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サラの妊娠は本当に順調で、もうすぐ予定日っていう頃になると仁美はソワソワして落ち着きがなかった。
俺がマンションに居る時に少しでも電話の音が鳴ると、それにビクッとしてキルトの手を止める。それが可笑しくて「仕事だよ」って言うと溜め息を漏らしながら肩を落とした。


「大丈夫だって。順調だって聞いてるからそのうち連絡が来るさ。予定日は3週間も先だろう?」
「えぇ、でもサラは初めてじゃないんだから早くなるかもしれないんでしょ?残念だけど、私にはその感覚が判らないから・・・」

「そんなの誰にも判らないんじゃないか?あまり気にしすぎてると色を間違うよ?」
「・・・もう3回も同じところを縫ってるわ」

「あはは!仁美らしくないな。不安なら抱き締めてやろうか?」
「・・・そんな心配はいいです!子供じゃないんだから」


そう言って可愛らしく頬を赤くしてまた自分の椅子に戻った。
そして布と針を持つけど、すぐに視線は窓の外・・・もう真っ暗な夜の海に向けていた。



その連絡が来たのは意外にも翌日で、俺はロス支社に休暇願いを出してマンションに飛んで帰った。
そうしたら仁美は部屋中をウロウロしながら不安な表情を浮かべ、俺はすぐに日本の両親に電話でそれを伝えた。

取り敢えず車のキーだけ持って部屋を飛び出し、仁美は何度も躓いては俺の袖を持って走った。
車の中では指を絡ませて神様に祈り、泣いてるのかと思うぐらい眉を下げて震えてる・・・正直言えば俺も同じだったが、その感じが牧野の出産の時とよく似てるな、と思った。

でも今日は自分の子供だ・・・その不安は数倍違う。


とにかく無事に産まれてくれ・・・それだけを願った。



病院に着いて、急いで産婦人科に向かうとそこにはコーディネーターが既に来ていてサラの様子を教えてくれた。
表情はとても穏やかだったから、何かの異常があって緊急の出産じゃ無さそうだ。それにはホッとして、仁美は心配そうに分娩室に目をやった。

ここからはその部屋の中の音は確認出来ない・・・極普通に病院のアナウンスや看護師、患者の声が遠くから聞こえてくるだけだった。


『お待ちしてました。サラが病院に来てからもうすぐ2時間です。もう暫くお待ち下さいね』

『少し早いみたいだけど、問題ないんですよね?』
『サラは大丈夫そうでした?』

『えぇ、ご心配いりませんよ。確かに3週間早いですが、検診では赤ちゃんも標準程度の大きさで育っていましたから、出産に臨んでも問題ないとのドクターも言ってましたわ』

『そうか・・・』
『・・・もうすぐなのね』

『あちらに控え室がありますからそこで待ちましょう。私は色々な書類作成がありますから、別の席で業務をさせていただきます』



アメリカは生地主義がとられているからアメリカで生まれた子は自動的に米国国籍を取得し、アメリカのパスポートを取得することになる。
その後の法的手続きはかなりの時間を要し、作成する書類や必要な資料は数多く、それを全部コーディネーターに依頼しているから彼女は真剣な表情で自分の仕事に向かっていた。

それを考えなくて済む分、俺達はただ子供とサラの無事だけを祈ることが出来る・・・「大丈夫だ」なんて散々言っておきながら、この時間は俺もかなり緊張していた。


すぐに鳴ったのは俺のスマホで相手はお袋・・・


『あきら君、どうなの?産まれてない?』
「あぁ、まだだ。お袋が焦ってどうするんだよ」

『だって!聞いちゃったら他の事が手に付かないわ!これから1番早く行ける飛行機に乗るから暫く電話が出来ないの。でもメールだけ入れといて?判った?』
「判った。でも問題なく進んでるって言われてるから心配するなよ」

『お産は何があるか判らないのよ?!いいこと?サラさんへの感謝を忘れないでよ?』
「当然だろ。慌てて走って転ぶなよ?じゃあな」


紫音と花音が居なくなってからほんの少し老け込んだお袋が、再び念入りに自分磨きをはじめたと小夜から聞いていた。やっぱり「お婆ちゃん」って言われるのは嫌だから少しでも若く見られたいらしい。
そのお袋が元気よく走って来る姿を仁美と想像して笑った。



『ミスター・ミマサカ、いらっしゃいますか?』

その声が分娩室の前で聞こえて、ビクッとして立ち上がった。
仁美も同じで、コーディネーターもその手を止めた。


『間もなくです。お生まれになったたらお呼びしますから、もう少しお待ち下さいね!』

『・・・ありがとう!!』



間もなく、その言葉を聞いて仁美の手を引っ張って控え室を飛び出した。
そして分娩室の目の前の廊下で、2人並んで黙ったまま・・・握った手がお互いに震えてるのが判って、どちらからともなくその力を強めた。

僅かしか時間が経っていないのに、すごく長く感じる・・・「その声を」早く聞きたくて心臓の音だけが速まる。


その時、少し騒々しい声が聞こえて・・・その直後・・・


おんぎゃあぁ~~~!!ほぎゃあぁぁ~!!



赤ん坊の泣き声・・・それを聞いた瞬間仁美が俺の手を振り解いて両手で顔を覆った。
そして声を出さずに泣いていた。俺はその震える肩を抱いてやって、可愛らしい声が響いた部屋のドアが開くのを待っていた。


やがて静かに開いたドアから看護師が顔を出し『無事に産まれましたよ、どうぞ中に』と・・・。

蹌踉けそうな仁美を支えて、ドキドキしながらその部屋に入るとそこでは出産を終えたサラが思いの外元気そうに笑っていた。
そして真っ白なタオルに包まれて奥からやってきた天使・・・その姿がもう歪んで見えた。


『おめでとうございます。元気な男の子ですよ』

『ありがとう・・・男だったんだ!』


赤ん坊はまだ真っ赤でシワシワで、目だって開けてなくて頼りなくて・・・それでも本当に愛おしかった。
看護師に抱かれたその子はすぐに俺の腕の中に・・・仁美はその子の顔を覗き込んで大泣きだった。「可愛い・・・」と何度も呟きながら恐る恐る手を伸ばし、俺が渡そうとしたら一瞬躊躇った。


『・・・・・・大丈夫、君の子供だよ』
『え、えぇ・・・そうなんだけど』

『くすっ、そんな事でどうするの?俺達で育てるんだから』
『・・・そうね・・・じゃあ・・・』


『ほら、お前のママだぞ?』


俺の腕から仁美の腕に・・・お互いに初めてじゃないけど初めての事・・・双子の時とは違う温かさがそこにあった。



その後、術後処置をして戻って来たサラに何度も礼を言い、生まれたての赤ん坊を見せた。
代理母はこの時抱いたりしないらしい・・・だからサラは手で頬を撫でるだけに留まった。


『この子がお腹に居る間、私もすごく穏やかに過ごせたわ。貴重な体験をありがとう、アキラ、ヒトミ。大事に育ててね!』

『こちらこそ本当にありがとう。感謝します、サラ』
『夢みたいだわ、サラ。諦めていたから本当に嬉しいの。大事に育てます・・・ありがとう』


『・・・お幸せにね』



アメリカで産まれた俺達の子供・・・名前は仁美が考えた『光留』になった。







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2019/11/30 (Sat) 12:35 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

パール様、こんばんは。

コメントありがとうございます。

はい!やっとあきら君に天使を連れて参りました~❤
もっと早くに、って思ってたんだけどなかなか花音が終わらず、仕事は忙しくでこんなに延びちゃった💦

光留って名前は本編連載中から決めていたんですよ。
別にあきら君の○○ネタに被せた訳じゃないからね?

代理母さんって、そうする人もいるんですって。
自分で授乳したり抱いたりすると渡したくないって気持ちになる人が居るから、抱っこせずに早めに別れるって。
逆に代理母さんがそうするのを見て、依頼主が引き取りたくないって気持ちになったりね・・・。

この問題はなかなか複雑で難しいようですよね。


調べれば調べるほど簡単にはお話にはできないなぁ、と思いました。

2019/11/30 (Sat) 23:55 | EDIT | REPLY |   

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