FC2ブログ

plumeria

plumeria

それから3ヶ月後。

牧野の両親の戸籍も回復し、新しい家での生活も始まった。
義父の仕事場は希望通り花沢とは無関係の小さな工場で、そこで一生懸命働いていると聞いた。義母は近くのスーパーでパートをしながら自宅の庭で家庭菜園をしているらしい。
時々その野菜がマンションに届けられるようになった。

そしてつくしはと言うと・・・


「今日検診だっけ?1人で行くの?」
「うん!もう毎週検診だよ?予定日まであと少しだからね」

「やっぱり心配だから俺も・・・」
「ダメ、類は仕事優先!私は大丈夫だし、今日は優紀が付き添ってくれるから。終わったらご飯食べに行くの~!」

「・・・でも」
「何言ってるの、やっと営業部に戻ったんでしょ?もう1人で仕事してるんじゃないんだから勝手に休んじゃダメ!はい、行ってらっしゃい!」


つくしに背中を押されて部屋を出るのは俺で彼女は随分逞しくなった。
いつ産まれてもおかしくないほどの腹を抱えて、それでも笑顔を絶やさず苦しいとも疲れるとも言わない。毎朝幸せそうに腹に手を当てて俺を見送ってくれた。


マンションの部屋はすっかりつくし色に染まって毎日美味そうな匂いがしている。
中庭では洗濯物が干され、寝室にもベビーベッドが届けられた。
その部屋の隅にはつくしの入院グッズが用意され、いつ産気付いても大丈夫にしてある。そもそも医療センターには何でもあるんだからって言ってるのに自分で揃えたいと言って嬉しそうに詰めていた。

そしてまだ使えないのに並んでるおもちゃは俺の買い物・・・買って帰る度に怒られて、それでもつくしは綺麗に並べて自分だってニコニコしてるんだ。
「早く産まれないかな・・・」それを毎晩2人で言いながら、本当に重くなった身体を抱きかかえて眠っていた。




また数日が過ぎた3月中頃の午後、仕事中に電話が入った。
掛けてきたのは加代で、マンションに食材を届けに来たらつくしが急に産気付いたという連絡だった。


「加代、つくしは大丈夫?!」
『類様、落ち着いて下さいませ。産気付いても急に産まれたりはしませんわ。すぐに病院に行きますから、類様もお仕事を片付けたらお越し下さいな』

「今から行くっ!すぐに行くからつくしに頑張ってって言って!」
『焦っても産まれるのは夜とか明け方ですわよ?ちゃんと私が付き添いますからご安心を!』

「判ってるけど行くから!それまで頼んだよ、加代!」

『類様が慌ててどうします!もしもーーし!』


営業本部長や営業部の連中には「仕事はいいから!」って言われて急いで社を出て病院に駆け付けた。
産婦人科に行ってもまだつくしはそこに居なくて、何処に行っていいのかも判らなくて走り回ったら知らない看護師に「奥様は病室ですわ!」と・・・!

今度は最上階の特別室に大慌てで向かったら、そこにつくしが少しだけ痛そうな顔で寝かされていた。


「つくし!どうしてここなの?早く産婦人科に行かなきゃ!」
「いたたたっ!あはは、類ったら・・・まだまだ時間が掛かるんだって。もう1回は診察があったんだよ?」

「そうなの?加代は?」
「加代さんは色々と連絡しなきゃいけないからって・・・痛っ、今は談話室で電話中じゃないかしら・・・」

「そうなんだ・・・でも、もう俺が居るから安心して」
「お仕事は?」

「仕事よりあんたでしょ?」
「・・・今日だけだよ?でも、ありがとう・・・・・・うっ!」


定期的に襲ってくる陣痛はまだ15分おきぐらいらしい。
それが落ち着くとホットしたように笑顔を見せるけど、陣痛が来たら布団を握り締めて汗をかきながら痛みに耐えて、俺は横で背中を摩ることぐらいしか出来ない。
それでもつくしは嬉しそうに「ありがとう」って言うけど、その言葉は俺が言わなきゃいけないぐらいなのに。


あの時に俺達を救ってくれた天使・・・やっと会えるんだけど、どうか少しでもいいからつくしを苦しめないで、なんて我儘な言葉を思う。
極自然な分娩を望んだつくしだからこの痛みは当然なのかもしれないけど、それでも長引かないで早く解放してやりたい。それは男の勝手な思いで、つくしは今の時間も凄く愛おしんだって辛そうなのに笑ってた。


「赤ちゃんも頑張ってるんだもん、私が弱音を吐くわけにはいかないわよ」
「あんたは弱くないって。充分強い人だから、今日ぐらい我慢せずに俺にぶつけていいよ?」

「あはっ、類にぶつけてもこの痛みは・・・いたたっ、治まらない・・・よ、ううっ・・・!」
「つくし、頑張れ!」

「・・・はぁはぁ、うん・・・類、ここに居てよ?産まれるの・・・ちゃんと待っててよ?」
「勿論。俺の子だよ?何処にも行かずに待ってるよ」

「・・・ううっ!!」


それが1時間ぐらい続いた頃に父さんと母さんが駆け付けた。
そして進も真由美も来て病室内で全員がオロオロしてた。
誰が何を言ってるのかさっぱり判らないけど、そのうち間隔が短くなって分娩室に行くことになった。

そこまでは自分で歩いて行くと言ったけど、見守る俺達が五月蠅いから結局車椅子が用意されて、看護師が押すと言ってる横で誰が押すかで一悶着。
結局呆れた加代がさっさと車椅子を押して分娩室まで行き、俺達は廊下に閉め出された。


「初産ですからここからも暫く時間は掛かります!
そのように大騒ぎされると困りますから、ご主人様もお呼びするまでこちらで待機して下さいませ!」

「でも、つくしが・・・」
「奥様の事を思うなら暫くこちらで落ち着いて下さいませ!」


そこまで慌ててるつもりなんてないのに、恐ろしい看護師に睨まれて撃沈。俺と父さんと進が座れないほどウロウロするのを母さんと真由美と加代が呆れて見てた。


どのぐらい時間が過ぎたのか・・・何度時計を見たのか判らない。
呼ばれない苛立ちが最高潮に来た時、漸くドアが開いて「ご主人様、どうぞお入りください!」と・・・それを聞いて慌てて飛び込んで、白衣を着せられ消毒をされたら「こちらに」と案内されたつくしの居る場所・・・

そこには緑色の病衣みたいなものを身体に掛けられたつくしが真っ赤な顔で苦しんでいた。


「つくし!!」
「・・・はぁはぁ、類・・・もうすぐだって・・・類、もうすぐ会えるよ・・・はぁ・・・はぁ」

「うん、判った・・・つくしももう少しだから頑張れ!」
「はぁはぁ、うん・・・頑張る!ううーー・・・!!くぅっ・・!」

「呼吸を止めないで!赤ちゃんの動きに合わせますよ~、お母さん、判りますか?」
「・・・・・・くっ!!」

「ご主人様は背中を摩ってあげて?そろそろですからね、励ましてあげて!」
「はい!」


可哀想にって思っちゃいけないのかもしれないけど、可哀想になるぐらい顔が真っ赤で手だってこんなに汗ばんで。
俺が来るまではベッドのサイドバーを持ってたみたいだけど、今掴んでるのは俺の腕で、信じられないほどの力で爪を食い込ませてる。
それを痛いなんて思わなくて、寧ろ苦しみを半分背負えたらいいのに・・・なんて考えていた。

変わってあげられないし痛みだって想像だけで、涙を流しながら、それでも時々嬉しそうに笑って「どっちかなぁ」なんて・・・でも、もう間隔は数分刻みでその時が近い事だけは伝わって来た。

情けないけど「頑張れ!」、それしか言葉が出ない。


もう落ち着く時間もなくなったみたい。
絶え間なく来る痛みで額の血管も浮き上がって汗が流れ落ちる。


「・・・はぁはぁ、はぁ!うーーーっ!!・・・・・・んんーっ!!」
「頭が見えてきたわ、赤ちゃんが出てきますよ~、呼吸をゆっくり長くして!赤ちゃんの動きに任せて下さい!」

「・・・・・・んんーーーーっ!!あああぁーーっ!!」
「頑張れ!つくし!」



・・・・・・ほぎゃあ~ほぎゃあ~・・・・・・ほんぎゃあああぁ~~~~!



「・・・・・・!!はぁはぁっ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・つくし・・・!」


つくしの指の力がフッと消えた瞬間、あの時風のように聞こえた声が現実のものとなって俺の耳に届いた。


「お産まれになりましたよ、可愛らしいお嬢様ですわ」


産まれた・・・俺の天使が産まれた?
女の子・・・つくしの想像通りの女の子・・・・・・産まれた?



看護師が生まれたての真っ赤で皺くちゃな天使を俺達の前に連れて来てくれた。
まだ何も処置されてない、裸ん坊の天使・・・目だって閉じたまま、その小さな手を握りしめた天使が泣き声を響かせながらつくしの胸の上にそっと置かれた。

そして置かれたら泣くのを止めて、今度はつくしの方が泣き出した。



「産まれてくれた・・・類、元気に産まれてくれたよ?良かったぁ・・・・・・!」
「・・・ありがとう、つくし。こんなに可愛い天使を産んでくれてありがとう・・・」

「うん、良かった・・・会いたかったぁ・・・」
「・・・ん、やっと会えたね」



ありがとう・・・そして初めまして。


産まれたばかりの天使に初めてのキス・・・頑張ったつくしにも感謝のキスをした。

嬉しい時に流す涙は温かいのだと、初めて知った。





にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村
応援、宜しくお願い致します♡
関連記事
Posted by

Comments 2

There are no comments yet.
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2020/01/11 (Sat) 07:21 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんにちは。

コメントありがとうございます。

類君に変わりまして「ありがとうございます♡」

女の子でしたね~♡
こりゃ類君メロメロですね~!

名前は今晩です~!予想しながらお待ち下さいねっ!

2020/01/11 (Sat) 11:49 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply