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つくしには内緒で美作の片岡に頼み、柊祐の行方を捜してみた。
簡単に病院関係を調べただけだったからもう少し広範囲で、そう頼むと返事は意外にも早かった。


「見つかったの?」
『直接病院に行った訳ではなく、路上で倒れていたところを保護された男性が彼だと思います』

「路上で保護?怪我したまま?」
『はい。それで警察によって病院に連れて行かれ手当を受けています。右腕の骨折・・・間違いないですか?』

「あぁ、右腕をやった・・・間違いない」
『問題はその人物に部分的記憶喪失があることです』

「記憶喪失?」


片岡の調べでは、その男は怪我をした原因もそれまでの生活についても覚えていないと言ったらしい。
記憶にあるのは子供の時、村上市の有栖川邸に居たこと・・・自分の事はちゃんと「有栖川柊祐」だと名乗ったらしいが、歳は12歳だと言ってる。
勿論本人は28歳だから警察も信じたりはしないが、本人がそこまでの記憶しかないと言い張るので現在医療機関で入院し、精神科の検査を受けていると・・・。


『私も専門家ではないので判りませんが、もしかしたら自己暗示を掛けているかもしれません』
「自己暗示?自分に暗示を掛けて記憶を消すの?」

『消せるのかどうかはわかりませんが、思い込みを強くすることで自分の生活環境、年齢を決めつけてるのかもしれません。どちらにしても戸籍がないので警察もお手上げではないでしょうか。
実際、有栖川家の方々はお亡くなりなのでしょう?証言者が居ませんから』

「・・・証明になるかどうかは判らないけど、昔を知ってる人が居ない訳じゃない」


片岡に聞いた事を新潟県警に確認し、その男性の出生証言者として進が話を聞いた喫茶店の女性の事を教えた。
勿論女性には許可をもらってのことで、情報提供者が花沢だという事は極秘事項にして柊祐にも教えないように伝えた。これで柊祐が確かに有栖川祐子の子供だと判れば戸籍が復活するかもしれない。


3日後、新潟県警から報告があり、女性の話と柊祐の話が一致したこと、東京で20年以上前に1年間小学校に通っていた事実が判明したとして、彼が「有栖川柊祐」だと確定した・・・そう言われた。


『当初、身寄りがないのと記憶の欠如があるので市役所の職員と警察担当者で捜索願や犯歴者などのデータベースとの照合も行いましたが該当無しでした。
その後、大学病院の脳外科で精密検査を受けましたが医師の診察や画像診断の結果は、「異常なし」・・・このままでは身分を証明するものが何もなく、一般の社会生活は望めないと困っておりました。
花沢さんの情報で彼の母親が判明し、これから「就籍」(無戸籍の人が自らを戸籍に記載するための手続き)に取り掛かります』

「そうですか・・・良かった」


戸籍取得には時間は掛かるらしいが、これで柊祐はちゃんと存在した人間になれる・・・。
最後に元気かどうかを聞けば、殆ど表情は無いが穏やかに過ごしている・・・そう言われた。

それが本当に記憶を失ったのか、自らの意思でそうしているのかは判らない。
警察にも柊祐の不思議な能力については何も言わなかった。


これからはその力を封印して生きて欲しいと思うから。



**



つくしがマンションに戻ってきて一週間が経った。

体調も落ち着いて食欲も戻り、また少し顔が丸くなった!って大騒ぎして鏡を見てる。今では母子手帳も手元にあるから、その中身を読んだり育児の本を読んだりと忙しそうだった。


2日前には花沢の自宅に戻り、俺の部屋で僅かに残されていた土産物の残骸を目にした。
事故を思い出して涙ぐんだけど、その中から欲しいものだけを取り出して、残りは自分で処分していた。

「またいつか行けるものね」と泣きながら笑い、その手の中から落ちていく破れた土産物・・・でも、それが終わるとすっきりしたのか両親との食事会も楽しそうにしていた。
その時に切り出したのはつくしの両親の話だった。


「今度の土曜に進を連れて小岩川に行ってくる。話が纏まったらつくしの両親を東京に連れて帰ろうと思うんだけど」

それには両親も賛成してくれた。
花沢が無関係とは言えない不正事件の被害者・・・今となっては牧野の両親の会社を立て直す事なんて出来ないけど、せめて代わりの仕事場を与え、住んでいた場所を取り戻してやりたい。
そう伝えると「出来るだけの事をしてあげなさい」という返事だった。

これにはつくしも微妙な立場で言葉に詰まってる・・・それを見て両親の方がつくしに謝っていた。

つくしはそれを受け入れ、穏やかに微笑んでいた。


「色々考えると辛くなります。
でも、今はこうして幸せに暮らせていますし、何より両親が無事だと聞いてそれだけで嬉しいんです。声だってあんまり覚えてないんですけど、出会えたら沢山話をして失った時間を取り戻したい・・・それだけです」

「・・・そうね。私達も何も知らなくて申し訳なかったわ。ご苦労なさったでしょうから、戻って来られたらうちとも親戚になるのだし、仲良くしていただきたいわ」

「お義母様、それは・・・」
「・・・こんな家と仲良くしたら疲れるだけだよ。そっとしてあげた方が良いって。とにかく行ってくる」

「・・・そうね、類の言う通りかもね」
「あぁ、気をつけて行っておいで。何も心配せずに戻って来るようにと話してくれ」


あの時柊祐から聞いた民宿に電話をしたら、確かに今でも「鈴木」という名の夫婦は住み込みで働いていて、元気にしていることは確認ずみ。
民宿の経営者には簡単に下話をして、花沢の名前を伏せて宿泊の予約を入れた。




**



土曜日の朝、ソワソワと落ち着かないつくしは朝からドジばかり。
珈琲は溢すし砂糖と塩は間違えるし、選んだ靴下は右左違ってるし、俺はそんな彼女を見て後始末ばかり。


「ねぇ、類、私と進のことが判らなかったらどうしよう?」
「そんな訳無いだろ?あんまり変わってないって」

「えっ!それも失礼な言葉じゃない?私の顔、5歳児と同じ?」
「・・・どっちなの?気付いて欲しいの?気付かれない方がいいの?」

「あんた誰?って言われたら泣くかも~!!」
「つくしこそ両親の顔、ちゃんと覚えてる?20代だった2人がもう50前だよ?自信ある?」

「・・・はっ!そうだよね?」
「その前に覚醒させてあげないとね」

「・・・・・・うん」


つくしの事が判らなかったら・・・その為に言われた柊祐と同じタイプのミニッツリピーターを手配して、自分の腕に付けていた。
時間は1時23分・・・ちゃんとその音で覚醒すれば牧野の両親は現実に引き戻される。
俺はこの分野は素人だから、柊祐のように出来るのかは不安だった。

でも、もしも出来なくても親子なら会った瞬間、覚醒するんじゃないのかとも思った。


つくしが俺に会ってそうだったように・・・。



「行こうか。進が待ってるから」
「うん!」

不安よりも希望を多く持とう・・・つくしとそう言ってマンションを出た。




************************




羽田に着いたら私と同じように落ち着かない進が、5メートルぐらいのスペースを左右にウロウロしてるのを見つけた。
そして手をあげて「進!」と叫んだら、それに応えて手をあげて「遅いよ!」と怒鳴られた。待ち合わせの15分前なのに。


「少しは落ち着きなさいよ!いい大人がウロウロしてみっともない!」
「姉ちゃんこそ化粧が変じゃん!鏡見て来たのかよ!」

「えっ?!そんな事ないわよ!ちゃんとして来たわよ!」
「そうか?左右の目が違うぞ?」

「マジで?!やだぁ!!」

「・・・機内で直せば?1時間のフライトだから直せるでしょ?」


そんな進の言葉も実はどうでもいい。
庄内空港から車で小岩川ってところに行くみたいだけど、今から行けば午後2時にはお父さん達に会える。
それを考えただけで私も進みたいにその辺をウロウロしてしまう。呆れた類が苦笑いするけど、こればっかりはどうしようも出来ない。

諦めていた対面だもの・・・第一声はどうすればいいのか、それすら思い浮かばなかった。


やがて時間になって飛行機は山形に向かって飛び立ち、あっという間に庄内空港に着いた。
そこには手配していたレンタカーが届けられていて、類の運転ですぐに小岩川に向かった。


右手側にある海・・・それが冬の淋しい色で波も荒い。
車だから外気温は判らないけど、歩いてる人の服装でどのぐらい寒いのかが想像出来る。進も何も言わずに私と同じ方向を見ていて、時々ゴクリと喉を鳴らす音が聞こえた。


こんな光景を20年近くも2人で見ていたんだろうか。
柊祐に暗示を掛けられているなら、辛かったことは忘れて笑って暮らしていただろうか。
それでも私達の事は心の何処かで心配してくれていただろうか。

言葉にはしなくても、名前を出さなくても、ずっと私達の両親だと言う小さな記憶が残ってるだろうか。



標識に「小岩川」の文字が見えた。

「もうすぐだよ」って類が言った。
進の手に力が入って、私の心臓がバクバク鳴った。


もうすぐお父さんとお母さんに会える・・・何故か両手が震えた。




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2020/01/07 (Tue) 08:28 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんにちは。

コメントありがとうございます。

柊祐も相当読者様に嫌われましたが(笑)そのように言っていただけると彼も救われます。
許されないヤツですが、書いてて意外と好きなキャラでしたので。

どうしてかしら・・・悪い女性キャラは嫌いなんだけど、悪い男キャラには萌えるんですよね(笑)

今までで1番辛かった話ももうすぐ終わる・・・(笑)
お話のラストって淋しくなるんですが、今回はめっちゃ嬉しいです!

2020/01/07 (Tue) 11:09 | EDIT | REPLY |   

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