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貯水タンクに近づくと見えてくる類の寝顔・・・気持ち良さそうに両手を頭の下に組んで寝息を立てている。

よくも外でこんなに爆睡出来るものだと感心しながら側まで行ったが起きる気配がない。でも、頭の向こう側には紙袋があるから、それが昼食の意味なのか、とつくしは気になってそれをガサガサと覗いた。


「あっ、美味しそう・・・」

袋の中にあったのはこの辺りでも有名なベーカリーのサンドイッチセット。
同級生達が美味しそうに食べているのを見た事はあるがそこそこ良い値段のものである。つくしには贅沢な食事の部類に入るから、これまで1度も買ったことがなかった。

これを見てしまっては彼氏より食欲・・・頑張ってお洒落したとしてもいきなり中身までは変わらない。
つくしは早く起きてもらおうと、段差の上で寝そべっている類の顔の真横まで行って覗き込んだ。そして声を掛けようとしたら微かに目が動いて唇が震えている・・・それを見たつくしはムッとした。


「類!起きてるでしょ?」
「・・・・・・ぷっ!」

「もうっ!私がパンの袋を覗き見すると思って態となのね?」
「あははっ!判った?ホント、あんたは期待を裏切らないよね」

「ひどーい!このまま昼休みが終わったらどうしようかと思ったじゃん!」
「くすっ、ごめんって。因みに目覚めのキスを待ってたんだけど」

「・・・ば、ばか!」
「誰も居ないよ?」


殺風景で施設設備しかない屋上に人など居るわけないのにキョロキョロと見回し、さっきのドアまで覗きこんで確認。耳を澄ませて人の気配を探るつくしの仕草を面白そうに見る類は、既に身体を起こして胡座をかいていた。
そして戻って来たら少し緊張した顔で出した言葉が「もう1回寝て!」、だった。

目覚めのキスとは言ったがもう1回寝ろと言われると思わなかった・・・類は噴き出しそうになるのを我慢して寝転ぶと、静かに目を閉じた。
近づいてくる空気は感じる。
でも一向にキスされなくて薄めを開けたら真上に真剣な顔のつくしが居て、逆に少し怖かった。


その後微かに触れた柔らかいもの・・・でもすぐに離された。

「そんなんじゃ眠り姫も起きないと思うけど?」
「で、でもしたもん!さっ、早く起きてご飯食べよ?!」

「くすっ・・・はいはい」


2人並んで段差に座り、類は隅に置いていたアイス珈琲をつくしに渡した。
つくしは紙袋を広げてサンドイッチを取り出し、その彩り鮮やかで良い香りのご馳走に笑いが止まらない。
食事でこれだけ笑えることに感心する類は至って冷静で、つくしに先に選ばせようと「どうぞ」なんて言ったが、その時にはつくしが1番気になっていたベーグルサンドがもう口の中に入っていた。


「・・・ぷっ!そんなにお腹空いてたの?」
「んぐっ!・・・んっ、はぁ、飲み込めた!うん、朝ご飯の記憶がないのよ~」

「そうなんだ?好きなだけ食べな」
「類も食べてよ~って、これ類が買ってくれたんだけど」

「ん、じゃこれにしようかな・・・」
「あっ!それ、次に狙ってたのに!」

「はいはい・・・」


オーソドックスな玉子サンドにハムとチーズのベーグルサンド、海老カツサンドにビーフカツサンド・・・つくしの次なるお目当てはタンドリーチキンのサンドだ。
その笑顔を見ると、小さなサンドを沢山詰めてもらう時の恥ずかしさなんてもう忘れた。そして自分では選ばず、つくしに選んでもらったものを食べた。


こんなに楽しい食事は何年ぶりだろうか、と類は考えていた。
つくしと食べる時は何時も楽しかったがそれは友達として・・・つくしの後ろに見える道明寺や仙道の影を見ながら食べていたから味など感じる暇はなかった。

それが今は違う・・・しかもあの話をしてからは、胸の中に痞えていたものがなくなった気がして気持ちが軽かった。



「あぁ、そうだ。伝えとかなきゃ」
「なぁに?」

「あいつのこと。さっき連絡があったんだって。勤めていた会社から大学にだけど」
「あいつ・・・あっちゃん?勤めていたって・・・」

「ん・・・事務長の話だと依願退職、つまり自分から辞めるって言ったらしい。引き継ぎが終わり次第、有休消化もせずに退職だってさ」
「・・・・・・そう」


チュルと最後の珈琲を喉に流し込み、つくしはそれまで笑っていた顔を空に向けた。


逃げるような気持ちで付き合ってしまった恋人だった。でも楽しいと思える時間も初めの頃はあった・・・そして憎くて別れた訳じゃない。
元々の価値観も考え方も違ったのだ。

昨日の出来事は許せなかったけど、それでも立ち直って自分に似合った恋を探して欲しいと思っていた。
あんな事件を英徳で起こして会社にバレたのだから、こうなることは何となく予想出来ていたが、それは最早自分の耳には入らないだろうと思っていたから少し驚いた。


「・・・辛い?」
「ううん・・・そうじゃない。あっちゃんはプライドが高いって言ったでしょう?少しでも自分に傷が付いたらダメなの。そこに居られない人なの。だから・・・多分こうなると思ってた」

「牧野のせいじゃない」
「うん、それも判ってるよ・・・判ってるけど・・・」


自分の言動で1人の男性の人生を少しだけ狂わせた・・・自分になんの非も無いとは思えなかった。
太陽の光に眩しくなって流れ始めた涙は、別の意味を含めて止まらなくなった。

類はそんなつくしを抱き寄せ、空に向けていた顔を自分に向けさせた。
「せっかく綺麗にしたのに・・・」、態とそんな言葉を耳元で出して泣いているつくしを赤く染める・・・そうすることでつくしの意識を自分に戻そうとした。
そして抱き寄せている優しい腕とは反対にその目は少し鋭くなっていた。


仙道がフリーになった。

次の仕事をどうするのかなど知ったことではないが、そうなるまでの間につくしに接触する可能性がある。それはつくしを恋い慕うからではない・・・自分を傷付けた人間への逆恨みから何をするか判らない。
しかもターゲットはつくしだけでなく自分も入っている。正面から向かってくれば自分の身は守れるが、違う角度から攻撃されれば面倒な事が起きるかもしれない・・・。


これから花沢と自分の関係を探ろうとしている類にとっては、花沢の「力」を行使することに躊躇いもある。

兎に角つくしはすぐに守らなければならなかった。


「牧野、今日のバイトは?」
「・・・ぐずっ、今日は・・・あぁ、中学生の家庭教師が1件だけ・・・」

「じゃあ今日も送り迎えする。その間に新しい部屋の準備をするから引っ越すよ」
「えっ!今日から?」

「勿論。危ないでしょ?」



午後のチャイムが鳴った。
つくしは慌てて最後に残っていた海老カツサンドを口に放り込み、苦笑いする類を置いて先に階段を駆け下りた。途中「講義には出なさいよー!」と叫んでいたが、類は片手を上げてニコッとするだけ。

フェンスから通路を見下ろし、つくしが教室に向かったのを見届けたらスマホを取り出した。


掛けた相手はあきら。すぐ目の前の校舎に居るはずの親友に頼み事をするためだ。
それは数コールで繋がり、漏れ聞こえる音であきらも大学には居ないと判断。その方が都合が良かった類は急にテンションを下げた声で話し始めた。


「あきら・・・今話せる?」
『どうした?お前から電話なんて珍しいな』

「あきら名義のマンションで使ってないヤツある?セキュリティ万全のところが良いんだけど」
『は?お前も持ってるだろう、自分名義のマンションぐらい』

「俺の・・・って言うか花沢のは使いたくなくて。持ってない?」
『・・・はぁ~ん、そう言う事か。判った、場所をメールしとくわ』

「悪い・・・助かるよ」
『牧野の為だからいいって!』


強ち間違いじゃない・・・と呟き、再びさっきの場所に戻った。
すぐに届いたメールを開き、その物件のセキュリティを確認する。


もうすぐ5月が終わろうという頃・・・爽やかだった風が早くも夏を感じさせる匂いに変わっていた。






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2020/01/29 (Wed) 07:03 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんにちは。

コメントありがとうございました。

大人しく退場………なさそうですね(笑)💦
色々やってくれそうですが、類君がついてますから♥️

変な………💦
いや、それはカフェラテの亮でしょうか(笑)
ヤバい人を思い出してしまった!😅でも、似たようなものかも…。


2020/01/29 (Wed) 14:06 | EDIT | REPLY |   

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