類様に面会希望の方がいらっしゃいますが』

「俺に?誰?」
『はい、お名前は本田様と仰って、類様がお調べ中の内容についてだからご本人に直接話したいとのことですわ。それにお急ぎだそうで、すぐにロビーまで来て欲しいと・・・どうしましょうか?』

「俺が調べていること?」

俺が調べていることはつくしの過去と成瀬の事・・・それに有栖川に関してだけど、それを外部の誰にも話してないのに?
進や真由美が誰かに言うとも思えないけど、まさか総二郎?

総二郎が誰かに調べさせたとか?でも、それなら俺にひと言連絡があると思うけど・・・。

チラッと”つくし”を見たけどここに来た時の表情に戻り、姿勢も崩さずそこに座って居る。少しぐらいこのままでも逃げたりしないだろうか・・・それが心配だったけど些細な情報でも欲しい。
だから10分程度の離席を断わってロビーに向かった。


でも受付に行ってもそこには本田と言う人間は居なかった。
情報屋らしい姿のヤツなんて居なくて、全員がスーツ姿・・・どれが本田だろうかと受付の女性に問い質した。


「俺に面会の本田って何処?」
『えっ?あぁ、その方でしたらあそこの椅子に・・・・・・あら?』

「椅子?誰も座ってないけど?」
『何処に行かれたのかしら・・・応接室にご案内しようかと思ったらすぐに済む話だからここで待つと言われて、それならとそこのソファーをお薦めしたのですけど』

「どんな人だった?男?女?」
『男性ですわ。紺色のスーツを着た方で、黒縁眼鏡を掛けてて・・・・・・あっ、類様?!』


紺色のスーツに眼鏡なんてこのオフィスビル街じゃ多すぎて判らない!
それでもすぐ近くに居るのかもしれないと、うちのビルを飛び出して外を見回した。でもこっちに背中を向けてる紺色のスーツなんて見えなかった。


誰だ・・・俺が何かを調べてるって知ってる奴・・・?


「・・・まさか!」

今度はクルッと向きを変えて自分の執務室、”つくし”が待ってる所に急いで戻った!
何か凄く嫌な予感がする・・・それが何かは判らなかったけど、役員フロア直通のエレベーターの中でドキドキしていた。

エレベーターが着くと部屋までの廊下を走って、急いでドアを開けると”つくし”は何も変わらない状態でソファーに座っていて、ガードの男も電話を終えてドアの側で待機していた。
「誰も来なかった?」と聞けば「はい、何方も・・・」と、無感情な返事が返ってきた。


「申し訳なかったね」
「いえ、大丈夫ですわ。では、私はこれで失礼します。そのうち夫が直接お話に来るでしょうから、その時は宜しくお願い致します」

「・・・・・・・・・」
「お邪魔しました」


そう言うと今度は満面の笑顔・・・俺はそれを見て”つくし”を壊してしまいたいほどの憤りを感じた。それが彼女の本意では無いと判っていても。
”つくし”がそう呼ぶのは俺のはずなのに・・・それに憎らしいほどの笑顔で他の男のことを「夫」だなんて。


冷静になれ、と呟く自分自身・・・これ以上真っ直ぐ”つくし”を見ることが出来ないと思いながら目を逸らすことも出来ない。


「お子さん、順調?」
「・・・はい、お陰様で」

「・・・いつが予定日?」
「予定日・・・は・・・春頃ですわ」

「そう、お大事にね」
「ありがとうございます。では・・・」


”つくし”がスッと立って俺に頭を下げ、ガードの待つ入り口の方に向かって歩き出した。
まるで知らない人間のように俺の前を通って・・・でも、その時に我慢出来なくて、出ていこうとする彼女の背中に向かって声を掛けた。


「つくし、待ってるから」


そうしたら今日はそこでピタッと足が止まった。

ほんの少しだけ振り向いた時、微かに動いた唇がなんて言ったのかは判らない・・・でも、初めて「つくし」と呼んだ俺の声に反応した。それに俯き加減の顔のまま何度も瞬きしてる。

その仕草は眠ってるつくしが目覚めようとしてるように思えた。だからもう1度声を掛けようと身体の向きを変えたら、サッと“つくし”を守るように出てきたのはガードの男だった。

「さぁ、参りましょう、鈴花様」
「・・・はい」

「花沢様、失礼致します」


今日も”つくし”は出した飲み物に手を出していない。
それが総てあいつの指示・・・その鎖を切る為にはどうしたらいいんだろうか。



**



アメリカ支部から母さんに連絡が来たのはその日から1週間後だった。
突然俺の執務室をノックも無しに飛び込んで来て、資料を読んでいた俺の前に立つと鋭い目を向けてきた。そんな顔は見たことが無くて、しかも手には何かの書類を持ってる。
それを俺の前に叩き付けると眉を顰めて怒鳴り始めた。


「どういう事なの?!類、あなた何を考えてるの?!」

「・・・え?待って、何を怒ってるの?」

「何をって・・・それをご覧なさい!アメリカ支部長が説明を求めてるわ!」

「アメリカ支部長?だからなに?」
「いいから読みなさい!!」


それは先日スタートしたはずのシェールガス開発事業の計画書・・・そこに「花沢物産撤退」の文字があった。





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