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その日の夜は殆ど寝ることが出来なかった。
せっかく布団に入ることが出来たのに頭はフル回転・・・これまで聞いた事を何回も繋ぎ合わせていた。

それに凄くショックだった。
花沢物産の人間のせいで牧野の両親が経営していた会社が倒産・・・柊祐は許せないけど、その母親は被害者だ。

そんな不正が起きなかったら今頃この親子はどうなっていたんだろう。


でも、そうなると俺とつくしは出会っていないかもしれない。
それならこの数奇な運命の中にも少しは救いがあったって事?いや、でもつくしは辛すぎる生活を強いられたんだ。
おそらく親がお金を残してくれたからそれで英徳に入ったって言うのも作り話の可能性が高い。本当は育ててくれた有栖川老人が仕組んだ罠で、俺と引き合わせていずれは花沢に復讐したかった?

思惑通り俺達は出会って、予想していたのかどうかは判らないが恋人になった・・・。
そして婚約、結婚まで・・・。


そんな確率の低い、全てが仮定の話を本気で何年間も計画するんだろうか。
しかも狙うのが不正を犯した人物じゃなくて花沢家・・・それは柊祐が自分も花沢の血を引くと思い込んでるから?
本来なら父さんの手は自分の手を握る筈だったと・・・隣に立つのは母さんじゃなくて有栖川祐子だった、そう思ってるんだろうか。


俺が邪魔って訳だ。
でもやっぱりつくしを利用する意味が判らない。

何度考えても必ずここで思考は止まる・・・それならやはり、柊祐に会うしかない。
本人からその思いを聞く以外に真実を知る方法はないと言うことだ。


もしかしたら父さんにも聞いてもらった方がいいんだろうか。
あの人も何か知ってるかもしれない・・・柊祐の居場所が判ったら、この地に父さんを呼ぼうと決めた。




明け方に少しだけ寝てしまったようで、部屋をノックする音で目を覚ました。
やってきたのは昨日と同じ、中野美枝子の兄で、その手には朝食があった。


「おはようございます。良く眠れましたか?寒かったですかねぇ?都会とは冷え込み方が違うからねぇ」
「・・・いえ、寒くはなかったです。それよりもお聞きしたいのですが」

「はい?何でしょうか?」


朝食をテーブルに置いてくれて、忙しい時間なのに部屋に留まってくれた。だから手短に「山奥にあると言う屋敷を知らないか」と尋ねた。
それに「有栖川と言う名前にも聞き覚えがないか」と付け加えると、暫く考え込んでいた。


「美枝子が言ったようにこのずーっと奥の方に大きな洋館があるって言うのは知ってます。
回りに全然家も無くて、森に囲まれたような場所ですよ。でも、そこに行く途中の道が封鎖されてるから行きませんし、用も無いからねぇ」

「行く事は出来る?その道以外に車が入れる道は?」

「実はね、その封鎖された道の少し手前に進入禁止って書かれた札がある山道があるんですがね、そこから入るとその洋館に辿り着くはずですよ。勿論誰も行きませんけど・・・でも、たまに軽自動車が行くのを見るんだけどねぇ、その車が洋館に行ってるかどうかは知りませんよ?」

「軽自動車・・・ですか?大きな車じゃなくて?」

「山道ってのは知られてないだけで意外と抜け道があるかもしれないからねぇ・・・それと有栖川って名前だけど」
「ご存じですか?」


この人の話は「昔この辺りに居た大地主の娘が、有栖川家という余所の町の大金持ちと結婚したのを思い出した」と言うものだった。
中野美枝子の兄がまだ子供の頃だったけど、町中が大騒ぎに成る程の花嫁行列だったらしい。


「有栖川と言う名前が珍しくてね。自分達の親が何度も言うから覚えたけど、なんたって子供だったからどの町に住んでる人かも知りませんよ?今じゃあもう誰も言わなくなったけど、昔は誰かが結婚する度にその時の大袈裟な花嫁行列を思い出して噂になっておりましたよ」


つまり、この山奥にある洋館は有栖川家所有では無く、その家に嫁に行った人の実家って訳だ。


食事を食べ終わった後、男性に何度も礼を言ってからその山に向かった。



♪~♪~~♪

今度掛かってきたのは三条から。
また何かあったのかと思って車を路肩に停め、その電話に出た。

「もしもし、どうした?・・・って言うか、呼び出しされても行けないけど」
『おはようございます、花沢さん。ご心配なく!あれからは捕まっていませんから正気ですわ。そうじゃなくて、思い出しましたの!』

「思い出したって、何を?」
『スクリーン越しの男が鳴らしていた音ですわ。昨日の夜、偶然同じ音を聞きましたの』


三条が興奮しながらそう言ったのは、柊祐と思われる男が三条の前で鳴らしていた「リズミカルな機械音」。
勿論それに何の意味があるのかも判らないけど、どんな情報でも欲しかった俺はその音の正体を聞いた。


『パテックフィリップのミニッツリピーターですわ』

「・・・ミニッツリピーター?」
『えぇ、お得意様と飲みに行った先で偶然聞きましたの。間違いないと思います』


ミニッツリピーターとは時計内部の環状のゴングをハンマーで叩くことにより現在の時間を知らせる装置。18世紀頃に暗闇で懐中時計の文字が見えない時、「3つの音色」で時刻を知らせることが出来るように発明されたものだ。
今のように電気がないから夜になったら時間を知るのに困った時代・・・ミニッツリピーターは多くの部品があって、組立てには非常に高度な技術が必要だから腕のいい時計技師でも300時間も掛けて組み立てたと言われている。

だから今でもミニッツリピーターが搭載された時計は、軽く数千万の値が付けられるほどだ。

その音をわざわざ三条が居る時に鳴らしていた・・・って事はある意味クセになってる?


「ありがとう。もしかしたら何かの手掛かりになるかもしれない。助かるよ」

『色々厄介な事になってるみたいですけど、このまま黙ってるなんてこと・・・ないですわよね?』

「勿論。今はマンションを抜けだして新潟に来てる。つくしが近くに居る気がするんだ」

『流石ですわね。必ず先輩をお連れになってお帰り下さい。吉報だけお待ちしますわ』

「判ってる。そのつもりだ」


再び車を山に向けて走らせた。
その途中、いくつかの砂利道を確認・・・そして聞いたように「通行止め」のテープで封鎖された道に来た。


「・・・って事は今まで見た脇道のどれかに屋敷に繋がる道があるわけだ・・・」


今度は引き返して、山の向こうを睨みながら脇道を探った。




********************


~side柊祐~

「鈴花、食欲がないって聞いたけど」

「・・・・・・・・・・・・」


彼女の部屋に入ったら、今朝もやっぱり窓辺に立って外を見つめていた。
今日は俺の言葉に返事もしないし、振り向きもしない。

やはり、これは初めてのケース・・・もう1度鈴の音で催眠暗示を強めるしかないと思った。
だから1度自分の部屋に戻り、いつもの鈴を手にしてまた鈴花の部屋に向かった。

何1つ動いていない・・・完全に意識が俺の支配下から外れて外に向かっていた。


・・・チリン・・・・・・チリン・・・チリン・・・


ビクッと鈴花の身体が動いた。それでも視線は窓の外・・・それもいいだろう。
次の問い掛けで鈴花は俺の方に戻って来る。


・・・チリン・・・チリン・・・・・・チリン・・・
      ・・・チリン・・・・・・チリン・・・チリン・・・


「鈴花、こっちにおいで。お茶を入れたから一緒に飲もう」
「・・・・・・はい、柊祐」

「良い子だね。さぁ、こっちだよ・・・窓から離れるんだ。君は自分が誰だか判る?」
「・・・・・・・・・いやだわ、柊祐。私はあなたの妻です。成瀬鈴花・・・私の名前は成瀬鈴花よ?」

「そうだよ、鈴花・・・さぁ、もっとこっちにおいで?」

「・・・・・・えぇ、柊祐・・・今、行きます」



・・・チリン・・・・・・チリン・・・チリン・・・


この音からは逃げられない・・・それなのにこの不安は何だ?



「・・・烏が多いの」
「え、なに?」

「あの山の向こうにね・・・烏が鳴きながら沢山飛んでるの。朝なのに珍しいわ・・・」
「・・・・・・そうだね」


烏だけなら・・・いいけどね。





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★ミニッツリピーターの三つの音。

最初に時を低音、次に15分単位を高音と低音の組合せ、最後に残りの分を高音で奏でます。
もし時刻が9時49分であれば、低音が9回(9時)、高音と低音の組合せが3回(45分)、
高音が4回(4分)鳴るという仕組みです。
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2019/12/09 (Mon) 09:01 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんばんは。

コメントありがとうございます。

ふふふ、類君ったら???だらけですがいよいよ突入!ですっ!
そこでお互いに知らない事が判ってくるのかも・・・

類パパがやっぱり1番暢気かもしれません(笑)


柊祐は・・・うん、そうですね。
でも、もしかしたら無茶するかも(笑)

ご、ごめんなさいっ!!

2019/12/09 (Mon) 22:20 | EDIT | REPLY |   

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