FC2ブログ

plumeria

plumeria

「・・・類・・・・・・会いたかった」

その小さく優しい声が聞こえて、俺はハッと顔を上げた。
そうしたらつくしが涙を溢しながら俺を見ていて、握ってる手の指先を強く握り返してきた。


「・・・・・・・・・つくし?」
「・・・うん、おはよう・・・類・・・あっ、ただいま・・・かな?」

「・・・判るの?俺が判る?」
「変な事言うなぁ・・・くすっ、忘れるわけないじゃん、類・・・・・・ね、あのさ・・・」

「待って、その前に・・・」


つくしはどうしてここに戻って来たのかを知らない。
だからそれを聞こうとしたのを遮って、数ヶ月ぶりに交わしたキス・・・まるで初めて「牧野」とキスした時みたいにドキドキした。情けないけど自分の唇が震えてる気がして、つくしにそれが伝わるんじゃないかと・・・そのぐらい緊張した。

つくしもほんの少し震えてる・・・唇を離したら、その頬をまた涙が溢れ落ちた。


「・・・お帰り、つくし。長いお出掛けだったね。俺・・・淋しくて気が狂いそうだったよ」
「うん、あのね・・・それがある人に・・・・・・でも、類はもう知ってるの?だってここ・・・東京だよね?」

「君を連れ去った人の事?ん・・・もう知ってるよ。だから説明しなくていい・・・全部聞いたから」
「・・・柊祐に・・・会ったの?」

「会ったよ。そして君を帰してもらったんだ。だから大丈夫・・・彼はもう花沢を恨んでないと思うよ。ちゃんと話し合ったから」
「柊祐は何処に行るの?あのお屋敷に・・・あっ、お爺様は?」


つくしが覚えているのは「成瀬鈴花」になっていない時の出来事だけのはず。
だから事故の後、必死に探してあの屋敷を見つけ、有栖川老人と成瀬柊祐に辿り着いたけどなかなか会わせてもらえなかった・・・そう話したら驚いた顔をしていた。
何度か接触して戻してもらうように頼んで、漸く迎えに行けた時にはつくしは爆睡・・・仕方なくそのままヘリで東京まで連れて帰った、そう言うと「そんなに寝ちゃってた?」って真っ赤になってた。
でも時間が経つにつれ、何故柊祐がつくしを連れ去ったかを思い出すとその表情は暗くなってしまった。

花沢への復讐・・・そう聞いていただろうから。


「つくしの昔の話も聞いた。柊祐の母親とつくしの両親が花沢絡みの不正事件で被害に遭ったこと・・・その時に詳しく調べる事をされないまま終わって倒産したんだってね。その事は父さんと母さんにも説明してるから。
辛い思いの原因はそこだったんだね・・・だから柊祐も俺を許せなかったんだ。その時のこと、ちゃんとあいつと話したから心配しないで。花沢にも落ち度があったけど、柊祐にも思い違いはあったんだよ」

「・・・そうなの?柊祐、判ってくれた?」

「うん、判ってくれたと思うよ。だからつくしはここに居るんだ」

「・・・お爺様、具合が悪そうだったわ。病院に行きたくないって言うのよ?柊祐、連れて行ってくれるかしら」

「・・・うん、ちゃんと連れて行くって言ってた。そしてあの屋敷から引っ越して、何処か別の街で暮らすって言ってたよ」


本当の事は知らなくていい・・・つくしが「鈴花」だったことは記憶にないんだから。
柊祐が最後に何処に消えたのかも判らないけど、この先あいつとつくしが出会うことはないだろう。有栖川老人がこの世から去ったことも今はまだ知らなくていい。
育ててくれた人ではあるけど、それは思い出の中だけで・・・。


「・・・類、でも私ね・・・柊祐に言われてね、あの・・・もしかしたら私、何か花沢にしたんじゃ・・・」

「何もしてないよ。だってほら、俺はこうして無事だし花沢だって何も変わってないよ?後で会えるから母さん達にも聞いてごらん?柊祐に何か言われたかもしれないけど君は何もしてない。安心していいよ」

「・・・ほんと?」


操られた「鈴花」のした事も思い出さなくていい。
つくしは少し不安そうにしていたけど、それを笑って否定することで落ち着いたみたいだった。


鈴音が柊祐だったことも言わなかった。
幼い頃の大切な友人の記憶・・・それまでを嘘だったと思わせたくなかった。



「類、大怪我だったんでしょ?もう大丈夫なの?」
「うん、暫く動けなくてこのベッドで寝てたよ。でももう大丈夫。あんたは?」

「私は骨折はなかったけど全身打撲で包帯だらけだったわ。ふふっ・・・皮膚が変な色になってて、3週間ぐらいみっともなかったの。でも傷跡は残らなかったみたい」

「そう、良かった。こっちも無事だって・・・」


つくしの腹に手を乗せると、そこで初めて「あっ!そうだった!」・・・って。
慌てたようにそこに手を置いて「1度も検診受けてないの!」って叫んだから「昨日の夜に初めて診てもらったよ」と答えると、ホッとしたようにベッドに埋もれた。


「何回頼んでも柊祐が病院に連れて行ってくれなかったの。でもそのうちに動くようになったから元気なんだって思ってたけど・・・」
「それ、彼が謝ってたよ。そこは俺からも文句言っといたから」

「ホント?で、どうだって?赤ちゃん、大丈夫?」
「ん・・・3月に生まれてくるみたい。だからもう少しの我慢だね」

「3月?そうなんだぁ・・・あっ、柊祐が色々買ってたの。全部置いて来ちゃって悪かったかな・・・」
「持って帰れなかったから仕方ないよ。元気になったら俺と買い物に行こう?」

「・・・うん!良かったぁ・・・私、類と行きたかったの・・・」
「早く元気にならなきゃね。後でもう1度検診があるから・・・あ、それとこれも返してもらったよ」

「なぁに?」


つくしの前に出したのはアクアマリンのピアス・・・それを見たら急いで自分の結婚指輪の確認をしていた。
そして俺との指輪がそこにあって、もう1度深く溜息を漏らした。
「無くしたんだと思ってた・・・」そう言って自分の指を撫でていた。

「ジッとしてて」、そう言ってつくしの耳にピアスを・・・そしてつくしも手を伸ばして俺の耳に触れた。俺のはつくしの誕生石、タンザナイトのピアスだ。
会えない時も一緒に居られるように・・・その思いを込めて記念に買ったピアス。


「類、本当に会えたんだね・・・もう離れないでね?」
「・・・もう離さないよ。それにほら、離れちゃダメでしょ?この子が可哀想だよ」

「・・・この子ね、私をいつも励ましてくれたの。どっちかなぁ・・・私は女の子だと思うのよ?類はどっちがいい?」
「俺はどっちでもいい。元気だったらそれでいい・・・あんたに似てたらもっと嬉しい」

「・・・類、もう1回抱き締めて?」
「何度でも・・・おいで、つくし」


今度はベッドから起き上がって俺に手を伸ばして来た。
そしてまた泣きながら「会いたかった・・・」を繰り返してた。



**



つくしが目を覚したことを両親に伝え、昨日は話せなかった進にももう1度電話をした。

「寝ちゃってて!」と何度も謝る義弟に、まずは検査をすませてから面会だって説明したけど、声だけでも聞かせて欲しいと泣き付かれた。その時に「くれぐれも調べたことは内緒だよ」と小さな声で頼み、スマホをつくしに渡した。
始まった姉弟の会話・・・「心配掛けてごめんね」って目を擦りながら謝るつくしは凄く嬉しそうだった。


診察は昨日と同じだけど今回はつくしの問診も入り、やはり生まれるのは3月らしい。
これまでのデータが何も無いから沢山の検査と書類の山・・・。
つくしがクタクタだから俺が母子手帳の交付申請書を記入したけど、そこにある「夫」の名前・・・何故かつくしの名前よりも先に書いて、1人でホッとしていた。

それを見て「どうしたの?」なんて聞かれたけど言えるわけが無い。
・・・柊祐に負けそうだった、だなんて。


「何でもないよ。ここに名前を書いたら父親になるんだなって・・・それが嬉しかっただけ」
「くすっ、そうなの?」

「それと対外的な事なんだけど、つくしは事故の後にずっと入院して療養中ってことになってるから」
「そっか・・・流石に攫われてましたとは言えないよね。お義父様達、怒ってなかった?」

「いや、怒ってはないけど途中であんまり見付からないから諦めてたかも。くすっ・・・見付かった途端に孫だから、今度は逆に大興奮だったよ?見せたかったぐらい」
「そうなの?ふふっ、この子にとって唯一のお爺ちゃま、お婆ちゃまだもんね」

「・・・その事だけど」


検査も終えて落ち着いていたから柊祐の残した言葉を伝えた。
牧野の両親は柊祐に言われて有栖川を脱出して、自分達の存在を消したように見せかけた後、現在山形に居ると言う事・・・それを聞くとつくしの目が大きく見開いて「本当?」って小さく呟いた。


「多分本当だと思う。彼はあんたに『両親が花沢家へ復讐できないから逃げた』って言ったんだろ?
でも本当は彼の指示で安全なところで暮らしてるんだって。きっと戻ったらいけないと思って今でも身を隠してるんだよ。だからさ、退院したら迎えに行こう?」

「・・・・・・・・・・・・」

「つくし?」

「お父さんとお母さん・・・また会えるの?本当に会える?」

「大丈夫、きっと会えるよ」
「20年近く経ってるよ?私の事、判るかな・・・」

「バカだね、判るに決まってるじゃん。今はとにかく元気になることだけを考えて。実は俺も精神的ダメージが大きいって理由にして休職中なんだ。だから俺はまず会社に復帰する。あんたと子供のために頑張らなきゃね」

「そうだったの?うん・・・今度はちゃんとそばで支えるからね」


目覚めてから1番の大泣き・・・俺にしがみついてわんわん泣いて、看護師が慌てて飛び込んで来るぐらい泣いて・・・でもそれは嬉しい涙だった。



この後、総二郎が来て大騒ぎして、司とあきらからも交互に電話が掛かりつくしは休む暇もなかった。
そうしたら三条が大河原とやってきて俺は閉め出された。勿論、話は合わせてあるけど。


「まぁ、先輩ったら暫く見ないうちに色っぽいお身体になりましたのね~」
「そんな言い方しないでよね!し、仕方ないじゃない・・・」

「滋ちゃんにも触らせて~!触るの類君だけって訳じゃないんでしょ?」
「滋さんまでそんなっ・・・!だ、抱きつかないで優しく触ってよ?」

「きゃああーっ!大っきい!」
「静かにして下さいな、滋さんっ!」
「あははは!滋さん、くすぐった~い!!」


嬉しそうな顔・・・ドアを閉める時に見たつくしは大きな口を開けて笑ってた。




そして夕方・・・それまで遠慮していた両親が揃って病院に来た時、つくしは慌ててベッドから起き上がった。


「お義父様、お義母様、申し訳ありません!長いこと留守に・・・!」
「あらあら、あなたのせいじゃないんだからもういいのよ。その事は忘れましょう?それよりも今日の検診で判ったの?男の子?女の子?」

「・・・あぁ、それ、聞かないことにしたんだ。生まれてからのお楽しみって事で」

「ええーっ?そうなの?揃えるものが沢山あるのに困るじゃないの~!自宅にも子供部屋を作ってるの。たまにはマンションから戻って来るでしょ?」

「・・・・・・お義母様」
「泊まりに行ったら子供を離さない気でしょ?それ、許さないから」

「何言ってるのよ、同居してくれないくせに!」
「当たり前。息子夫婦の邪魔しないで」

「まぁまぁ、類もそんなに怖い顔をするな。母さんがこんなにはしゃぐのは25年前ぶりなんだから」


またつくしが泣いてる。
今度はうちの両親との壁が無くなったのを感じたから・・・その背中を摩ってる母さんも「今までごめんね」、なんて目を赤くして囁いてた。


そうやって少しずつ変わって行く。
あいつも何処かで新しい自分に出会えてるといいけど・・・その言葉は胸の中だけで呟いた。





にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村
応援、宜しくお願い致します♡



今年最後の類君のお話でした。
1年間、お付き合いいただきありがとうございました。

年内完結の予定でしたが少し延びてしまいましたので、次話は1月5日からになります。
明日から4日まではお正月ストーリーです。
1話を短くして私も少しのんびりさせていただきます。

それでは良いお年を~♡


関連記事
Posted by

Comments 6

There are no comments yet.
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/12/31 (Tue) 10:07 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんにちは。

コメントありがとうございます。

とんでもないお話でしたが何とか無理矢理ここまで来ました。
本当は年内に終わらせて来年からは気持ちを新たに、と思っていましたが・・・いつもの如く延びました(笑)

こちらこそいつもコメントしていただき、時にはミスに気が付き(笑)時には笑わせていただきありがとうございました。
いつになったら格好いい類君のお話が書けるのかわかりませんが、来年も頑張って書き進めたいと思います。

年末年始、お忙しいと思いますがお風邪など引かれませんように、楽しいお正月をお迎え下さいね❤

2019/12/31 (Tue) 10:33 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/12/31 (Tue) 11:59 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: ありがとうございました

まのい様、こんにちは。

コメントありがとうございます。

こちらこそいつも応援いただきありがとうございます❤
このペースをいつまで続けられるかは疑問ですが(笑)これからも頑張ろう~って緩く考えています。

年末年始は寒いらしいので、お身体に気をつけて楽しいお正月をお過ごし下さいね❤
これからも宜しくお願い致します。

2019/12/31 (Tue) 13:59 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/12/31 (Tue) 19:05 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

シナモン様、こんばんは。

コメントありがとうございます。

うんうん、丁度ここで良かったわ(笑)
屋敷での格闘シーンで年越ししたらどうしようかと思ったわよ💦

年明けにゴールテープを切ることになりそうだけど、もう少しだから頑張りまーす!

良いお年をお迎え下さいね~♡
(色々あるけどね・・・ww)

2019/12/31 (Tue) 23:22 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply