FC2ブログ

plumeria

plumeria

小岩川に着いて、向かったのは住吉岬と言う場所。
ナビに福田屋と言う民宿の住所を登録したから、その案内に従って車を走らせていた。

バックミラーで確認したらつくしは緊張した面持ちで窓の外をジッと見つめ、進もまた同じ。姉弟で同じ顔をして会話をす事もなくこの辺りの光景を眺めていた。


そのうちにナビの音声案内が到着を知らせ、車を停めると前方に古びた民宿が見えた。
所々薄く消えかかっている看板は「福田屋」・・・柊祐に教えられた場所だった。


「・・・・・・着いたね」

「・・・・・・・・・ここ?」
「姉ちゃん・・・どうする?」

「どうするって・・・ここまで来て会わないわけないでしょうが!ば、馬鹿言わないでよ、進!」
「そうじゃなくてさ、本当に居るのかな・・・会ってさ、もし違ってたらどうする?」

「そんな事、今言われても・・・」


幼い頃に別れたから懐かしいと言うより恐怖・・・そんな感じの2人に「少し待ってな」と言い残して俺1人が旅館に向かった。
「類!」と呼び止められたけど振り向いて笑顔を見せるだけ。
「大丈夫、呼んでもらうだけだから」と言うと、つくしは車から降りずに泣きそうな顔をしていた。


引き戸の玄関の横には庭に水をやるホースがあったり錆びた自転車がある。奥の方には洗濯物が干してあるのが見えるような、そんな普通の家・・・そこをガラガラと開けると広い土間があった。
「誰か居ますか?」、そんな言葉を出せば何処かから足音が聞こえて、1人の老女が現れた。


「いらっしゃいませ。あぁ、お電話くれた・・・えーと」
「花沢と申します。こちらの経営者の方ですか?」

「はい、福田と申します。鈴木さんに会いたいんでしたっけ?今ね、買い出しに行ってるんですよ。もう帰ってくると思うから部屋で待っててもらえますか?」

「・・・2人で?」
「えぇ、鈴木さん夫婦は仲が良くてねぇ、いつも2人で行動するんです。ははは・・・いい歳なのにねぇ~」


それを聞いて1度車に戻り、つくしと進にそれを告げると緊張が解れたのかシートに傾れ落ちた。だからドアを開けて手を差し出し、つくしを降ろした。
進も肩を落としたまま猫背で車を降りて深呼吸・・・その後は2人並んで「福田屋」を見上げ、唇をギュッと噛んでいた。


「今からそんなに固くなってると戻って来た時に会話も出来ないよ?まずは落ち着こうか。つくし、身体は大丈夫?」
「う、うん・・・お腹空いてない」
「姉ちゃん、誰もそんな事聞いてないって」

「くすっ、平気そうだね。部屋で待っててくれってさ」
「うん、判った。頑張る・・・」
「だから姉ちゃん、返事がおかしいよ・・・」


カチコチになってる2人を連れて中に入り、お婆さんが案内してくれた部屋に向かった。

今日はこの部屋に泊まるから、持って来た少しの荷物を部屋の隅に置き、つくしと進はここでも窓からの景色を見ていた。
「海か近いね」「風が強いね」「やっぱり寒いね」・・・なんて、ここで両親が20年近く暮らしたのだと感じていたんだろう。俺は2人の間に入ることは出来ずに、黙って後ろから見ていた。


その時間はそこまで長くなかった。

部屋に入って30分もしないうちに玄関が開いた音がして「ただいま~」と女性の声。
それにハッとしたのはつくしで、進も同時に振り向いた。

さっきのお婆さんと会話しているのが聞こえるけど内容は判らない。
でもすぐに足音が聞こえて、お婆さんが「戻って来ましたよ」と教えてくれた。


「ここに呼びましょうかね?」
「はい、お願いします。ご夫婦一緒ですよね?」

「えぇ、お客さんが来てるって言えば不思議がってましたよ。私は何にも言ってないから、詳しい事はあなたが話してあげて下さいよ?」
「判りました。色々ありがとう」

「・・・・・・・・・」
「姉ちゃん・・・」




*************************




「ただいま~」

その声は遠い昔に何度も聞いた声・・・頭の片隅で微かに記憶している懐かしい声だった。
忘れようとしても忘れられない、悔しいと思っても悲しいと思っても、もう1度聞きたかったお母さんの声・・・それを聞いたら心臓がバクン!と大きな音を立てた。

その後はじんわりと汗が滲んで、隣の進も同じように半分怯えたような目をしていた。

そして類と民宿のお婆ちゃんが話し合ってる時も、その奥から聞こえる物音の方に神経が行く。足音が聞こえるとお父さんだろうかと、ドアを閉める音が聞こえたらお母さんかとドキドキ・・・。


「私は何にも言ってないから、詳しい事はあなたが話してあげて下さいよ?」
「判りました。色々ありがとう」

「・・・・・・・・・」
「姉ちゃん・・・」

「だ、大丈夫よ!会えばきっと・・・それに類が暗示を解いてくれたら元に戻るんだもん、大丈夫よ・・・ね、類!」


彼は優しく頷いて、その手首の時計を外した。
私には判らないけどその時計の音で両親は現実に戻れる・・・そう言ってたから、私は類の指先をジッと見ていた。

いつでも鳴らせるように調整してるみたい。
それが出来たのか類も手を止めて、私達は3人で1つのドアを見つめていた。


ギシギシと床板を軋ませて歩いて来る音・・・やっぱり2人だと思わせる重なった音。
それが部屋の前まで来て「お母さん、ここかな?」「うん、そうみたい」って声が聞こえた。そしてコンコンとノック・・・それに答えたのは類だった。


「どうぞ」

「失礼します~、私達にお話しがあるとか」
「・・・お邪魔しますね~、えーと、どちら様で・・・」


入って来たのは・・・・・・間違いなく私のお父さんとお母さんだった。
昔は大きいと思っていたお父さんが予想外に小さくて、もっと可愛い顔だったお母さんには白髪があった・・・2人が並んで部屋に入ってきて、ドアの取ってを持ったまま私と進を見て固まった。


ポカンと開けた口、大きく見開いた目、ヨレヨレの服・・・冬なのに日焼けしたみたいな肌の色。

私にはすぐに判って、進も見た瞬間に目を赤くした。

言葉が出ない。
嬉しいのか安心したのか、怒りたいのか飛び付きたいのか判らない。
「お父さん」って言いたいのに、「お母さん」って言いたいのに・・・私の目から幾つも流れ落ちるもので視界が呆けて見えなくなる。


「お入り下さい。鈴木さん・・・ですね?」

「・・・あ、あぁ・・・鈴木、だけど」
「・・・・・・・・・」

「突然訪ねて申し訳ありません。お話したいことがあります。座っていただけますか?」


類がそう言ったけど2人の視線は私達に向けられたまま動かない。
まるで時間が止まったかのよう・・・ううん、時間が遡ってるみたいにさえ感じた。

私達はもっと若かった両親の姿を、両親は小さかった私達の姿を思い出そうとしてるんじゃないかって・・・暗示に掛かってる事も忘れてそんな事を考えた。


その時・・・


「・・・・・・つくし?それに・・・進?」
「・・・あぁ、つくしだ・・・進だよな?」


類がニコッと笑った・・・そして持っていた時計を手放した。
進が声をあげて泣き出して、私も同じように泣きながら両親に手を伸ばした・・・!


「お父さん!お母さん・・・会いたかった・・・・・・会いたかった!!」





にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村
応援、宜しくお願い致します♡
関連記事
Posted by

Comments 2

There are no comments yet.
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2020/01/08 (Wed) 05:46 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんばんは。

コメントありがとうございます。

うるうるして下さってありがとうございます(笑)
始めは類君に暗示を解いてもらおうと思ったんですが、やっぱり書いててここは自然に・・・と思いまして。

類君が手配したミニッツリピーター、私が調べたヤツは6000万でしたが(笑)
未使用で申し訳ないんですが、まぁ類君は許してくれるだろうと。

これでまた親子が近所で暮らせそうです♡

2020/01/08 (Wed) 23:37 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply