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plumeria

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7月になり梅雨が明けた。
単位に問題のない類はもう卒業まで大学に行く必要もなく、日中の殆どをつくしが住むあきらのマンションで過ごしていた。

つい先日も聖司に呼び出され、秋から始まる類専用のプログラムに従い新人研修を受けるように言われたばかりだ。それが鬱陶しくて余計に顔を合わせたくない。
でも聖司にこのマンションを嗅ぎ付けられるのが嫌で、夜になると渋々自宅に戻っていた。


つくしは以前に比べ少し元気がなくなっていた。
仙道のことがまだ判っていない為に外に出て行くことを類に制限されているから・・・類もそれを感じていたが不安の方が大きかった。
元々太陽の下が似合う彼女に部屋の中で暮らすことを強要し、引き籠もり状態にしているのだから笑顔が消えても無理はない。

だからつくしが今抱えているアクセサリーの製作が終わったら二人で旅行に行こうと計画していた。
場所は南の海・・・知った人間が誰も居ない場所でのんびりしようと言えば少し遠慮したつくしだが、類がこの先忙しくなれば会えない日も出てくるかもしれない。
類にも息抜きが必要という事もあって、つくしはその提案に頷いた。

部屋に広げられている旅行雑誌・・・本当は海外が良かったがパスポートを使う事にも抵抗があった。
だから国内で、貸し切りに出来そうなぐらいの小さな島を探していた。



「出来た?今日のはそれだけ?」
「うん!前のが殆ど売れたって連絡があったの」

「そうなんだ?凄いね」
「買っていく子は高校生が多いらしいよ?子供っぽいのかな、私のアクセサリーって」

「カジュアルだからでしょ。でもきっとこの夏活躍するんじゃない?」
「・・・だといいなぁ~!彼氏に可愛いって言ってもらえたら嬉しいな♥」


つくしは新作を専用のケースに入れて大事そうに胸の前で抱え、類は車のキーを持った。

真夏のアクセサリーは大胆なデザインとカラフルな色使いが特徴。モチーフも海や太陽、向日葵などが多く、見ただけで元気が出そうなものばかりだ。
類が揃えてくれた材料の中には本物の宝石もあったから、それは少し大人デザインのシックなものに使った。



青山にあるあきらが紹介した店に納品に行くのはいつも類の車だった。
店に入るのもあきらの指示で裏口からで、表から入った事は1度も無い。従業員用の出入り口から店舗に入り、そこで自分のアクセサリーが並んでいるコーナーに行って自分でレイアウトする。
類はそれを少し奥から見ていて、つくしの世界を邪魔しないようにしていた。


「いらっしゃいませ~」

その声が聞こえると、つくしまでバイトのクセもあって「いらっしゃいませ~」と言ってしまい真っ赤になる。
今入って来たのはどう見ても10代の学生で3人組み・・・全員つくしより念入りに化粧をしている。その子達を見て「凄いなぁ・・・」と呟いたら、またすぐに自分の作業に入った。

その女の子達がすぐに向かってきたのはつくしのピアスコーナーだった。
その瞬間は初めてで、自分の作品が誰かに選ばれていくなど想像した事がなかった。


「うわっ!新作かな?」
「あーっ!これ可愛いっ!黄色ってないのかな・・・あっ、これも好き!」
「ねぇ、これ玲那ちゃんが付けてるピアスの色違いじゃない?」

「・・・・・・・・・・・・」


並べたばかりのピアスが全部で5個、自分の目の前からレジに持って行かれ、可愛らしい袋の中に包まれて彼女達の鞄に入っていった。

「ありがとうごました~!」と言う店員の声が聞こえて、つくしはハッとしてその子達を追い掛けた。
類が予想しなかった行動に驚いて後を追えば、楽しそうに帰って行く女の子達を見送るつくしの背中がドアの外に見えた。

片手が顔に向かった・・・きっと涙を拭ったのだろう。

いつまでも動かないつくしを迎えに行き、耳元で「良かったね」・・・そう言えばつくしが泣きながら「うん!」と笑った。


これがつくしの夢の1歩なのだ。
類はそれが自分の夢のように嬉しかった。




「少しコーナーを広げてみましょうか。牧野さんがそこまで作れるかどうかだけど」
「本当ですか?はい、頑張ります!」

「うん、それとね、金具を曲げる時、もう少し丁寧にしてみて?歪んでると学生であっても買わないわよ?」
「判りました、練習します。いつもありがとうございます!」

「だからさ、これとこれはディスカウントしようと思うの。それでもお小遣いの少ない子には嬉しいと思うわ」
「はい。お任せします」


帰る時に店長と打ち合わせをするのも慣れてきた。
やはりそこでも口出しをしない類は離れたところにあるソファーに座って出された珈琲を飲む・・・でも、耳はしっかりと二人の会話を聞いていた。

「それではまた再来週に」、と挨拶をすませてまた裏口から出る。
今日のつくしは今までで1番機嫌良く、いつもの5割増しの笑顔で裏口のドアを閉めた。




「真っ直ぐ帰る?それとも何処かに寄る?」
「ん~~~、1件行きたい所があるの。新宿のここなんだけど・・・」

車を出す前につくしが見せたスマホの画像で場所を確認し、それが人通りの多いところで少し眉を顰めた。
そこにはアクセサリーを作るために必要なものが売ってあるらしく、他では買えないものだと言われれば仕方がない。のんびり散歩するわけでもないからと、車を新宿に向けて発進させた。


目的地が近付いたが駐車場がなく、大通りから1つ中の通りに入って車を路肩に停めた。
路駐をするには目立ちすぎるし、つくしが行く店はまだ細い路地だ。類が悩んでいる間にも買い物は済みそうな気がしたつくしは1人で車を降りた。

「ここで待ってて?すぐに済むから」
「ほんと?大丈夫?」

「あはは!心配性だなぁ~、走ったらすぐだから問題ないよ。じゃあ、行ってくる!」

ニコッと笑って手を振り、すぐに向きを変えて人混みの中に消えて行った。
類はその背中を見送りながら、確かに心配し過ぎだと苦笑い・・・でも、心の奥底で常に何かに怯えているのも確かだった。



つくしの買い物はすぐに終わり、その店を飛び出した。
類が心配して待っている・・・それがつくしを焦らせ自然と小走りにさせる。そして通りの曲がり角でさえスピードを落とさなかったため、その角を曲がってすぐにつくしの目の前が真っ暗になった!

「きゃあぁっ!!」
「・・・・・・!」

ぶつかったのは背の高い男性、それはすぐに判った。
つくしは買ったものを足元に落とし、自分も蹌踉けてその場に尻餅をついた。でもぶつかった相手はその場に立ったままで声も出さない。

腰を摩りながら見上げると、逆光で顔がよく見えない・・・でも、その目は自分の知ってる目だと思った。


「・・・・・・あたたた、類、迎えに来てくれたの?・・・・・・あれ?」

「・・・・・・類?」


小さく出された声・・・それには聞き覚えがなかった。
よく見ると服装が類ではない。しかももっとよく顔を見ると、類によく似ているが類ではない・・・・・・凄く高圧的で恐ろしい目付きだった。
それに類であれば倒れたつくしをすぐに助け起こすはず・・・それなのに、この男はポケットに突っ込んだ手を出すこともなくつくしを見下ろしていた。


「あっ、ごめんなさい。人・・・違いです」
「・・・・・・・・・」

「よく前を見てなかったから・・・本当にすみませんでした!では・・・私はこれで」
「・・・・・・・・・」

なんて怖い目で人を見るのだろう・・・つくしはゾッとしながら荷物を抱えてその男の横を通り過ぎようとした。
その時、急に腕を掴まれてグイッと引き寄せられ、声を出す間もなくつくしとその男の顔が近付いた!

近くで見ればその瞳の色は類と同じだが見間違えなどはしない・・・でも、やはり類に似ている、とつくしは驚いた。他人の空似とはこういう事なのかと・・・これで服装が似ていれば瞬間本人だと思ってしまうだろう。
でも纏っている空気そのものが全然違う。

刃物を向けられたような鋭い視線に全身が硬直した。


「な、何するんですか・・・謝ったでしょ?」
「・・・・・・・・・」

「離してください・・・大声出しますよ?!」
「・・・・・・出したら類って男が来るのか?」

「えっ?」
「・・・はっ、まぁいいや・・・お前みたいな子供に用はねぇし」



掴まれていた腕を離され、つくしは再びその場で蹌踉けたが、グッと踏ん張って転けはしなかった。
それを鼻で笑って男は向きを変え、人混みの中に消えて行く・・・つくしは掴まれた腕を押さえながら不気味な男の後ろ姿を見ていた。






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