FC2ブログ

plumeria

plumeria

有栖川老人の部屋に戻ると、白い布で顔を覆った彼が横たわっていた。
父さんはまだ呆然とした感じで写真の彼女を見つめ、看護師はつくしの様子を見ていた。

その看護師もまた無表情で、見た事も無い俺達の事も、倒れているつくしの事も然程気にはならないようだ。淡々と自分の仕事をしながら柊祐が戻って来るのを待っていた。



でも、いつまで経っても彼は戻って来ない。

使用人を解放すると言ったけど、それにこんなにも時間が掛かるんだろうか・・・と、時計を見た瞬間、何処からか大きな音がした。
それはホールクロックの音・・・重く長い音が何度か聞こえて、それを耳にした看護師の身体がピタッと止まった。

5・・・6・・・7・・・・・・何回鳴るんだ?と思ったら12回目の音が鳴り終わった。


数秒後、動きを止めていた看護師がハッ!と顔をあげた。


「・・・あ、あれ?私・・・え?ここって・・・はっ?この人、どうしたんですか?!」

俺と父さんは顔を見合わせた。
その時の父さんの驚き方・・・ここに来てから何度その顔を見ただろう。

また目を見開いて看護師を凝視し、看護師はオドオドしながら部屋中をキョロキョロと見回している。
ここに入って来た時とは全然違う印象で、感情丸出しの彼女・・・俺は三条の時も見てるからそんなには驚かなかったけど、これで父さんにはあいつの催眠暗示を実際に見せることが出来た。
少しは信じてくれるだろうと逆にラッキーだと思う事にして、それを証明するために彼女に色々と質問をした。


「・・・あんた、さっき入って来て有栖川氏の身体を拭いてあげたりしてたけど・・・覚えてないの?」

「私が・・・ホントに?」

「あぁ、随分この屋敷に慣れてるようだけど、この人の事、知らないの?」


看護師は「森田」と名乗り、何も覚えていないと言った。
ここが津川の山奥だと言えばそれにも吃驚して、そんな場所に知り合いはいないと首を横に振った。
彼女は新潟市内の人間で、今は退職しているが前の職場は市内の総合病院・・・対人関係でストレスを溜め込み、アパートで1人暮らしをしていると言った。


「でも、たまにその日の行動が自分でもよく判らない事があったんです。
気が付いたら部屋着から外出着に着替えてたり、鞄の中に汚れた包帯があったり・・・それがもう1年ぐらい続いてるんです。だからいつも身体の何処かが緊張してるのか疲れが取れなくて・・・」

「そういう時、何か音が鳴る・・・とか?」

「・・・え?特に何も・・・鳴るのってスマホぐらいだし」

「スマホ、見てもいい?」


森田にそう言えば不思議そうに鞄からスマホを取り出し俺に手渡してくれた。
許可をもらって通話履歴を見れば「S」の一文字が並んでいた。彼女は自分のスマホなのにそれを見て再び驚き「Sって誰?!」と叫んだ。

それは柊祐の事だけど知らない方がいいだろう。
その「S」の文字の他には「佐藤医院」の名前があった。彼女はその病院も知らないと泣きそうな顔で画面を覗き込んでいた。


「成瀬って名前に聞き覚えは?」

「成瀬さん?いえ・・・知りません。このお爺さんの名前ですか?」

「この人は成瀬じゃ無くて・・・いや、もういいかな。森田さんももうここに来る事は無いし、きっと体調もすぐに戻ると思う。Sのことも佐藤医院のことも忘れていいよ。」

「はぁ・・・そうですか?じゃあ・・・よく判らないけど帰ろうかな?」
「えぇ、気を付けて。道が細いからね」


彼女のスマホから「S」の番号も佐藤医院の番号も削除して返した。


1年ほど前から・・・って事は、柊祐が事故から復讐までの最終計画を立てて実行に移す準備を本格的に始めた頃なんだろう。
有栖川老人の看護と、怪我を負うだろうつくしの治療の為に何処かで見つけて来た森田に暗示を掛けた。
そして彼女にスマホの着信音で暗示のスイッチを入れそのまま指示を出す・・・佐藤医院は金で依頼されたってところだろう。

森田は薬の類いを佐藤医院から受け取り、ここに来て投薬や怪我の手当を行ってきたんだ。


最終的な覚醒はあのホールクロック・・・もしかしたら外で寝ている彼奴らも覚醒したのかもしれない。
窓の外を見たら確かに俺が倒した2人が既に意識を取り戻して、森田と同じようにこの場所に戸惑っているのが見えた。


「・・・・・・類、私にはまるで夢のようだが」
「信じられなくて当然だよ。俺だって初めはそうだった・・・でも、つくしだって確信してたから柊祐の術も信じるしかなかっただけ」

「つくしさんの事は本当だったんだな・・・」
「俺が見間違う訳がない。どんなに見た目を変えても俺には判る・・・運命の人だからね」

「・・・運命か。私は・・・1度それを逃がしてしまったんだな・・・」


もう1度有栖川祐子の写真に目をやった後・・・そいつを父親の側には置かず、持ち帰ると言った。
「母さんには内緒だぞ?」って少し頬を染めながら、父さんはかつての恋人を思い出の片隅に置くんだと言った。




「それにしても遅くない?あいつ・・・何処に行ったんだろう」
「もしかしたら外に出たのか?よく見てはおらんが酷い怪我をしてるんじゃなかったのか?」

「・・・まぁね。つくしもだけどあいつも医者に・・・・・・って、まさか!」
「類、どうしたんだ?!」

「つくしが起きるかもしれないからここに居て!俺はほかの部屋を見てくる!」



まさか、あの状態でこの屋敷から逃げたのか・・・!
でも、もうあいつに行くところは無い・・・あの右手じゃ車の運転だって出来ないだろうし、無戸籍のあいつには何処に行っても何も出来ない。

それならまた誰かを騙して生きていくのか?

それはどうしても止めさせたかった。
多くの罪を犯したことを反省させ、それを償いながらちゃんと有栖川柊祐として生きていく・・・その手続きだけは花沢が責任持ってしてやらないといけない・・・そう思うから、今ここであいつと離れることは出来ない。


「柊祐!何処だ?!何処に居る!」

屋敷中を走り回って柊祐を探したけど何処にも居なかった。
僅かに居た使用人は確かに奥の部屋で覚醒していたけど、みんな彼の事を知らないと言った。

それなら庭に居る彼奴らに聞くしかない!


今度は玄関に向かって走り、1番始めに開けた大きな扉を押し開けた!



チリン・・・・・・


「・・・えっ、鈴・・・?」

開けたドアの取っ手から転げ落ちたもの・・・それは鈍い銀色に光る鈴。さっき、柊祐がつくしに向けていたあの鈴だった。

それがこのドアに・・・?


「どうしてこんな所に・・・・・・あれ?」

手に持った鈴・・・よく見たらそれはガムランボールに似ていて、その中からあの音色以外の音が鳴ったのに気が付いた。
それはカラカラという金属音。何が入ってるんだろうと、少しだけある隙間を覗いて見ると、そこには同じく銀色に光る何かがあった。

これは柊祐が意味あって残したもの・・・そう思ったからコートのポケットにしまった。



薄日に照らされた庭を見たけど、そこには柊祐はいない。
ガードの男も門番も既に何処かに消え去っていた。そこには枯れた花たちが寒そうに揺れてるだけで人の気配なんてなかった。


柊祐はこの鈴ひとつだけ置いて、風のように何処かに姿を消してしまった。




にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村
応援、宜しくお願い致します♡

「ガムラン」とはバリ島に古くから伝わる青銅製の楽器で、宗教儀式の際、神に捧げる音楽を奏でるものとして欠かすことができないものです。
そのバリ島の伝統楽器ガムランの音を再現したものが「ガムランボール」です。それゆえガムランボールの音色は神聖で「邪気を払ってくれる」と言われています。


*柊祐の持っていたものは「似ているもの」です。宗教的な意味合いは全くございません。

関連記事
Posted by

Comments 2

There are no comments yet.
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/12/28 (Sat) 09:00 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんばんは。

コメントありがとうございます。

あはは!えーと・・・二股というか・・・そう言われたらそうなんですが(笑)
気持ちは類パパだったのですよ💦
成瀬さんが諦められなかったって感じで・・・でも、確かに受け入れてますけどね💦
拒めなかったって事で・・・まぁまぁ、その辺は流してください(笑)

柊祐・・・消えちゃいましたね。何処行ったのかな・・・(笑)

2019/12/28 (Sat) 23:12 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply