雨の降る日はそばにいて (48)
あきらが牧野を連れてくると連絡をしてきた。
あいつに会えるという期待とは別に、上手く説明が出来るか・・・牧野が納得してくれるのか、そればかりを考えた。
あきらが伝えてきた時間が近づく・・・妙に落ち着かない自分がそこにいて緊張してるんだと悟った。
この俺が・・・西門総二郎という男がこんなにも緊張するなんて・・・。
情けねぇが、そのぐらい手放したくないものがこの俺にもあったんだ。
弟子の1人があきらの到着を告げてきた。
しばらくして、あきらと牧野だろうか会話が聞こえてくる・・・。
ドアがノックされて・・・俺はゆっくりとそのドアを開けた。
「牧野・・・!!」
あきらは入ってこなかった。それをあきらの気持ちだと受け止めて、牧野1人を部屋に入れた。
牧野は下をむいたまま・・・一言も言葉を出さずに部屋に入ってきた。
もの凄い緊張感・・・俺以上に牧野からは震えるほどの緊張感が伝わってくる。
無理もないか・・・ついこの前、ここであんなシーンを見せられたんだから。
「牧野・・・取り敢えず座って話そう。・・・段差、気をつけろよ?」
そう言うと少し苦笑いして、牧野は部屋の真ん中に・・・俺の横まで来た。
まだ俺の顔を一度も見てはいない・・・避けられているような気がして我慢できなくなった。
思わずソファーに座ろうとする牧野の腕を引き寄せて抱き締めた・・・!
牧野は俺の急な行動にビクッとしてその身体を縮めてしまったけどかまうことなく抱き締めた。
「会いたかった・・・急にいなくなるから無茶苦茶心配したんだ!良かった・・・無事で・・・」
俺が両手で牧野の身体を抱き締めているのに、牧野の両腕は下に落ちたまま俺を包むことはなかった。
それは牧野がいかに傷ついたかを確かめたような気がした。
牧野は少し痩せてしまったのかもしれない・・・このまま折れそうなほどこいつの身体は細く感じた。
「西門さん・・・離して?」
離して?・・・今までで一度も言われたことのない言葉・・・。
「いや、離さない!お前だけは離さないって言ったはずだ!」
「今は離して・・・?逃げるわけじゃないから」
仕方なくその身体を離したら、牧野はそのままゆっくりと俺の手を自分の腕から外した。
そしてやっと俺の眼を見て、震えるような声を出した。
「話しがあるって言うから来たの。美作さんが行ってこいって言うから・・・」
「あきらに言われたから来たのか?言われなかったら来なかったのか・・・もう俺には会いたくはなかった、
・・・そういう事なのか?牧野・・・」
牧野は黙ってソファーに座った。
本当ならその隣が俺の場所なのに、今回は向かい合わせで座る・・・このわずかな距離が悲しかった。
まるで今から別れ話でもするかのように青ざめて両手を固く握っている。
「牧野・・・俺が今から話すことはあきらと確かめ合った真実だ。お前には辛い内容もあるかもしれないけど
しっかりと聞いて欲しい。そして全部聞き終わったら・・・もう一度あの時の返事が聞きたい。
あきらからはどこまであの日の事を聞いたんだ?」
「西門さんが謹慎処分を受けたって事だけ・・・どうしてなの?どうして西門さんがそんなもの受けなきゃならないの?
それも・・・私のせいなの?」
「なんで牧野のせいなんだ?お前は何もしてないだろ?あの時だってお前はここに来ただけだ」
訳がわからないって顔して牧野は俺の方を見た。
そりゃ、わかんないだろう。あきらと話すまで俺だって全部はわからなかったんだから。
「これまでの話しを聞いてくれるか?綾乃がしてきたこと・・・お前も含めて俺たちが騙された内容だけどな」
俺はあきらに話したことを牧野にも説明した。
ホテルに俺の名前を使って牧野を呼び出したこと、あきらに俺が遊びだと説明して2人を別れさせようとしたこと。
実は俺がその場面を目撃していて、牧野が俺に嘘をついたこと・・・正確には嘘を付くように言われたことだが
俺にバレていたのを知った時は牧野も動揺していた。
「見られてたんだ・・・。おかしいとは思ったの・・・私にじゃなくて美作さんにだけ連絡入れただなんて・・・。
でも、あの時は西門さんが私のせいで困ってるって聞いたから・・・何も聞けなかったのよ・・・」
「俺も同じだ・・・お前のことは信じてたけど、あきらを疑ってばかりでさ。お前の口からあきらの名前が
出るのが嫌で無理矢理忘れようとしたんだ。俺にも余裕がなかった・・・悪かったよ」
京都行きはお袋を巻き込んで綾乃が仕組んだこと。
西門が動いたのではなく綾乃がやったことだと聞いた牧野は少しだけホッとしたようだった。
これも家元夫人が主導で動いたのなら、牧野はとても西門に入る気になどならないだろう。
そして1番聞きたかったのはあの日の事だろう・・・それもすべて話した。
俺に薬を使ってでも牧野から奪い取ろうとしたことも、牧野が来ることを知った上で自分から服を脱いでまで
演技をしたこと・・・その後に自らを傷つけて俺を引き留めようとした行為まで。
「綾乃はお前に見えないように自分に鋏を向けていたんだ。でも俺はその刃先がどこに向かうのかが怖くて・・・
俺なら良かったが、もしお前に向いたらと思うと動けなかった」
すべてを聞いた後、牧野は涙をこぼした。
声を出すこともなく・・・表情を変えることもなく、ただ涙をこぼした。
「カサブランカのことも、お部屋を間違えたのも、副会長さんに見せつけたのも・・・やっぱりわざとだったのね。
あんなに綺麗な人をそこまで追い詰めさせたのは私達なんだね・・・」
「俺がまだ知らないこともあるって事か?そんなにやられてたのになんで俺には言わなかったんだ?」
「・・・なんでだろう。怖かったのかもしれない・・・確かめるのが。信じきれてなかったのかな・・・」
「俺の事をか・・・?」
「ううん。自分の事が・・・だよ。自信が持てなかった・・・そういう事だと思う。決心がつかなかったんだよ」
恋をすることに臆病だったと・・・牧野は泣いていた。
俺を信じると言いながら、実は自分自身を信じ切れていなかったと言って泣いていた。
「俺は綾乃がそこまでしてもあいつを女としてみることは出来ないし、責任も取れない。
未然に防げなかったということでの謹慎処分だ。綾乃が俺に薬を使おうとしたことは家元達には言えなかったよ」
「謹慎処分なんて・・・西門さんは悪くないのに・・・っ!そんな事をしたら西門さんの将来はどうなるの?
もう一度ここで仕事をすることが出来るようになるの?・・・全部がなくなったら・・・どうしたらいいの?」
我慢できなくなった牧野は声を上げて泣いた。
俺は牧野の横に行ってその肩を抱き寄せた・・・今度は牧野も俺の背中に手を回してくる。
牧野の手は以前のように強く俺を包み込んだ。
こんなに辛い話しをしているのに久しぶりに背中にある牧野の手が嬉しかった。

あいつに会えるという期待とは別に、上手く説明が出来るか・・・牧野が納得してくれるのか、そればかりを考えた。
あきらが伝えてきた時間が近づく・・・妙に落ち着かない自分がそこにいて緊張してるんだと悟った。
この俺が・・・西門総二郎という男がこんなにも緊張するなんて・・・。
情けねぇが、そのぐらい手放したくないものがこの俺にもあったんだ。
弟子の1人があきらの到着を告げてきた。
しばらくして、あきらと牧野だろうか会話が聞こえてくる・・・。
ドアがノックされて・・・俺はゆっくりとそのドアを開けた。
「牧野・・・!!」
あきらは入ってこなかった。それをあきらの気持ちだと受け止めて、牧野1人を部屋に入れた。
牧野は下をむいたまま・・・一言も言葉を出さずに部屋に入ってきた。
もの凄い緊張感・・・俺以上に牧野からは震えるほどの緊張感が伝わってくる。
無理もないか・・・ついこの前、ここであんなシーンを見せられたんだから。
「牧野・・・取り敢えず座って話そう。・・・段差、気をつけろよ?」
そう言うと少し苦笑いして、牧野は部屋の真ん中に・・・俺の横まで来た。
まだ俺の顔を一度も見てはいない・・・避けられているような気がして我慢できなくなった。
思わずソファーに座ろうとする牧野の腕を引き寄せて抱き締めた・・・!
牧野は俺の急な行動にビクッとしてその身体を縮めてしまったけどかまうことなく抱き締めた。
「会いたかった・・・急にいなくなるから無茶苦茶心配したんだ!良かった・・・無事で・・・」
俺が両手で牧野の身体を抱き締めているのに、牧野の両腕は下に落ちたまま俺を包むことはなかった。
それは牧野がいかに傷ついたかを確かめたような気がした。
牧野は少し痩せてしまったのかもしれない・・・このまま折れそうなほどこいつの身体は細く感じた。
「西門さん・・・離して?」
離して?・・・今までで一度も言われたことのない言葉・・・。
「いや、離さない!お前だけは離さないって言ったはずだ!」
「今は離して・・・?逃げるわけじゃないから」
仕方なくその身体を離したら、牧野はそのままゆっくりと俺の手を自分の腕から外した。
そしてやっと俺の眼を見て、震えるような声を出した。
「話しがあるって言うから来たの。美作さんが行ってこいって言うから・・・」
「あきらに言われたから来たのか?言われなかったら来なかったのか・・・もう俺には会いたくはなかった、
・・・そういう事なのか?牧野・・・」
牧野は黙ってソファーに座った。
本当ならその隣が俺の場所なのに、今回は向かい合わせで座る・・・このわずかな距離が悲しかった。
まるで今から別れ話でもするかのように青ざめて両手を固く握っている。
「牧野・・・俺が今から話すことはあきらと確かめ合った真実だ。お前には辛い内容もあるかもしれないけど
しっかりと聞いて欲しい。そして全部聞き終わったら・・・もう一度あの時の返事が聞きたい。
あきらからはどこまであの日の事を聞いたんだ?」
「西門さんが謹慎処分を受けたって事だけ・・・どうしてなの?どうして西門さんがそんなもの受けなきゃならないの?
それも・・・私のせいなの?」
「なんで牧野のせいなんだ?お前は何もしてないだろ?あの時だってお前はここに来ただけだ」
訳がわからないって顔して牧野は俺の方を見た。
そりゃ、わかんないだろう。あきらと話すまで俺だって全部はわからなかったんだから。
「これまでの話しを聞いてくれるか?綾乃がしてきたこと・・・お前も含めて俺たちが騙された内容だけどな」
俺はあきらに話したことを牧野にも説明した。
ホテルに俺の名前を使って牧野を呼び出したこと、あきらに俺が遊びだと説明して2人を別れさせようとしたこと。
実は俺がその場面を目撃していて、牧野が俺に嘘をついたこと・・・正確には嘘を付くように言われたことだが
俺にバレていたのを知った時は牧野も動揺していた。
「見られてたんだ・・・。おかしいとは思ったの・・・私にじゃなくて美作さんにだけ連絡入れただなんて・・・。
でも、あの時は西門さんが私のせいで困ってるって聞いたから・・・何も聞けなかったのよ・・・」
「俺も同じだ・・・お前のことは信じてたけど、あきらを疑ってばかりでさ。お前の口からあきらの名前が
出るのが嫌で無理矢理忘れようとしたんだ。俺にも余裕がなかった・・・悪かったよ」
京都行きはお袋を巻き込んで綾乃が仕組んだこと。
西門が動いたのではなく綾乃がやったことだと聞いた牧野は少しだけホッとしたようだった。
これも家元夫人が主導で動いたのなら、牧野はとても西門に入る気になどならないだろう。
そして1番聞きたかったのはあの日の事だろう・・・それもすべて話した。
俺に薬を使ってでも牧野から奪い取ろうとしたことも、牧野が来ることを知った上で自分から服を脱いでまで
演技をしたこと・・・その後に自らを傷つけて俺を引き留めようとした行為まで。
「綾乃はお前に見えないように自分に鋏を向けていたんだ。でも俺はその刃先がどこに向かうのかが怖くて・・・
俺なら良かったが、もしお前に向いたらと思うと動けなかった」
すべてを聞いた後、牧野は涙をこぼした。
声を出すこともなく・・・表情を変えることもなく、ただ涙をこぼした。
「カサブランカのことも、お部屋を間違えたのも、副会長さんに見せつけたのも・・・やっぱりわざとだったのね。
あんなに綺麗な人をそこまで追い詰めさせたのは私達なんだね・・・」
「俺がまだ知らないこともあるって事か?そんなにやられてたのになんで俺には言わなかったんだ?」
「・・・なんでだろう。怖かったのかもしれない・・・確かめるのが。信じきれてなかったのかな・・・」
「俺の事をか・・・?」
「ううん。自分の事が・・・だよ。自信が持てなかった・・・そういう事だと思う。決心がつかなかったんだよ」
恋をすることに臆病だったと・・・牧野は泣いていた。
俺を信じると言いながら、実は自分自身を信じ切れていなかったと言って泣いていた。
「俺は綾乃がそこまでしてもあいつを女としてみることは出来ないし、責任も取れない。
未然に防げなかったということでの謹慎処分だ。綾乃が俺に薬を使おうとしたことは家元達には言えなかったよ」
「謹慎処分なんて・・・西門さんは悪くないのに・・・っ!そんな事をしたら西門さんの将来はどうなるの?
もう一度ここで仕事をすることが出来るようになるの?・・・全部がなくなったら・・・どうしたらいいの?」
我慢できなくなった牧野は声を上げて泣いた。
俺は牧野の横に行ってその肩を抱き寄せた・・・今度は牧野も俺の背中に手を回してくる。
牧野の手は以前のように強く俺を包み込んだ。
こんなに辛い話しをしているのに久しぶりに背中にある牧野の手が嬉しかった。
