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「お疲れ様でしたぁ!」

午後7時10分、つくしの声が喫茶店の裏口から聞こえる。
それを少し先のガードレールに縋っていた類が聞いて、ゆっくり腰を上げた。

朝と同じようにミニフレアのスカートなのに元気よく走るつくし・・・それを見てまた眉が歪んだけど、つくしには全然伝わっていない。寧ろ「お腹痛いの?」なんて聞かれてガクッとする類だった。
キョトンとした顔で50㎝横を歩くのも気に入らない。だからグイッと腕を引っ張ってさっさと指を絡めた。


「る、類ったら!何もこんな所で・・・」
「いいから。あんた、そんなに離れてたら危ないし」

「は?何が危ないの?」
「もう黙って歩きな」


危ないなんて取って付けた理由で本当はこうしたかっただけ・・・でも、素直に「手を繋ごう」なんて言うような歳でもキャラでもない。少し頬が赤いのは暗くなった道の街灯で誤魔化した。


すぐ近くのパーキングエリアに停めていた車に乗り込み、まずは軽く食事・・・そう言うと、つくしは昼間の話を思い出したのか「私が作る!」と言いだした。
類にしてみれば作ってもらうのは嬉しいが話をする時間も欲しい・・・でも、つくしの頭の中が料理で一杯になったようだったから素直に従うことにした。


「でもね、まずは買い物からになっちゃう。冷蔵庫に何があるか忘れちゃった」
「・・・だから何処かで食べればいいのに」

「ううん、大丈夫。お買い物も付き合って?時間が掛からないものにするからさ」
「ん、判った」

「じゃあまずはスーパーだね!」
「・・・・・・それ、何処?」


つくしの案内で白い高級車が辿り着いたのは「激安」と書かれたスーパー。
類は無表情でその店舗全体を見回し、出入り口付近にも関わらず段ボールに山積みにされた商品に目が釘付け・・・勿論初めて見る光景だ。
それ以前に食品の買い物そのものが初めてで、嬉しそうに車を降りて店に入って行くつくしの少し後ろを興味津々で歩いた。


喧しいぐらいのBGMに、この時間でも沢山居る主婦。その中に混じってオレンジ色の買い物カゴを手に持ち、さっきとは違う真剣な表情のつくし。
食材を取っては上下左右を見て鮮度を確認、納得すればカゴに入れていく。類は狭い通路に何段もある商品棚が面白くて、つくしから離れてあちこち見て回った。

いつもなら時間を持て余すのに今日はやる事が沢山ある。しかも目の前には初めて見るものがズラリと並び、それを手に持っては商品説明を読んでいた。


「・・・これ、買ってもらおう。いや、俺が買えばいいのか・・・ってカード使えるのかな」

システムが判らないからつくしに聞くしかない。
手にとある商品を持ってつくしを探すと、既に半分程が商品で埋まった買い物カゴを持つ姿を見つけて慌てて駆け寄った。


「ごめん!俺が持つよ」
「はぃ?あぁ、いいのに~、でも頼もうかな?せっかく男性がいるんだもんね!」

「ん、でさ、これ買いたいんだけどカード使える?」
「・・・は?これ?ん~~、一緒に入れといて?類が持ってるカードなんて使えないと思うから」

「・・・使えないの?」


クスクス笑うつくしを見て、類はここでも自分の世界が特殊なのだと痛感した。


何かを自分で買うことがない。
買っても現金で払ったことがない・・・総て「花沢」という名前で後日決済だ。
何処かの店に入っても必要以上に迫ってくる店員に総てを決められる。頼みもしないのに付属品を付けられ、それを断わることも喜ぶ事もない淡々とした買い物。

それなのに楽しそうに2つの手に持った商品を見比べ、気に入った方をカゴに入れるつくしは実に生き生きと見えた。


「何作るの?」
「うふふ、秘密~!でも時間がないから15分で出来るものだよ」

「15分?それ普通なの?」
「ううん、手抜きだよ。でも美味しいの作るから心配しないで!これ、失敗しないのよ~」

「ふぅ~ん・・・」
「よし!これで全部かな?」


レジに行けばそこも類には摩訶不思議な場所。
余りに真剣にレジを通される商品を見るから、店員に「どうかしました?」と嫌そうに言われ、つくしが類の背中を押して移動させた程だ。


「今日は格好いい人と一緒なのね~!彼氏?」
「えっ?!あぁ~、あはは!・・・はい・・・」

「あっはは!じゃあこれは彼氏の晩ご飯だね?はい、1560円ね~」


真っ赤になって財布から全財産を出して払い、残りは280円・・・それを類に見られないように慌てて鞄に仕舞い、エコバックを取り出す。それに買ったものを詰める間も類の不思議そうな顔は続いている。
こんな些細な事で嬉しいなんて・・・と、つくしは隣の彼を見上げながら上気した頬を隠せなかった。



駐車場の契約なんてしていないから車は少し外れた空き地に停め、そこから類がエコバックを持って並んで歩いた。

会話は至って普通だが、類の目的の1つは仙道からつくしを守ることでもある。
だからその会話の最中も目だけは辺りを窺い、特にアパートの階段ではつくしを先に行かせ、回りに人の気配がないことを確認・・・何も感じなかったからホッとして部屋に入った。


パッと電気を点けたら昨日と何も変わってない部屋で、強いていえばつくしが鞄を取りに入った時に散らかした本が数冊出ている程度だった。
それらをササッと片付け、つくしはエコバックを類から受け取りキッチンに向かった。



類にとってこんなシチュエーションは初めて・・・どうしていいのか判らず立ち尽くしていたら、つくしがヒョイッと顔を出し手招きをした。
しかもデニム生地のエプロン付けて。

その姿に意表を突かれドクン!と胸が高鳴る。
しかも呼ばれたのだから何か手伝えと言うことだろうか・・・戸惑いながらそこに入ると、つくしが食材をテーブルに並べ、そこに小さな椅子を出していた。


「はい、出来上がるまで類の場所はそこね」
「・・・・・・ここ?」

「うん!何か話しててよ。15分でちゃんと作るからさ、向こうで1人は淋しいでしょ?」
「・・・・・・・・・・・・」



1人なんて慣れている。
慣れているはずなのに、確かに向こうで1人は淋しいと思えた。
小さなつくしの背中を見ながら、類の目には熱いものが込み上げた。勿論それはすぐに全力で止め、つくしに気付かせたりはしない。

そして話せと言われても気の利いた話は出来ないから、頭に浮かんだ言葉を出した。


「イルカってさ、不思議な力があるんだって」
「イルカ?あぁ、昨日会ったあのルイ君?」

「ん・・・あの子の事じゃないけどさ、イルカセラピーってあるんだって」
「へぇ?!どんなの?」

「イルカと触れあって自閉症の子どもたちの療法に役立てようとする研究があるんだ。日本じゃ始まったばかりだけど、試験的に行われてる。
自閉症って周りと上手くコミュニケーションが取れなかったり、初めての体験を極端に恐がるってのがあるらしいけど、そう言う子供にはイルカの方から近づいてくるんだって。まるで人間の心の悲鳴が聞こえるんじゃないかって・・・そう言ってる学者もいるんだ」


イルカと触れあった子供の中には確かな変化が見られたと言う。
類もまた、この話をしながら水族館で自分を待っててくれるルイのことを思い出していた。

自分はあの子に救われた。
ただ見ているだけで救われた・・・今は目の前のつくしに救われている気がして、愛おしくて堪らなかった。



1人じゃない時間・・・たったそれだけなのに。





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2020/01/24 (Fri) 10:37 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんばんは。

コメントありがとうございます。

あはは!きっと銀行に多少の預金はあるんだと思います(笑)
私の子供もそうなんですが、余分なお金を持たないらしく、お財布に2000円あれば多いそうです。
いつだったかな・・・500円しか持って無くて、お友達が急に「ご飯食べて帰ろう」って言って困ったそうです(笑)

つくしちゃんみたいな子です・・・(じゃあ彼氏は類君?❤)

2020/01/24 (Fri) 23:25 | EDIT | REPLY |   

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