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気が付いたら俺と牧野は以前のように強く抱き締め合っていた。
俺は牧野の細い肩を抱き締めて、その黒髪に自分の顔を埋めていた・・・。
何日ぶりだろう・・・こうやってこいつを抱くなんて・・・少し甘い牧野の香りがくすぐったかった。

牧野も俺の胸に顔を埋めて両手を背中に回したまま・・・もしかしたらまだ泣いているのかもしれない。
牧野の息がかかるあたりが妙に熱くて・・・これが何でもない時なら間違いなくこの先に進んでるかもな・・・。


急に牧野が顔を上げて俺から離れた・・・。

「ありがとう・・・全部話してくれて。もう・・・よくわかったよ。・・・西門さん」

鼻の頭を赤くした牧野は笑いながらそう言った。

「何がわかったんだ?また、変なことを考えてるんじゃないだろうな、お前!」

この部屋に入ってきたときとは違って、もう牧野は冷静になっていた。
逆にこの落ち着き方が俺を不安にさせる・・・牧野が考えそうなことは言葉にされなくてもわかってしまうから・・・。


「私たちは綾乃さんをそこまで追い詰めたって事でしょう?私は人を追い詰めてまで幸せにはなれないよ。
未然に防げなかったって事は西門さんだけじゃなくて私にも言えることだと思うの。
この先、綾乃さんが苦しんでるのに私が西門さんの側にいることは・・・出来ないんじゃないかな」

「どうしてそうなるんだ?!俺の言葉はお前には伝わらなかったのか?
牧野・・・すべての人間がなんの苦しみも悲しみも持たずに生きられたらいいのかもしれないけど、
そんな事あるはずがないんだ・・・。時には自分の幸せの陰で他人が傷ついてしまうかもしれないが
それも受け入れるべきものだと俺は思うけどな・・・!」

一度は泣き止んだ牧野だが、再びその大きな瞳に涙を浮かべた。

「俺はお前から逃げる気は全くないからな!たとえ、この俺の想いを遂げるために誰かを・・・この家を
傷つけても、お前が残るのなら後悔はしない・・・これだけははっきりと断言できる。
お前はどうだ?牧野・・・あの時の約束、覚えてるよな・・・!」


*******


西門さんの言葉は私をどん底へと突き落とした。
あの可愛らしい人が、西門さんを手に入れるためにそんな事をしていたなんて・・・。

西門さんの言うことは正しいと思う。
確かに誰かを傷つけても、その愛が本物なら貫いていけばいいのかもしれない。
でも・・・もし、綾乃さんが一生歩けなくなってしまったら?
西門さんの方がその責任を感じて生きていくんじゃないの?それに耐えられる自信がなかった。
そんな彼を隣でずっと見ることなんて出来ない・・・2人共が壊れていくような気がして・・・。

こんな私を弱いというならそう言ってくれてもいい・・・!
そう思っていたときに西門さんがとても優しい声で話しかけてきた。


「なぁ、牧野・・・俺は今、お前が考えてることがどういう事かわかる気がする。その上で話しをしていいか?
俺がお前に初めて渡したもの・・・覚えてるか?俺が卒業するときに大学のカフェで渡したものだ。
あれにはちゃんと意味があったんだよ」

「ラピスラズリのピアス・・・のこと?誕生石でしょう?」

「そう・・・お前と俺の誕生石。その意味は自分の中の邪気を払い、正しい方向へ進む判断力を高めてくれるって
いうパワーストーンだ。マイナス感情から解放され、幸福へと導く石・・・どうしても牧野に贈りたかったんだ。
あの時・・・司と別れたときのお前の姿を見てきたから・・・次は絶対にお前が選んだ道に進んで欲しくてさ・・・」

何回か分のクリスマスと誕生日プレゼントだって・・・ポンって投げてくれたピアスなのに?
西門さんはそんな事を考えてあのピアスをくれたの?

「俺は仕事に行くときには必ず身につけるんだ・・・お前に渡したピアスと同じ石で作ってもらった角帯止め・・・
付けられるときには帯掛けとかな。自分の気持ちに迷いが出ないように持ち歩いてんだ」

西門さんが近くにある机の引き出しからそれを出して見せてくれた。
確かにそれは私の部屋にあるあのピアスと同じような色合いと・・・少しだけ金が入った模様がある。
そんな思いなんて知らずに、プレゼントが嬉しくて飾っていただけなんて・・・。


「明日になったらこの家を出る・・・あきらに聞いたんだろ?長野の方に行ってくるよ」

「どのくらいの謹慎なの?・・・何年もかかるの?」


「さぁな・・・藤崎の家が落ち着いて、綾乃の回復見込みが決まって・・・最終的には家元の判断かな。
よくわかんねぇや・・・耐えられるかな、田舎の寺で牧野もいないのに・・・」

軽くふざけて笑っている西門さんに聞いてみた。自分でも卑怯な言い方とは思ったけど・・・。


「その間・・・私はどうしたらいいと思う?」

「お前は俺を信じて待っててくれたらいいさ。今までと同じだ・・・俺の事だけ考えて待っててくれたら必ず俺は
お前の所に帰ってくるから。後は牧野次第だ・・・お前はそうしてくれるのか?」

「私は・・・もう一度よく考えたい。今日一度に色々聞いたからまだ混乱してる・・・」


西門さんは最後にもう一度抱き締めてくれた。
耳元で何度も名前を呼んで・・・苦しいほどに抱き締めてくれた。

そして、この部屋から出られない西門さんを置いて・・・私は西門さんとこの日は別れた。
次がいつになるのかもわからないのに、ちゃんとした言葉も、待っているという言葉も出せずに・・・。
部屋のドアが閉まる音がまるで最後だと言わんばかりに静かに響いた。



正面玄関に行くと、門の所で美作さんの車が見える。

そうだった・・・美作さんも全部知っているんだね・・・そしてあなたも被害者なんだね。


私は美作さんの車に行かずにそっと裏口から外へ出てしまった。
美作さんは必ず私を慰めようと必死になるだろう・・・それさえも苦しかったから。
今はとにかく1人になりたかった。

どこに行くかなんて何も考えずに、目の前の道をただ歩いていた。
そうしたら・・・私の頬にポツンと雨が落ちた。


「雨・・・?そうか・・・今日は雨が降りそうだって言ってたっけ・・・」


ふと、ある場所が頭に浮かんで・・・私の足はそこに向かった。

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2017/06/13 (Tue) 08:51 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

わんこ様、おはようございます🎵

おお!わんこ様、妄想中ですね‼
でも、サスペンス劇場の終わり間近はどん底じゃないですか?類を呼んだら話がややこしくなりますよ?

確かに舞台がフランスになるかも~❗

大丈夫ですよ。あきらがいるから。
今回はあきらに任せております。

あきつく始まる⁉わんこ様、お好きでしょ?

お楽しみに~❗

2017/06/13 (Tue) 09:22 | EDIT | REPLY |   

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