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千紘が産まれてからは仕事にも気合いが入って順調に信用を回復していった。
自ら営業に出ることは減ったけど、営業本部長補佐として複数の案件を担当して契約を結んでいき、そのうち海外事業部にも顔を出すようになると海外のクライアントとの会議も増えてきた。

その度に出される千紘の話、それには仕事よりも夢中になって回りから驚かれる。
「昔は表情が乏しかったのに」なんて言われると苦笑いだった。



千紘の誕生日が近づいてくる頃、俺は営業部から異動し、経営側の専務職となった。
それはつくしにも緊張を与えたのか、「おめでとう」の言葉と同時に少しだけ不安も感じさせたようだ。怖々とした笑顔を俺に向け、受け取ってくれた背広をクローゼットに運ぶ時も俯いてた。

だから出てきた時にそっと抱き締めた。


「どんな立場でも家に帰れば極普通の家族だから。大丈夫、つくしはそのままで居て?」
「うん・・・判った。あっ、今日ね、千紘がちょっとだけ歩いたんだよ?」

「ほんと?!後で見せてもらお!」
「あはは!見せてくれるかなぁ?」


でも天使は昼に遊び疲れたのかベビーベッドの中でグッスリ・・・俺がよちよち歩きを見せてもらえたのはその週の日曜日だった。
真剣な表情なんてしないからすぐにでも立つのかと思ったけど、フラフラと立ち上がってはペタンと尻餅付いてキョトンとしてる。驚いて手を出そうとしたらつくしに「大丈夫だよ、あのくらい!」って笑われた。

でもハラハラする・・・いつでも抱き留められるように両手を出してカバーしていたら、そんなの気にせずに千紘がテーブルの端っこを持って立ち上がった。
そして両手を離して自分で拍手!その後で嬉しそうにつくしに向かって歩き出した。


「あ!歩いた・・・すごい、千紘!」

「あ~、きゃははは!」
「うふふ、じゃあ今度はパパに向かって歩こうか?千紘、パパのところに行ってみて?」

「あ~?んん~・・・パッ!」

「おいで、千紘」


つくしの腕を離して俺の方に向かって歩いて来る・・・その姿の愛おしさに涙が出そうだった。
ニコニコ笑って俺に向かって手を伸ばして、1歩がすごく小さいから時間が掛かって、でもバランスを崩してあと1メートルってところで躓いた!
咄嗟に前に出て千紘を抱き締めたら、何事もなかったかのようにケラケラ笑って俺の鼻を摘まむんだ。


「くすっ・・・!危なっかしいね、千紘」
「パ~パ!んまっ!」

「あれ?ちゃんとパパって言った?」
「あー、ホントだ!私なんてママってはっきり言われたことないのに~!」

「パ~パ!パ~パ、きゃはは!」
「あはは!千紘、ありがとう~!」


色んなことは母親のつくしが先だったけど、名前だけは俺が先・・・そんな事がこんなに嬉しいって変だけど、それでも本当に嬉しかった。
だから力一杯抱き締めたら大泣きされて、その小さな手で殴られた。



その次の週には千紘の誕生日がきた。
父さんと母さんは生憎フランスで外せない会議があったから日本に居なくて、牧野の両親と祝った。
花沢の生活を持ち込まないと約束していたからその日のメニューもプレゼントも牧野のお義母さんセレクトで、俺には新鮮な物ばかり・・・でも笑いだけは溢れてて、千紘はすごく楽しそうだった。


「いやぁ、新しい会社で初めての満額ボーナスもらってさ~!だからケーキは奮発してみたんだけど」
「私もパートの時給が上がったから千紘に帽子買ってみたの!どう?可愛いでしょ?」

「お父さん、奮発したって苺ショートじゃん!ホールケーキじゃないの?」
「美味しそう・・・でも俺、1番小さいので」

「類さん、ショートケーキはどれも同じ大きさだから・・・」
「はい、これは私と進君から♡着せ替え出来るお人形だよ?」


進と真由美も来てくれて、狭い部屋の小さなテーブルに寄り集まっての誕生日パーティー。
タキシードでもドレスでもワインでもなく、小さなケーキにろうそく1本立てて、それを俺と一緒に吹き消した。
誰よりも嬉しそうに拍手する千紘に全員で大笑いして、楽しい時間が過ぎた。




**



その数日後、イギリスに居るあきらから連絡が入った。


「どうしたの?あきら、急だね」
『・・・まぁな。お前の耳に入れておいた方がいいかと思ってさ』

「何の話?イギリスで何かあった?」
『今さ、美作で医療施設向けにオーガニック食品関連事業をしてるんだけど、そこで珍しい名前を見つけたんだ』

「珍しい名前?」


そう言われたら思い出すのは1人しか居なくて、スマホを持ってる手に力が入った。

・・・あれから情報がさっぱり無かったから。
それなのにあきらから言われるなんて思いもしなかった。


『こっちじゃアニマルセラピーって結構ポピュラーなんだけど、その中のホースセラピー担当者にARISUGAWAって名前があったんだ。フルネームは判らないけど、介護施設の職員に聞いたら若い日本人の男性だってさ。
類、その後の行方は判らないままだったのか?』

「・・・新潟で発見されたって情報の時に有栖川祐子の友人だった喫茶店の女性に聞くようにって説明しただけ。その後就籍してるはずだから戸籍はあると思うけど、その先は知らないんだ。
自分で記憶の一部を消すような自己暗示を掛けたみたいだから、もうそっとしておこうと思ったんだけど・・・そうか、そんな事してたんだ」

『あぁ。こっちでも「自分は記憶喪失の部分がある」ってちゃんと説明してるそうだ。日本のNPO団体の代表者に同行してるらしいんだけど、ちゃんと手続きしてるって事はパスポートが持てたって事だろうな。
アニマルセラピーとしての腕は凄いらしいぞ?特殊能力だって施設の担当者も驚いてた』

「そう・・・良かったんじゃない?」
『お前はもう許せるのか?』

「・・・まぁね、もう大丈夫だよ」


特殊能力・・・「あの力」が消えなかったのか。
それを今度は新しい事に利用できたって考えていいんだろうか。それは同時に柊祐を救ってくれる、そう願わずにはいられなかった。



その日の夜につくしに話したら、彼女もホッとしたようだった。


「もう会えないと思うけど、憎しみを抱えた彼の顔しか覚えてないの。だからそれが穏やかで優しいものに変わってるなら安心だわ。ちゃんと自分の居場所を見つけられたのかしらね・・・」

「そうだといいな。あいつが笑ってるなら・・・それが1番かもね」

「・・・どうしてかしら。すごく酷い事をされたのに憎めないのよね。今が幸せだからかな・・・」

「これまでの総てが今に繋がってるからだよ」


「・・・そうね、きっとそうだわ」


千紘がつくしの頬に触れる。
つくしがその小さな手を包む・・・俺はそんな2人を抱き締める。


思い出したら悲しくなるあの日々も、総てが無駄ではなかったと思いたい・・・・・・柊祐の為にも。





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明日、最終話です♡
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Comments 4

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2020/01/13 (Mon) 00:32 | EDIT | REPLY |   
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2020/01/13 (Mon) 06:58 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

シナモン様、こんばんは。

コメントありがとうございます。

あっはは!止めてーーーっ!!
怖いから!

もしかしたらウサギの理雄君が彼を利用するかも?
マジで花沢城異動を願ってバンバン話が来るんだから!

「あのさ、類君に暗示掛けて理雄を抱いてって言ってくれない?それ、もう解かなくていいから」
「・・・・・・ホントにするの?いいけどいくらくれる?」

「・・・10000Flowerでどう?あきら君の貯金箱にそのぐらいならあると思う・・・」
「判った。じゃあ今晩掛けとくね。明日の夜にこっそりおいで?良い夢見せてあげるよ・・・」

「やったぁ!!」

みたいな。

2020/01/13 (Mon) 22:08 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんばんは。

コメントありがとうございます。
そして毎度見つけていただいて💦助かりました!!

どうしてもそっちに変換されるので毎回直してたんですよ(笑)
やっぱり見落とすんですよね~。

柊祐にも幸せを・・・はい♡ラストにも出てきます。
見届けてやって下さいね♡

2020/01/13 (Mon) 22:29 | EDIT | REPLY |   

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