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plumeria

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類の話の途中もつくしの手は止まらない。
まな板の上で鳴るトントンという包丁の音、それで切れる野菜の音、蛇口から出る水の音、コンロの上で湯が沸く音・・・どれも類には新鮮だった。


母、亜弓は優しかったが料理をする人ではなかったから。
殆ど同じテーブルで食事をしたが病気をしてからはそれすら減った。

生きる為に必要な食事はこうして作られるのか・・・この歳まで真剣に考えたことも無くて興味が湧き、そっと後ろから近づいてつくしの肩越しにまな板を覗いた。


「・・・それ、どうするの?」
「うわっ!!はぁ~、吃驚した!驚かさないでよ~」

「ごめん、牧野の背中で見えないからさ」
「あはは!心配しなくても普通の焼きうどんとほうれん草のかき玉スープだよ」

「・・・焼きうどん?」


聞いた事ぐらいはある・・・でも食べた事はない。
眉を顰めて目線を上に向け、暫し悩む類・・・つくしの邪魔はすまいと座っていた椅子に戻った。


「うふふ、余り野菜があったからね~、もやしだけ買ってさ、今日はお肉の特売日だったから助かったぁ!スープにはキノコも入れるんだけど、類は好き嫌い無いよね?あっても食べてもらうけど」

「・・・・・・多分無いと思う」
「なぁに、その言い方!自分の事なのに嫌いなものが判らないの?」

「ん~、嫌いな味付けはあるかもだけど、食材の名前知らない」
「・・・そう言う事?」


ソース味は大丈夫?と聞こうとしたが、ソースだけでは伝わらないだろう。
かと言ってウスターソースが伝わるとも思えない・・・だから聞かずにこのまま作ってしまおうと作業を進めた。
ちょっと振り向けば、まるで子供のような類が行儀良く座っている。この狭くてゴチャゴチャしたキッチンには全然似合わない、と可笑しくて噴き出しそうになった。

背中から来る視線に、仙道の時のような恐怖に近い緊張感は無い。
純粋に食べさせたいと思う気持ちがつくしの手を軽くさせていた。


時間短縮のためほうれん草をカットした後で電子レンジで温め、冷凍のコーンを使えばスープだって5分程度で出来る。
そのうちに美味しそうな香りが部屋中に広がり、類の腹の虫を鳴かせた。
そんな事は滅多にないため自分で驚き胃の辺りの服を掴む・・・でも、作業に夢中のつくしには聞こえてなくてホッとした。


「さぁ、出来た!類、お皿とって?」
「・・・何処にあるの?」

「食器棚の・・・って言うか、少ししかないから判るでしょ?」
「・・・・・・・・・・・・」


類は食器棚の前に立つとピタッと動きを止めた。
そこにあったのは真っ白な珈琲カップ・・・しかもそれだけが特別に置かれているような気がした。その横にはグアテマラのコーヒー豆があり、それも安物ではないと判るもの。
それが誰の物なのかは容易に想像出来て、硝子越しにそのカップを睨んだ。

つくしは類がいつまでも皿を出さないことに気付いて振り向き、その姿を見てしまった。


気付かれた・・・そう思ったがもう遅い。
出来たての焼きうどんが入ってるフライパンをコンロに戻し、両手でエプロンを握り締めて類の背中から目を逸らせた。


「・・・あぁ、ごめん。皿だったね」
「え?う・・・うん」

「大丈夫、気にしない。あんたが準備したんじゃなくてあいつがそうさせたんだろ?」
「・・・・・・食器は白、珈琲は専門店で粗挽きしてもらったそれって決まってるの。インスタントは飲まないって・・・それに料理もキチンとするように言われてた」

「・・・へぇ」
「他にも色々ね・・・自分の好きなようにデザインしないと嫌なのよ。それがたとえ自分の彼女でも・・・」


その瞬間、類がつくしを抱き寄せその唇を塞いだ。
驚いたつくしは声も出せず、目も開けたままそれを受け、エプロンを握り締めていた手は類が回した両腕で動かすことも出来ない。
クチュ、と軽い音を立てて唇は解放され、つくしはそのまま類の胸に縋り付いた。


「・・・・・・ど、どうしたの?類」
「悔しかったから。あんたが自分であいつの彼女って言った・・・」

「・・・やだ、もう終わった・・・よ?」
「それでも嫌だ。そんなの早く記憶から消し去って」

「・・・子供みたい」
「それでもいい・・・あんたが覚える男は俺だけでいいんだから」


つくしは自分の耳元で囁く類の低い声にゾクッとしながら身体が火照るのを感じた。
記憶を消し去れと言われる前にもうこれまでの事は思い出せない・・・昨日の夜の類の目だけが瞼に浮かび、ジワッと中心部分から蜜が漏れ出し下着が濡れたのが判って恥ずかしい。

もう1度キスして・・・そんな言葉が出そうになった時、2人の間から盛大な音が聞こえた。



「・・・・・・えっ?!私?今の、私?!」
「いや、俺かも・・・実はさっきも鳴ったから」

「へ?類のお腹の音?!すごかったよ?!」
「・・・五月蠅いな、お腹空いたんだって」

「・・・ぷっ!あはははははは!早く食べようか!」
「・・・・・・ん、皿ね」


2人共が少し残念で少しホッとする。
類が皿を手渡すとつくしがニコニコしながら焼きうどんを盛り付け、同じ皿に入れた同じものを「テーブルに出してね」と類に戻された。
その間にカップを取り出しスープを注ぎ、それも2つ類に手渡す。
「あつっ!」と呟きながら運び、今度はお茶のコップ。

食べるための準備を自分でする事も初めてで、小さなテーブルに増えていく皿を見て自然と頬が緩む。そして全部運ぶとつくしがエプロンを外してテーブルの反対側に座り、向かい合わせて「いただきます!」。


「・・・あっ、美味い」
「でしょ~!少しめんつゆ入れるんだよね。隠し味って感じ?」

「めんつゆ?」
「スープも飲んでみて?ちょっと組み合わせ変だけど」

「・・・うわ、ホント、美味しい・・・」
「ね?私が作るのを見てたから安心でしょ?」

「くすっ、ホントだね」


テレビも音楽も要らない。
つくしの楽しそうな声だけが類の耳に届き、そのクルクル変わる表情が目に入る。
口に頬張るものは花沢では食べた事もなく、でもこれまでで1番美味しく感じた。気が付いたら皿の上のものは全部無くなってて、つくしも類の食欲に驚いていた。

スープはお代わりまでして、いつもなら残って明日のおかずになるはずが完食・・・つくしはそれが何より嬉しかった。
残り物は助けるけれど味気ないもの・・・1人暮らしのくせに多く作るクセがあり、連日同じものを食べることはよくあるからだ。


食後は珈琲ではなくココアを入れて、つくしは自分の作ったレジンアクセサリーを類に説明していた。


「ほらね、こういうデザインなら出来ると思うの。でも見て?かなり高さがあるのよ・・・どう?」
「ん、いいよ。ヒメルリガイが使えるヤツで」

「判った、じゃあブルーの海に貝が沈んでる感じに仕上げるね」

「うん・・・・・・牧野、少しいいかな」



類の表情が変わった。
つくしもまた身構えた。

手に持っていたヒメルリガイとアクセサリーをテーブルに戻し、真っ直ぐ類の目を見つめた。
これから何を聞かされるのか・・・つくしは震え始めた手を悟られないように自分で握り締めた。


「そんなに緊張しなくていいよ。俺の事だから」





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2020/01/25 (Sat) 09:14 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんばんは。

コメントありがとうございます。

類君に庶民食を食べさせることが多いので(笑)何が良いかなぁ~と思ってたら、前の日の晩ご飯が焼きうどんだったので。
うちは旦那が好きなので結構作るんですよ。
楽ちんですもんね(笑)

ほうれん草のスープは調べたので、次の日に作ろうと思ったら片栗粉がなかった(笑)
類君相手だとすぐに買いに行きますが、旦那だとね・・・。

2020/01/25 (Sat) 21:38 | EDIT | REPLY |   

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