FC2ブログ

plumeria

plumeria

つくしの部屋の小さなテーブルに2つ並んだマグカップ。
やはりあの珈琲は使えないからインスタントの珈琲を淹れて、お互いの前に置いた。

それに手を伸ばしたのは類が先で、然程緊張した面持ちでも無く穏やかな目・・・それに安心してつくしも自分のマグカップを両手で抱えた。
いい香りがする訳でもないが2人だと言うだけで何故かいつもと違う・・・つくしは黒褐色の珈琲に映る自分の顔を見つめていた。



「母さんのことなんだけど・・・牧野に話したこと、ないよね」
「お母さん?確かもうお亡くなりに・・・」

「ん、俺が10歳の時・・・」


急に出た話が母親のこと・・・つくしは予想もしてなかっただけに驚いた。

昨日仙道の母親と出会い、その人に突き放すような言葉を出したばかりだったから、それと関係あるのかとビクッとした。
類はそれを察したのか「関係ないよ」とクスクス笑い、その後で「もうこの世には居ないんだから喧嘩出来ないしね・・・」と淋しそうに言葉を続けた。


「ごめん、そういう意味じゃ無くて・・・」
「ん、判ってる。聞いて欲しいだけ・・・俺の思い出みたいなもの、だけどこれからにも関係するんだ」

「思い出と・・・将来?」
「・・・うん、そう」


類は亜弓との思い出を話し始めた。
勿論つくしは初めて聞く類の幼い頃の話だ。


類は桜が満開の季節に母方の実家がある田舎で生まれた。
花沢物産の跡取りなのに設備の整った都内の総合病院ではないなんて・・・つくしはまずそれに驚いた。


「俺さ、すごい嵐の日に産まれたんだって。雷が光ってて・・・母さん、痛いのと怖いのでそれから雷が嫌いになったらしいんだ。何度も小さい時にその話を聞かされたよ。だから雨の日にはいつも側に居た・・・そうしたら母さんが安心するから」

「・・・お母さんのこと、好きだったんだね」

「・・・母さんしか話す人が居なかったんだ。それと彼奴ら・・・ね」
「あはっ、悪友のことだね?」


類が英徳の小学部に入った頃から亜弓の身体は病魔に冒され、ベッドで過ごすことが多くなった。
それでも入院はせずに子供の側がいいと言って屋敷での治療を受け、その為に時々学校を休んで亜弓の部屋に居たことを話した。

つくしの目に熱いものが込み上げる。
それを指先で拭っていたが、耐えられずにハンカチを取り出して顔を覆った。

対面で座っていた類はこの距離が耐えられなくなり、顔を覆うつくしの側に移動した。
そしてそっと髪を撫で、自分に引き寄せた。今度は類の服で涙を拭い、つくしはそのまま類の胸に顔を埋めた。その体勢のままで話は続いた。


「母さんが亡くなった時、父さんから言われた言葉は『泣くな』だったんだ。
『世界中から来る参列者に涙を見せるな。お前は跡取りなんだから簡単に泣き顔を晒してはならない』ってね。だから悲しくて壊れそうだったけど泣かなかった。それが俺の『立場』なんだって・・・」

「そんな!1番泣かなきゃいけない時だよ・・・だってお母さんだよ?悲しかったら人は泣いてもいいんだよ?それなのに・・・!」

「・・・でも出来なかったんだ。
それからかな・・・自分の未来になんの希望も持たなくなった。何があっても聞いてくれる人も居なくて、自分の夢は見られなくなって、総てが決められていて俺はその上を歩かなきゃいけなくて。
花沢の為に知識は詰め込んだけどね・・・いつもそれに違和感を感じて息苦しかったんだ」

「違和感?」

「・・・うん・・・ここは俺の居場所じゃ無い、そんな感じ」



『思ったように進みな。あんたにはそれが出来るんだから』

いつかそう言った類の事を思い出し、あの時の淋しそうな表情はこの想いから来ているとつくしは悟った。


「実はさ・・・俺にも夢がない訳じゃ無いんだ。本当はやりたいことがある・・・誰にも話したことはないけど、牧野には1度言ったかな」
「うそ!いつ?どんな夢?」

「・・・海洋生物の研究。もう少し細かく言えばイルカの研究・・・かな」
「あぁ!だから前にもそんな本、読んでたの?すごく難しそうなのを真剣に読んでたから驚いたもん。好きで読んでた訳じゃ無いんだ?すごい、素敵な夢だと思うなぁ~」

「あんた、あの時もそう言ったよ。俺が嬉しそうに話してるって。でも、それが無理だと判ってる・・・俺はそんな仕事には就けない」
「・・・花沢物産があるから?」

「そう・・・俺にはそこが用意されてるから。でもね・・・あんたにブレスレットもらった時に挑戦したくなったんだ」


今、腕に着けているお揃いのブレスレット。
そこにあるラリマーという石が持つ言葉・・・『新しい環境への不安を取り除いて、自分で目標を見つけられる』、それが2人なら出来るかもしれないと感じた、そう言えばつくしは類の腕の中で真っ赤になった。
自分にそんな大それた事は出来ない・・・でも、手助けぐらいなら・・・と思うのも正直な気持ちだ。



類の言葉が止まった。

それに気が付いて顔を上げると、類は思い詰めたような表情で抱き締めているつくしを通り越し、何処かくうを見ているようだった。
力が緩んだ腕を静かに解いて真横から顔を見つめたが、それでも類の目は虚ろなまま・・・不安になったつくしがグッと手を握ると漸くハッと顔を上げた。

その時間に考えていたこと・・・これこそ今まで1度も人に話したことがない。


チラッと時計を見ると午後11時半・・・つくしはもう1度温かい飲み物を準備した。
その間の沈黙につくしの戸惑いは増すばかり。もしかしたらさっき聞いた夢の為に花沢を捨てると言うのだろうか・・・?
道明寺と付き合っていた時期があるつくしには、それが花沢家にとって許されるものではないことぐらい判っていた。

もし、それに同意して欲しいと言われればどうすればいいのか・・・何も聞いてない内からその答えだけを悩み、キッチンで湯を沸かしていた。


そして部屋に戻ると少しも動いてない類の丸くなった背中、それを見て胸が苦しくなった。
一体何がこの人をここまで苦しめているのだろう・・・そう思ったら我慢出来ず、マグカップをテーブルに置くとすぐに類を抱き締めた。


「牧野?」
「なんでも言ってよ、ちゃんと聞くから。たとえ無理なことでも話すだけなら自由だって!類・・・そんなに1人で苦しまないで?」

「・・・・・・ありがとう。うん・・・確かに話すだけなら自由かもね」


さっきとは体勢が逆で、つくしが類を抱き締めたまま・・・身体に回された細い腕に自分の手を重ねて、類は話し始めた。



「俺さ・・・あの家の子供じゃない気がするんだ」

「・・・・・・は?」

「何処の誰の・・・なんてのは知らない。でも俺は花沢の人間じゃ無い気がする・・・それはもう随分前からそう思ってる」

「どうして・・・そう思うの?」

「何となく・・・本当に何となくなんだ。
父さんが俺の事を避けてる気がするし、あの家に住んでいても俺の中には疎外感とか違和感しかない。俺もだけど父さんもお互いに凄く距離を取ろうとする。本当に家族なんだろうかって・・・母さんが亡くなってからずっとそう思って来たんだ。
海洋生物に興味を示すのも自分で何故だか判らない。子供の時に海に行く事も無かったのに、それでも海にはすごく惹き付けられるんだ。デスクワークしてる自分の姿は想像出来ないけど、何処かの海で研究してる自分は夢に見る・・・まるでそれが俺の中に流れる『血』のせいじゃないかって思うぐらいにね・・・」


類の身体に回した腕を彼が掴んでるから動けない。
それよりもつくしは想像以上の内容に呆然として返事すら出来ない・・・でも「そんな馬鹿な」なんて言葉も出なかった。


唯一言えたのはこれだけ。


「類・・・私は『花沢類』って名前があるから好きなんじゃないよ?ここに居るあなたが好き・・・それだけだよ」





にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村
応援、宜しくお願い致します♡
関連記事
Posted by

Comments 2

There are no comments yet.
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2020/01/26 (Sun) 17:21 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんばんは。

コメントありがとうございます。

はい、行動開始です!
でも色々と事件が起るので(笑)毎日更新ですがお話の進みはカメの歩みです💦

元々別サイトのお話なので、花沢類が花沢類じゃないかも?なんて爆弾落としちゃって💦
読者様に怒られるんじゃないかとヒヤヒヤです・・・(笑)

どーしましょ!

2020/01/26 (Sun) 23:23 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply