Sister Complex (2)

ぼくが英徳の幼稚舎に行く頃には、つくしも毎日一緒に行くといって加代を困らせた。

「ダメだよ!つくしは幼稚舎に入ってないんだから行けないんだよ?お兄ちゃんが帰ってくるまでお利口にしててよ。
終わったらすぐに帰ってくるから。・・・わかった?」

「わかんなーいっ!!つくしも類と一緒に行くんだもん!」

「ダメなんだってば!もう・・・ぼくが行けなくなるじゃん・・・加代、休んじゃダメ?」

そう言うと困った顔して加代が言うんだ。

「ダメですよ。類様はちゃんと行かなければなりません。類様がご病気なら仕方ないですけど、ちゃんとした
理由がないのに休むことはいけません。つくし様はちゃんと加代とお待ちしてますから・・・」

毎朝がこの繰り返し。
結局つくしは加代に抱っこされて、泣きながら車の中のぼくに手を振るんだ。
つくしには内緒だけど、このあとぼくも毎日車で泣いたけどね。


つくしはぼくより元気で活発で、いつも屋敷中を走り回っていた。加代や他のお手伝いさんが追いかけるけど
つくしのすばしっこいのには誰も追いつけなくて・・・つくしは毎日泥だらけだった。


「いけませんよ!つくし様!女の子なんですから転んで怪我をして傷でもつくったら加代が旦那様と奥様に
叱られるんですよ?・・・もう少しおとなしくして下さいな!」

「怪我をしなかったら加代は怒られないんでしょ?だから、つくしは怪我しないもん!」

そう言ったその日に、つくしは庭の隅にある大きな木に登って・・・そこから落ちて大きなケガをした。
足に傷跡が残るほどのケガをして、病院で4針も縫ったんだ。
その時はぼくもつくしのそばに行って、痛いって泣くからまた一緒に泣いたっけ・・・。

病院に駆けつけたお母様がすごく泣いて、加代は何度もお母様に頭を下げていた。

「お母様・・・加代は悪くないのよ?つくしがダメだって言われたのに言うことを聞かなかったの。
だからね、つくしを叱ってもいいけど加代は叱らないで?・・・ごめんなさい!」

「つくし・・・加代はあなたのためを思って言ってくれているのよ?ちゃんと言う事を聞いてくれないと
お母様は安心して外国に行けないわ」

お母様はつくしを抱き締めてそう話していた。つくしもお母様の首にぶら下がって謝っていた。

「うん。お母様・・・本当にごめんなさい」


お母様は病院からすぐにフランスに行ってしまった。向こうで沢山やらないといけないことがあるって・・・
だから、病院からは加代とつくしと3人で帰った。
つくしはぼくがおんぶして・・・つくしも大きくなったから重たくて大変だったけど・・・

ぼくは男でお兄ちゃんで・・・つくしは妹だけど大事な宝物だから!


「お兄ちゃんも心配だよ。つくし・・・もうあんまりはしゃいで走ったりしたらダメだよ?女の子なんだから!」

加代の口まねでそう言うと、さっきまでお母様に良い子ぶってたのにまた怒り出した。

「どうして女の子はダメなの?類だったらいいの?男だから?そんなのズルいよ!」

つくしはぼくの背中を叩きながら暴れている。ほら!また加代に怒られるのに・・・。
それでも、この背中につくしのあったかい体が乗ってると思ったら何故か嬉しかったんだ。


*******


僕が小学生になって本当ならつくしは幼稚舎に行ける年になったんだけど入らなかった。
つくしはお父様とお母様の希望で小学校まではどこにも行かないらしい。その代わり自宅に家庭教師が
やってくるようになったんだ。

「ねぇ、類は学校楽しい?つくしはあと何年したら学校にいけるの?」

「つくしは僕の二つ下だからあと2年だよ。学校なんて面白くないよ・・・僕は家の方がいいな」

「そうなの?でもお友達いるんでしょ?つくしね、お友達誰もいないの。田村先生はもう大人だから
遊んでくれないし、類も学校に行くから、加代しか遊んでくれない・・・つまんないよ」

「つくしは僕がいたらそれでいいでしょ?お友達もそのうち出来るだろうけど・・・僕じゃだめなの?」

つくしが外の世界に出ることをお父様もお母様も嫌がってるんだ。
それはつくしがこの家の本当の子供じゃないから・・・何かが心配なんだ。
それは、この時の僕はわからなかったけど。

「つくしは類が一番大好き!つくしはね・・・大きくなったら類のお嫁さんになるんだもん!」

「いいよ!つくしは僕の一番の宝物だから、僕がずっと側にいてあげるね!」



そして2年後・・・つくしは英徳には入学しなかった。
少し離れたところにある私立の女子校に入ることになった。花沢物産の事を一切公表せずに。
僕と同じ学校に行けないことで初めて両親と喧嘩をしたけど、当然つくしの願いは叶えられなかった。

「どうしてなのかな・・・つくしは類と一緒の学校が良かったのに。同じ家に住んでるのになんでなの?」

「僕に聞かれてもわかんないよ。でも、いいじゃん!家に帰ったらいつも一緒だよ?学校が違うから
色んな事話せるし・・・つくしの学校のこと、僕にも教えてよ?」

いいんだ・・・英徳になんか来なくても。
面白くもなんともないんだから・・・他の学校の方がつくしにはきっと楽しいはずだよ?

思ったとおりつくしはその学校に慣れたら結構楽しくやっていた。
僕とは違って自由に友だちと遊んで、学校行事にも、遠足っていうのも参加して生き生きしていた。
この花沢の家に友だちを呼ぶことだけは禁止されていたけどね。



小学校の高学年になった頃、つくしは一通の手紙を男子生徒からもらったと俺に見せに来た。

「ねぇ。類・・・こういうのってどうしたらいいと思う?読んでお返事書くの?・・・何て書いたらいいんだろ・・・」

「つくしがもらったんだろ?俺には関係ないじゃん!・・・中には何て書いてあったのさ・・・」

「・・・んっとね。つくしのことが好きって書いてある・・・付き合って下さいって・・・」

まるで他人事のように言うけど、それってラブレターでしょ?小学生にくせに・・・生意気なんだから!
そしてそれをわざわざ俺に見せるわけ?

「で・・・どう返事するつもり?付き合うって意味分かってんの?」
「うん。だって彼氏になるんでしょ?私の友だちはみんな彼氏ぐらいいるよ?当たり前じゃん!」

思わずソファーから立ち上がってつくしの横に行った。そして目の前に座ってつくしの両肩を持った!

「じゃ・・・じゃあさ、この男と付き合いたいの?つくしは・・・!」

そう言ったらつくしはキョトンとした眼で俺を見て、急に笑い出した。

「そんなわけないでしょ?だって私には類がいるもん!確かに類はお兄ちゃんだけど、類以上の人が
現われない限り彼氏なんて出来ないと思うよ?そのぐらい類が好きだから!」


今度は俺の方がびっくりして・・・つくしの肩に置いた手を咄嗟に外した。
つくしの顔が見れなくなった。見たいけど・・・そんな事を言われたら真っ直ぐに見ることが出来ないよ!


俺は多分この時に・・・いや、もっと前から初恋っていうものをしてたんだ。気がつかない振りをしてただけ・・・。
妹だけど、妹じゃないつくしに・・・恋をしてるんだ。




そして何年も過ぎて、俺たちはお互いにその気持ちを封じたまま兄妹として成長した。
もうすぐ俺は英徳大学の2年になり、つくしは高校3年になる。

いまでもこの秘めた想いを抱えているのは俺だけだろうか。
そんな事を考えながら、眩しく成長したつくしを見つめていた。

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花より男子

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