FC2ブログ

plumeria

plumeria

花音がフランスに行ってから半年が過ぎた。
俺は大学4年・・・進路には迷いがないから残された学生生活を満喫、と言いたいけどほんの少し憂鬱な日々を送っていた。


大学ではいつも目立っていた存在の花音・・・俺の友人も何人泣いたか判りゃしない。
その度に理由を聞かれ、仕方なく説明すると相手が相手だけに流石に諦めるけど・・・それが恋になるかどうかは全然判らない。

昨日も電話したら『お兄様ならお仕事だけど?』って機嫌が悪かった。
どうやら類お兄さんに「勉強優先」って言われてるらしく、本格的にフランス語の勉強をさせられてるみたい。
それに加えて経済学という花音の苦手分野も家庭教師を付けられてるし、暫くはそんな雰囲気にもなりそうにない。


それよりも問題は我が家・・・あれから母様は普通にしてるけど父様の機嫌はイマイチだ。
俺の稽古の時もたまにうわの空・・・かと思えば急に怒り出すんだから。

それにお爺様が本気で京都に行くお考えを示された。
これによって父様が16代家元を襲名され、その跡は・・・・・・それを考えると気が重かった。


父様の跡を継ぎたくないわけじゃない。
俺も茶道家としての道を歩む事に迷いはない。
寧ろ初めて父様の点前を見た時の感動を思い出すと、自分が同じ道を選んだことを誇りに思うほど・・・まだまだ父様の域には全然届かないんだけど、それでもこの世界に触れられることを嬉しく思ってるのは事実。


事実なんだけど・・・そうなると問題が俺の相手・・・だったりもする。


『紫音も頑張りなさいよ?私が知らないとでも思ってるの?』


花音はいいよ・・・なんやかんや言っても宗家を継がないんだから。
それに比べて俺は・・・どうしたらいいんだろ?



**



俺達は小さい頃、美作の子供として育った。
その詳しい経緯は知らないけど、父様と母様が周囲から反対されて結婚できなかったからだと聞いていた。
だけど付き合っていたときに母様が俺達を妊娠して、父様はそれを知らずに無理矢理1度他の人と結婚。その後、俺達は経済的理由と母様の病気が重なったから美作に養子に出されたと聞いている。

そして父様と母様が再会して、その後・・・色々話し合った結果父様が離婚して母様との結婚を認めてもらった。
だからそれを機に俺達は美作から西門に、育ての親から本当の親元に引き取られた。

その後も西門、美作両方の両親は仲良くて、俺と花音も4人の親に囲まれてる気分だった。



美作に居たとき、子供ながら違和感を感じることがあった。
あの独特の甘い雰囲気と外国を思わせるような洋館・・・フリルのカーテンに装飾の派手な階段や柱。真っ白なリビングや猫足の家具に甘いケーキ・・・いつもそれの何処かに小さな拒否感があった。

落ち着かない・・・ただそれだけなんだけど、花音と違って余り表情に出なかった俺の事は誰も気がつかなかったと思う。


そんな時、父様に出会った。

瞬間、その人に何かを感じた。
触れられた時のカッと熱くなる感じ・・・それに自分には無い鋭さ。穏やかで柔らかなイメージの美作の父とは違う、シャープで真っ直ぐな印象・・・上手く言えないけど凄く憧れた。


日光での初めての茶会・・・その時は「ちゃかい」なんてものの意味すら判らなかった。
ただ「そうちゃんパパ」が何かをしてくれる、それだけでドキドキしながら「つくしママ」に連れられて行ったんだ。

今ならそれが如何に子供向けだったのかという事が判るけど、その時は逆に堅苦しそうで息が詰まった。
息が詰まるんだけど、引き込まれる・・・そんな不思議な時間だったことを今でも覚えてる。

掛けてあった「一期一会」の掛物。
花音が「苺」と勘違いしても父様は嫌な顔1つせず、子供だからって馬鹿にするわけでもなく丁寧に教えてくれた。


「漢字で書いてあるからな。上2つの文字が『いちご』下2つの文字が『いちえ』だ。『一期』とは自分の人生・・・生きてる間って事だ。『一会』とはただ一回の出逢いって意味。判るか?」

「「わかんない・・・」」

「簡単に言えば、どんな相手だろうとどんな場所場面であろうと、その人と言葉を交わすその一瞬一瞬はその時だけ・・・1回だけって事だ。だからその出会いに感謝しようって意味だ」

「・・・でも、ぼく、みんなと毎日会ってるよ?」
「かのんも~」

「それでもその日に話した内容と言葉、時間は違うだろう?同じ時間は作れない・・・つまり1回しかないって事なんだ。全く同じ時間が2回来る事はない。誰であってもその一瞬はその時だけって事を言うんだ」

「ふぅ~ん・・・」
「しおん、わかるの?」
「・・・なんとなく?」



本当は判んなかった。
でも父様に褒めてもらいたくて判ったフリをした。
父様の話を聞きながら、俺は父様の姿勢や喋り方に惹かれてたんだ。意味も判らないのに心の奥にスーッと染み込むような声、そして普段とは違う優しい目だった。


「少し哀しい言葉だが『出逢った時が別れの時』とも考えられる。その時が過ぎれば別れるだろう?そして普通はまた会えるんだ。でも絶対に会えるかどうかは判らない・・・だから誰かと逢った時間は大事にしなさい、そう言う意味だ」

「あえない時もあるの?」

「あぁ、ある・・・この前行った旅館のお婆ちゃんだって次にいつ会えるか判んないだろう?またねって言って別れたからって会えるとは決まってない。大事なのはいまこの時間だって事だ。
俺はこうやって茶を点てることが仕事だから、何度も茶会ってものをやってるが、絶対に同じ茶会は出来ないと思ってる。だから、1回の茶席を大事にしようと思ってるんだ」

「・・・ふぅ~ん」

「はは、難しいな。ほんの少し頭の隅に置いておいたらいい・・・出会った人との時間を大事にするってな」




出会ったことを大切に・・・それが「一期一会」。
この時、それだけは頭にインプットされた。

いつ誰と、どんな風に出会ってもそれは大事な時間・・・決して2度と来ない、その時だけのものだと。


この日、父様は薄茶点前を見せてくれた。
片手を怪我していた父様を母様が手伝って、建水、水指、茶器や茶碗を定位置に置き、柄杓を釜の近くに置いた。茶器、茶杓、棗を膝前まで持って来て帛紗捌きをし、それらを拭いていく。
今なら俺も判るけど、その時にはなんの為にそれをして、どう言う動きなのかなんて全然判らなかった。
判らなかったけど食い入るように見ていたのを、父様に気付かれたのを覚えてる。

少しニコッと笑われたから・・・でも、魅入ってしまった俺は唇を噛んだまま見ていた。

出された茶はとても薄いもの・・・飲み方が判らないからジッとしていたら父様が教えてくれた。


「俺がここに置いただろう?紫音はそれを自分の膝の正面まで持って来て1度置きなさい」
「・・・はい」

「ここで本当なら次の客に挨拶してからだが、今日はこのまま進めよう。まず挨拶は『お点前いただきます』だ」
「おてまえ・・・いただきます」

「そうだ。次に茶碗を右手で取って左手に乗せ、右手を添えてから茶碗の正面を避けるために、懐回しと言って時計の針と同じ方向に2度回して向きを変える。最後まで残さず吸いきる感じで飲みきるんだが、無理しなくていいぞ?」
「・・・・・・はい」

「飲み終わったら飲み口を右手の指先で軽く拭うんだ」
「・・・はい」



怖かった・・・どんな味だろうかと。
それまでにあんな緑色の液体なんて飲んだことがないんだから。

飲んでみたいけど口に運ぶまでに何度も周りを見て、本当言えば助けて欲しかった。
「もういいよ、飲まなくて」って止めて欲しかったのに誰も言ってくれない・・・だから目を瞑ってゴクンと飲んだときの不味さ!

あれは強烈だった・・・父様の作法には魅入ったけど、あれで出来たものがこの味とは・・・って吐きそうだった。

それでもこれも「一期一会」。
父様との時間を大事にしなきゃいけないんだと思って、泣きながら答えたんだよな・・・。

「けっこうな・・・おふくかげんで・・・」って。

花音の逃げ足は速かったよな。
あの足でも類お兄さんには追い付かないみたいだけど。



「どうだった?紫音・・・これな、茶道ってんだ」
「さどう?」

「そうだ、茶道・・・これが俺の仕事だ。いつか本格的な茶を紫音に飲ませてやるからな」

「・・・はい!」



茶道と言う言葉を初めて知った日・・・でも、自分の世界はここだと思った日だった。





にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村
応援、宜しくお願い致します♡





「私の帰る場所」、最後の番外編『紫音の夢』です。
不定期になりますが宜しくお願いします。
関連記事
Posted by

Comments 2

There are no comments yet.
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2020/01/12 (Sun) 20:33 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

パール様、こんばんは。

コメントありがとうございます。

ははは!出てきました(笑)
本当はもっと早くに書きたかったんだけどね~。
予定では11月には終了だったんだけど、少し忙しくなったから今になってしまった💦

紫音もお利口さんだったけど、それなりにストレスはあったのね?(笑)って感じです。


緑色の液体の味(笑)
私はお抹茶を初めてお茶碗でいただいたのは高校生でした。
それでも「こんな味?」って驚いたもん(笑)

3歳で飲んだら吐くよね・・・って思う。

ゆっくりしか書けないけど、最後の番外編にお付き合い下さいませ♡

2020/01/13 (Mon) 01:22 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply