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朱里に「寄って行けば」なんて言えない。
朱里も「みんな居るの?」なんて聞きもしなくて、土産を渡したらさっさと「じゃあねぇ~」って帰って行ったから。

俺はその後ろ姿を玄関で見送って「バイバイ」も「さようなら」も言わなかった。照れ臭くて今更言えないんだ・・・ましてや「またな!」なんて言い方も出来ない。
普通に言えばいいじゃないか、と自分に言い聞かせるけど・・・それを悩んでるうちに朱里はいつも居なくなるんだ。

はぁ・・・どうしてこの時だけ意気地がないんだ、俺は。


この春の大学の入学式だって在校生代表の挨拶をした。1度も言葉に詰まらなかったし、学長からも褒められた。
桜の茶会も小さな茶席だったが亭主を務めた。そこそこ喜んでもらえて父様にもお小言を言われずに済んだ。
この正月には初めて父様に代わって西門のカレンダーのモデルをした。カメラを向けられても緊張しなかった。

それなのにどうして朱里の前だと何も言えないんだ?!


玄関の柱に縋り付いて5分ほど撃沈・・・その後で朱里の持って来た土産を抱えて母屋に戻った。


「あら!朱里ちゃんは?」
「・・・帰ったよ。はい、これが土産だって」

「えー?!上がってもらわなかったの?紅茶の準備してたのに~!」
「だってそんなの言わなかったじゃない。朱里だって母様に会うとか言わなかったし」

「そんなぁ~!」


母様に土産の箱を渡してダイニングに入ったら・・・そこには父様も居た。
まさか父様も朱里が来るのを待ってたとか?それは実に面白くなかった。

だって朱里・・・父様のことが好きだって昔から言ってるから。


あきらさんだって充分格好いいのに、何もうちの父様を気に入らなくてもいいじゃないか。そしていつも俺と父様を比べるんだ・・・それこそ背の高さから声の質まで。


『総二郎おじ様って181㎝なんでしょ?パパは179㎝なの。その180超えるかどうかって結構重要よね~。紫音って何㎝?』

悪かったな・・・俺は178㎝だよ!

『おじ様の声ってちょっと低くて、でも甘ーい感じだよね~。声の通りもいいし、名前を呼ばれたらゾクッとしちゃう~!紫音って意外と声が高いよね?』

悪かったな・・・俺は子供の時はボーイズソプラノで変声期が来てもカウンターテノールだよ。

『おじ様のお茶会にご招待いただいたの。緊張しちゃう~!紫音もそんな事、もうしてるの?』

悪かったな・・・父様の亭主デビューは高校生だったけど俺は大学生だよ・・・だから何?

『総二郎おじ様ってバイクに乗るんでしょ?1度ドライブに行ってみた~い!紫音、頼んでよ~』

悪かったな・・・俺は運転出来なくて。でも残念だけど父様は母様以外の女性は乗せないから。


テーブルの上にはホントに朱里専用のカップに紅茶が入れられてて、そこには何故か絢音も居た。
そんなにみんな朱里と話したかったのか?俺が誘わなかったのがすごく悪かったみたいな空気になってる・・・それを無視しながら自分の椅子に座って紅茶をひと口飲んだ。


「朱里は?」
「帰りました」

「帰ったのか?なんだ・・・そうか」
「いけませんでしたか?そんなに会いたかった?」

「・・・なんで怒ってるんだ?紫音」
「怒ってなんていません。これが普通の顔です」


いや、感情丸出しだろう。俺はいつも朱里のことにだけ顔に出る・・・そんなの自分でも判ってるけど。
どうにかして話題を変えたくて、朱里のくれたマカデミアナッツのチョコレートを皿に出してる母様に、どうでもいい弟の話を切り出した。


「颯音は?まだなの?」
「あぁ、颯音は試験が終わったから部活ですって。試合も近いって言ってたからね~」

「へぇ、そうなんだ。珍しいね、あいつが練習するなんて」
「あら、口は悪いけど意外と真面目なのよ?うふふ、そう言うところはお父様に似てるわ」

「・・・・・・・・・」


悪かったな・・・俺は父様と似てるところが顔だけで!

また変なところを比べられた気がして眉間に皺が寄る・・・父様がそれを見てないフリして見てるのも気が付いてるけど、眉間の皺はドンドン深くなっていった。
出されたチョコを絢音は行儀悪く肘ついて食べようとしたから母様に叱られ、父様は雑誌を見ながら食べようとしたからやっぱり母様に叱られた。

勿論俺はそんな事はしない。キチンと背筋を伸ばしてお茶を飲み、小さく「いただきます」なんて言いながらそれを摘まんだ。
・・・はぁ、こんな所で行儀良くても誰も褒めてくれないけど。

朱里だって見てないし。



「そう言えば、朱里ちゃんってすごいのよ?」

急にそう言ったのは英徳高等部の絢音・・・その言葉で父様も母様も手を止めた。

「何がすごいのさ」と、上擦った声で聞いた俺。
如何にも興味なさそうにしてみたが、何故か両親は俺を見る・・・そこ、話そうとしてる絢音を見たらいいのに!


「うん、朱里ちゃん、今年から始まった中等部のミスコンで優勝したんだよ?初代ミス英徳中等部!すごいよね~!」
「・・・ミスコン?」

「まぁ、そんなのが始まったの?中学生ってまだ子供っぽいのに」
「・・・まぁ、あきらの娘だから当たり前かもな」

「まぁね!でも花音姉様も高等部の2年と3年と、大学の2年と3年、合計4回も優勝してるよ?後は準ミスだし!」

「・・・・・・・・・・・・」
「・・・あ、あっはは!絢音、紅茶のお代わりあげようか?」


馬鹿、絢音・・・花音の名前を出すから父様のご機嫌が悪くなったじゃないか!

半年経っても花音の話題だけはダメなんだから。
ホント、娘を溺愛する父親ってのは厄介だな・・・と思った時に朱里を溺愛してるあきらさんの顔が浮かんできて、今度は俺がガックリ肩を落とした。


あきらさんも朱里にすごいんだ・・・男が近寄ろうとしただけで警護の人間がすぐに飛び出せるように配備させてるんだから。

『朱里には苦労のない家に嫁がせたいし、相手の男は俺が認めたヤツじゃないとな』・・・いつだったかそんな事言ってたし。


1番の問題は「苦労のない家」・・・・・・西門ここ、すっごく苦労すると思うんだけど。



「それでね、高等部3年の西林先輩が朱里ちゃんに申し込んだらしいよ?」
「・・・申し込んだ?何を?」

「やだぁ、紫音兄様!高3だよ?卒業のプロムのパートナーに決まってるじゃん!
朱里ちゃんクラスになると今から申し込んでおかないとダメなのよ。中学生で選ばれたの、朱里ちゃんくらいだと思うよ~?西林先輩ってめっちゃ格好いいんだから!みんなが美男美女って騒いでたし。朱里ちゃん、どうするんだろうねぇ~?」

「・・・・・・・・・・・・」


「紫音も今年卒業だろ?大学は本格的なプロムがあるが、誰か居るのか?」
「お父さんったら・・・そんなの紫音に任せたらいいのよ。親が口出ししないの!子供じゃないんだから・・・」

「・・・・・・・・・・・・」


全然考えてなかった。
そう言えば・・・そんな行事がある。

確かに高等部の卒業とは日にちのズレはあるけど、大学の方が後・・・だよな?
でも、大学生の俺が中学生をパートナーにするのか?いや、それは不味いだろ・・・いや、その前に朱里が受けてくれるのか?
いやいや、その前にあきらさんに許可を・・・そうじゃなくて、西林の申し入れを受けるのか?
それよりも美作の警護は何をしてたんだ!ダメじゃないか、そんな男を近づけちゃ!

いや、そもそも朱里って好きなヤツが居るのか?


ってところではっ!と気が付いたもう一つの土産・・・・・・イルカのネックレス。

あれは偶然朱里も気に入って買ったのか、それとも俺とお揃いにしたくて・・・?でも今までそんな素振りを見せたことってあったかな・・・。
不味い、こんがらがってきた。初めに片付けなきゃいけない問題ってなんだ?




「じゃあ紫音、稽古を始めるか。着替えてきなさい」
「・・・・・・・・・・・・」

「おい、聞いてるのか、紫音?稽古はどれだけ忙しくても毎日だぞ?おい、紫音?!」
「・・・・・・・・・・・・あ?」

「呆けてないで着替えてこい!今度の葵の茶会、お前にも茶席があるんだろうが!」
「は、はいっ!ごめんなさい!」


まずは今日の稽古から。
父様に怒鳴られて自分の部屋に向かい、着物に着替えながら・・・チラッとイルカのネックレスに目をやった。




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2020/01/15 (Wed) 09:51 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

パール様、こんにちは。

コメントありがとうございます。

紫音、可愛いでしょう?♡
あの総ちゃんの息子とは思えない真面目ぶり💦

まぁねぇ~、目の前に完璧な父が居ますので自信もなくなるよね(笑)
向こうのパパもあきら君だし。
ある意味、可哀想な紫音です(笑)

今月中には終わらせるぞーっ!と意気込んでおりますが、リアル多忙につき遅れるかも?💦
ゆっくりお付き合い下さいませ♡

いつもホントにありがとう~!!


2020/01/15 (Wed) 10:45 | EDIT | REPLY |   

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