雨の降る日はそばにいて (最終話)

私は電車に揺られて伊豆の小さな町に向かっていた。
持ってきたカバンの中には宝物の他に茶道に関する書籍を入れてきた。
確かあの家には小さな和室があった・・・簡単なお道具が置いてあったはず。

「こんな本でもお勉強できるのかな・・・でも、師匠は謹慎中だもんね」

電車の窓から外を見て独り言のように呟いた

ほら・・・今日もまた小さな雨が降っている、電車の窓ガラスに雨粒があたって流れていった。
でも、大丈夫・・・きょうは傘を持ってきたから。

駅に着いたら通りがかりの人に道を尋ねながら、僅かな記憶を辿って行った。
1度来ただけだけど不思議と迷わなかった・・・あの時に眼に焼き付けた光景が蘇ってくる。

どのくらい歩いただろう・・・そろそろ西門さんの隠れ家が見えてくるはずなんだけど・・・。
そう思いながら細い道を進んだらその家の屋根が見えてきた。

「はぁ・・・!やっと着いたかも!・・・懐かしいなぁっ・・・て言っても一回しか来たことないんだけど!」

大きな独り言を言いながらその家の入り口まで来た。
雨はそんなにひどくならなくて、優しくて・・・静かに降っていた。


私は家の玄関まで来て、以前もらっていたここの合い鍵を手に持った時・・・何となく庭の方に目をやった。

誰か人がいる・・・!そんな気がしたから。


そこにいるのは・・・その大きな石の上に座っているのはここにいないはずの彼だった。


雨の中、傘も差さずに海の方をずっと見ている・・・その後ろ姿に心臓が高鳴った。
足音をさせないようにそっと近づいていく。波の音で私のことは気が付いていないんだろうか・・・

そして、その人のすぐ後ろまで来たときに彼は私を見ずに言った。


「随分遅かったんだな・・・ここに来るのが・・・」
「・・・なんだ。気がついてたんならそう言ってよ。西門さん・・・」

「お前の気配なんて見なくってもすぐにわかるんだよ!」

西門さんの後ろから傘を差しだしたらいきなり立ち上がって抱き締められた!
私は思わず持っていた傘を手放してしまって・・・それは家の方まで海風で飛ばされてしまった。


「随分濡れてるよ?中に入ろうよ・・・」
「黙っとけ!・・・もう少しだけこうしてろ・・・」

西門さんの冷たくなった身体が私の熱くなった心を抱き締めている。
こんなになるまで・・・この人はどのくらいここに座ってたんだろう・・・ずっと海を見ていたのかしら・・・。

西門さんの服を握りしめたまま、小さな声で聞いてみた。

「どうしてここにいるの?長野の方は・・・もう良かったの?謹慎処分解けたの?」

私の肩に頭を乗せたまま、まるで動かない西門さんは同じように小さな声で答えてきた。

「まだ謹慎処分中だ。でも自分の好きな場所でこの先を考えろって言われたんだ・・・」
「そうなんだ・・・それでここに来たのね。私もね、会社を辞めてきたんだよ」

やっと西門さんは私から離れて、お互いにその眼を反らさずに見た。

「なんで?会社・・・どうして辞めたんだ?行きにくくなったのか?」

「ううん。・・・これからはいろんなこと勉強しないといけないからだよ。ちゃんと自分で決めたの。
一人だからどうしようかと思ったけど・・・良かった!お師匠様が帰ってきて・・・ここで初めから教えてね」


その後の西門さんの笑顔は今までで見た中で一番嬉しそうに見えた。


*******


長野を出てからまっすぐに伊豆に来た。ここで一人静かに自分と向き合おうと思ったから。
もしかしたら牧野もいつかはここに来るかもしれない・・・そんな予感もしていた。

少しだけ雨が降っていた日に何となく海を見たくなって外に出た。
牧野がいつも眺めていた時はどんな気持ちだったんだろうと考えたから・・・少し暗い海を1人で見ていた。

その時だった・・・牧野の声が聞こえた!やっとここに着いたと・・・牧野の明るい声が聞こえた。
まさか本当に牧野がすぐここに来るなんて・・・やっぱり俺たちは繋がってんだな。
そう思ったら俺の中に熱いものが込み上げてきた・・・!
でも・・・もう少しだけここには来るなよ・・・俺の中のこいつが治まるまで・・・。そんな事を呟いていた。

まるであの日の牧野だ・・・雨で涙を隠そうとしたってのはこんな気持ちだったのかもな。


牧野も俺に気がついた。
ゆっくりと近づく牧野の足音が波の音に微かに混じっている。

すぐには振り向けなかったよ・・・こんな顔をお前に見せたくはないからな。
でも真後ろまで牧野が来たときにはもう限界だった。
こんなに濡れているのに、牧野も濡らしてしまうのに俺は情けないほどに牧野を抱き締めてしまった。


そして壊れるほどに抱き締め合った後、ようやく牧野の顔を見ることが出来た。


すぐに牧野の耳に揺れるそれを見つけた。
ラピスラズリのピアス・・・6年以上も眠っていた俺からのプレゼントがやっと牧野の耳で輝いた。

「牧野・・・それ、つけてくれたんだな。何年かかったんだ?お前!」

「ふふっ・・・やっと勇気が出たのよ。どうかな・・・似合うかな?」
「あぁ、似合ってるよ!俺が選んだんだから当然だ!」


雨は今も優しく降っていた。
俺は牧野の肩を抱いて、牧野は俺の腰を抱いて・・・ゆっくりと家へ向かった。

「綾乃が・・・西門へ連絡してきたらしい。京都に帰って治療するってさ。医者もリハビリすれば多少引きずっても
歩けるようになるって言ったそうだ。でも、あいつ絶対普通に歩いてみせるって言ったらしいよ」

「そうなんだ・・・良かった。綾乃さんらしいわ。大丈夫よ・・・歩けるようになるよ、あの人なら」



家の入り口で立ち止まって牧野を正面からもう一度抱き締めた。
随分前には口に出せなかった言葉だ・・・いつか必ず伝えると約束した言葉を今日お前に贈るよ。


「牧野・・・俺と結婚してくれ。・・・西門に思い切って飛び込んでこい。俺が全部受け止めてやるから!」

牧野はただ頷いて俺の胸の中で泣いていた。
謹慎処分が解けるのがいつになるかわかんないけどそれまではここで・・・牧野にすべてを教えてやるよ。


「これからは雨が降っても悲しくないだろ?ずっと俺が側にいるんだから・・・」


あれからもうすぐ7年になる。

3年間、閉じ込めていた俺の恋。
3年間かかってまた始まった恋。

そして1年かけてこの恋は永遠になった。


牧野の耳に光るラピスラズリはその方向を間違えることなく導いてくれた。


この先もお互いに離れることなく側にいようと約束のキスを交わして・・・。
この小さな家の扉を閉めた。


優しい雨が降る中で俺たちは1つになった。
この先にある沢山の夢を2人で見るために・・・。


fin.

IMG_6029.jpg
最後までお付き合いいただいてありがとうございました。
しばらくはサスペンス劇場の予定はございません。Σ( ̄。 ̄ノ)ノ

次は私の一番初めのお話し・・・茶と華との続編です!
今度は完全コメディです!爆弾の予定はなし!

明日は大反省の後書きです。
2ヶ月近く・・・疲れたよ~。゚(゚´Д`゚)゚。
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花より男子

10 Comments

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2017/06/19 (Mon) 12:16 | EDIT | REPLY |   

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2017/06/19 (Mon) 12:37 | EDIT | REPLY |   

plumeria  

Re: タイトルなし

わんこ様、こんにちは🎵

えへへ。
この終わりかただけは始めから決めておりました❗
確かに途中の落とし方は半端なかったけど。
泣かしすぎましたね!二人とも。

しばらくは二人でラブラブしてもらいましょうね!
お稽古になるかしら?
西門の家に行く前に終わらせるのもなかなかないでしょ?

今日も私の地域は晴天。
明日から雨だそうです。残念❗
雨の降る日に終わりたかったです。

今日もありがとうございました❗

2017/06/19 (Mon) 16:23 | EDIT | REPLY |   

plumeria  

Re: こんにちは

えみりん様、こんにちは🎵

やっと終わりました❗
ほっこりしていただけました?
つくしちゃんが総二郎を突き落とさなくて良かったでしょ?サスペンス劇場には付き物ですからね。
崖からの転落事故。もしくは階段の踏み外し。


素敵な曲なんですね?
今日かえってから聴いてみます!

曲まで浮かんでくるなんて嬉しいです‼

しばらくは楽しいお話しにしますね!
夏に向かうし‼

あ、明日から雨だそうですよ?私のところは。
1日遅いよ…

今日もありがとうございました❤

2017/06/19 (Mon) 16:33 | EDIT | REPLY |   

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2017/06/19 (Mon) 16:47 | EDIT | REPLY |   

plumeria  

Re: タイトルなし

みわちゃん様、こんにちは✨

無事に終わりました❗
ありがとうございます❤

お稽古にはなりませんね!
でも、サボってたら謹慎処分解けませんから!
西門に帰れませんよね。

まあ、二人ならどこでもいいのかも~❗
あきらも頑張ってくれたし。途中が死にそうだったけど、最後まで書けて良かったです‼

おつきあいいただいてありがとうございました❗

2017/06/19 (Mon) 18:30 | EDIT | REPLY |   

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2017/06/20 (Tue) 09:11 | EDIT | REPLY |   

plumeria  

Re: タイトルなし

花さま、おはようございます🎵

だ…大丈夫ですか?いや、心配だわ!
私もなのよ。不眠症になって目眩がひどくて。
季節のせいなのかなぁ。

なのに話は暗いし、ややこしいしで大変でした。
終わってほっとしましたよ。

しばらくは気を使わないお話にします。

花さまもゆっくり時間かけて復活してね❤
今日は私も寝られたらいいなぁ。

2017/06/20 (Tue) 10:10 | EDIT | REPLY |   

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2017/06/22 (Thu) 00:33 | EDIT | REPLY |   

plumeria  

Re: タイトルなし

さとぴょん様、おはようございます。3

よく考えたら今まで、お師匠様なんて言ったことなかったのに唐突でしたね!
ちょっと自分でも笑えましたよ🎵

今からはお稽古もせずにラブラブするんですよ!
きっと!
で、さとぴょん様が許せない家元夫人が嫁になったとたん可愛がるんです。( ´∀`)多分。

これからは総二郎じゃなくて家元夫人が側にいる…
そう思ったら恐いですね❗

とにかく、無事に終わりました🎵
良かったです!皆様のおかげですよ~❗

いつも、ありがとうございます❤

2017/06/22 (Thu) 06:41 | EDIT | REPLY |   

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