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次の日の朝、今までとは違う気分で支度をするつくしは化粧時間が少し長かった。

勿論ナチュラルメイクなのだがいつもより丁寧に・・・しかも今までは最終チェックは5秒だったのに、今日は鏡を覗き込む回数と角度がなんと多いことか。
自分でも可笑しく思いながらだけど修正する手が止まらない。

類はそんな部分に何も触れない男だと判っているのに、そこは乙女心・・・少しでも可愛く見られたくて、新しい化粧品を買うことまで頭の中で計算していた。


アクセサリーはお揃いのブレスレットに合わせて、白と青のコットンパールのピアスとネックレス。
つくしの作るアクセサリーは派手ではなく、選んだ服の邪魔もしない。今日は小さめのスタッドピアスにしたから髪をハーフアップにしようと、今度はその位置で悩むほどだ。



「これで良し・・・いつ来るのかな~」

そんな言葉を呟きながら窓から外を見れば既に真下に白い車が停まっていた。
「ヤバい!」と時計を見たらとっくに出掛ける時間になっていて、つくしは慌てて鞄を手に持った。
よく考えたら今日の荷物を揃えた記憶も無い・・・でも待たせる訳にもいかなくて、僅かな距離の玄関と部屋を数回行ったり来たりした後、結局そのまま飛び出した。

自分には参考書や教科書を貸し借りする友達もいないのに・・・と、部屋を振り返りながら階段を降りる。そんな調子だったから最後の1段を踏み外して勢いよく尻餅をついた!
同時に飛び出してきた類が「牧野!」と叫んだが、痛いのと恥ずかしいので返事も出来ない。

今日はジーンズで助かった・・・と、投げ出された自分の足を見ながらホッとした。


自分に向かって来る「彼」は今日も爽やかで格好いい・・・お尻をさすりながらの「彼女」とは大違い。これまでの時間が無駄だったような気がしてつくしは自虐的に笑った。
一方類は捻挫でもして立てないかと心配したのに、笑っているつくしを見て眉根が歪んだ。


「大丈夫?あんた、どうして振り向いてたの?」
「あははっ!見てた?忘れ物無かったかなぁ~って考えてたらさ、足元見てなかった!」

「もう・・・朝っぱらからそんな盛大に転けるなんて。ほら、掴まりな」
「・・・ん、ありがと!」


類の手を持って立ち上がると片手で服をパンパン叩いて、やっぱりチラッと2階を見あげる・・・その視線に気が付くとつくしの持ってた鞄をヒョイッと自分の肩に掛けた。
そして車に向かう途中で「取っておいで。間に合うから」、そう言うと少し振り向いて一瞬のウィンクを送った。

その仕草にボッと顔が熱くなったが、間に合うと言われれば取りに行くしかない。つくしは降りたばかりの階段を駆け上がり、思い出したように今日の講義のファイルを手に持った。
そして靴を履ききらないうちにドアを閉め、乱暴に爪先を打ち付けながら鍵を掛ける。慌て過ぎて1度落としたファイルを拾い、今度はちゃんと足元を見ながら階段を降りた。

車はもうエンジンが掛かってる。
急いで助手席に乗り込むとすぐに車内の時計を確認・・・これで間に合うの?って時間になっていた。


「ど、どうしよう?今日の1時限目、遅刻に五月蠅い山本教授なのに・・・」
「ギリ間に合うと思うよ。降りたらすぐに走れよ?」

「うん!ごめんね、ホントに・・・」
「くすっ、お洒落に時間掛けたから?」


「・・・・・・・・・う、うん・・・」
(完全にバレてる・・・張り切りすぎだって思ってる?)


つくしは尻餅も痛かったがそれ以上に心臓が痛い・・・運転席側の顔半分を手で隠して類から見られないようにした。

逆に類の方はつくしの行動が嬉しかった。今までしなかったことを自分の為にしようとしてくれた・・・しかも特待生のつくしが講義の準備も忘れるほど自分の事を考えてくれたのだと。
でも急がなくてはならないから運転はいつもより慎重だ。

自分よりも大事な人を乗せている・・・そう思えば自然と意識は運転に集中した。

だからひと言だけ呟いたのにその後は何も聞かない。
つくしにしてみればそれは「成功」なのか「失敗」なのか判らない。ぼんやり映る窓硝子の自分を見てアイメイクを確認・・・少し眉を細くし過ぎたか?と指でその辺りを掻いていた。


でも聞けない・・・今日のメイクどうかな?なんて。
尚更言えない・・・類のために頑張ってみた、なんて。


類の言葉通り1時限目7分前に大学に到着し、類は駐車場に入れる前に校舎入り口に近いところで車を停めた。
寧ろ遅れたことが良かったのか今日はギャラリーがいない。つくしは急いで鞄を持って助手席から降り、ドアを閉める前に「ありがとう!」と叫び声のようなお礼を言った。


「あんた!可愛くしたからって男に声掛けられないでよ?」

「・・・へ?」

「いいから早く行きな。お昼は今日こそ・・・ね!用意しとくから」
「うん!」


類の指が空を指している・・・つまり「2人の指定席」においでと言われたことを察し、つくしは今日初めて類に向けてにっこり笑った。


つくしには判っていない。
類がこの後頬を染めて自分の口元を覆っていたことを。
「馬鹿・・・そんなに綺麗にならなくても」・・・そう呟いたのを聞いたのは自分の耳だけ。黒く光る髪を揺らしながら消えて行く後ろ姿をハンドルに凭れ掛かって見ていた。




今日も昨日と同じで教室では誰も話し掛けてこない。
それは特に気にならないし、自分の事を言われることには慣れている。
でも、類の事を悪く言われるのは嫌だったから雑音を取り入れないように講義に集中し、空き時間は図書館でレポート作成に時間を使った。


「・・・そう言えば」

その時に類が見ていた海洋生物学の本を思い出し、それを探しに本棚に向かった。

つくしには縁が無い世界だから本のタイトルなど覚えてはいない。
でも表紙の色合いだけは覚えていて、それを見つけたから手に持ってみた。


「うわっ!重たい・・・類が持ってたら軽そうに見えたのに・・・」

その本をパラパラと捲ってみたが・・・・・・あの時も聞いたけれどやはりちんぷんかんぷんだ。

見慣れない言葉が呪文のように並んでいて読む気にもならない。
でもそこにある写真には何故かホッとする・・・イルカや珊瑚、真っ青な海の中から見た太陽の光。
見た事もない魚や貝、当然グロテスクな写真もあるからその時はすっ飛ばしたが、これが類の好きな世界・・・そう思うと自分のレポートを忘れ、その本を机まで持って来て眺めていた。

頭の中ではヒメルリガイのネックレスのイメージ中・・・わざと気泡を作り白で波を作ってみようかなどと、ノートの端にデザイン画を書き始めるほど夢中になっていた。


その時に鳴ったチャイム・・・はっ!と我に返ったが、レポートは僅か5行しか進んでいない。
それを見てまた鼻を擦り口を尖らせ、「この本のせいだわ」と呟きそれを閉じた。


いつの日か類の夢が叶えばいいなぁ・・・と、本棚にそれを戻してタイトルをなぞるつくしだった。




4時限目が終わると昼休み。
つくしはザワザワする教室を1番に飛び出し、待ち合わせの屋上に急いだ。

仙道のことを思い出さないように昨日とは違うルートでその入り口に向かい、キョロキョロ辺りを見回す・・・そこに不審な影がないと確信したら人気のない校舎に飛び込み、階段を駆け上がった。
普段人が少ない校舎だから自分の足音がすごく大袈裟に響いている。1度立ち止まって再び他に誰もいないことを確認・・・その後で一気に屋上の扉前まで上がった。

はぁはぁと荒い息・・・類の前で見せるのは嫌だったからドアを開ける前に呼吸を整えた。
そして最後に大きく深呼吸したら、焦ったことなど感じさせないようにドアを開けた。


そこから横に顔を向けると見える貯水タンク・・・その向こうに長い脚が見えた。
段差の壁で上半身が見えないが、完全に脱力した様子は講義に出ていないことを物語っている。


やれやれと苦笑いしながら・・・でもニヤけ顔のつくしがそこに近づいて行った。






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2020/01/28 (Tue) 07:16 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、おはようございます。

コメントありがとうございます。

乙女なつくしちゃん、確かに珍しいかも?(笑)
こういうラブラブな感じは続けばいいんだけど♡
今回は離れないから続くのかな?(笑)

私の所は一昨日からずっと雨です。昨日は酷かったなぁ~。
今日も雨ですが風が強くて寒いです。でも雪にはなりそうにないですね・・・。
もしかしたら今年は雪ゼロで終わるのかしら?


2020/01/28 (Tue) 08:28 | EDIT | REPLY |   

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