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小学校も中学校もつくしは英徳ではない普通の女子校に通った。
そして高校はやはり私立だが女子校に行って、花沢物産の名前は一切公表せずに一般家庭の子として通学した。
そこには両親の考えがあったようだけど、英徳に来ない方が良かった俺はあえてその話には触れなかった。

毎朝、校則の煩い学校に通うつくしは俺と違って早くに起きて支度をしている。

「もう!類ってば一体何時に家を出てるの?大学っていいわよね・・・自由でさ!
でも、高校の時から全然早くなかったよね?制服だって着て行かなかったし・・・それなのによく進学出来たよね?
うちなんか遅刻したらトイレ掃除10回やんないといけないのよ?10回よ?!信じられないわよっ!」

真っ黒な髪を二つに結んで、制服を整えながらパンを食べているつくし・・・
毎朝がこの調子で煩いってもんじゃない。


「つくし・・・文句言ってないで早くしなよ。その時間がもったいないんじゃない?車、待たせてんだろ?」
「うわっ!ホントだ!加代さん、カバン取ってー!あと、サンドイッチもー!」

「まぁっ!つくし様、またお行儀の悪い・・・!いい加減に立って食べるのはお止め下さい!」

加代の説教なんて全然聞いてないつくしは車までもの凄い勢いで走って行く。それが日課・・・。
今日は一度部屋を出たのにわざわざ戻ってきてコーヒーを飲んでた俺に大きな声で叫んだ。

「類っ、今日は早く帰ってね!明日は2年で最後の英語のテストなのよ!今回もトップを狙ってるから
家庭教師をお願いしたいの!寄り道しないで帰ってよ?!」

「もう・・・自分で勉強ぐらい出来るだろ?俺を頼らなくても問題ないくせに・・・」

「類がいつも退屈してるから私が用事を作ってあげてるのよ!それに、類の家庭教師が一番わかりやすいもの!
じゃあ、お願いねっ!行ってきまーすっ!」

「つくし様っ!遅刻ですよ!もう・・・何回言っても同じ事を・・・!」
「加代さん!そんなに怒ってると血圧が上がるわよーっ!」

つくしは加代をからかって、またカバンを振り回しながら家を出て行った。
車に着く直前に大胆に転けて、持っていたカバンの中身を盛大に飛ばしてる・・・相変わらずそそっかしい!
その後ろ姿をダイニングの窓から眺めて一人で笑っていた。


「全く・・・毎朝騒がしいよね。つくしは・・・。今日もあんなところで転けちゃって・・・」

「類様はのんびりしすぎなんですよ?来年からはしばらくご一緒に登校するようにと旦那様が
言われてましたから、もう少し早起きして下さいませ。」


*******


両親が今年の正月、帰国したときに言った言葉だった。


「つくしは春から英徳に編入させるからそのつもりでいなさい。類はつくしが慣れるまでのしばらくの間、
付き添って登校するように。いきなり変な男がつきまとっても困るからな」

「英徳に・・・ですか?高校卒業までは今のままでいいのではありませんか?」

「英徳にはこの花沢家の娘と公表して入るのだ。そろそろつくしにもこの家の娘としての自覚を持たせなくてはな。
公式の付き合いからは遠ざけてきたが、これからはそれなりの家の子息との付き合いをさせておかねばなるまい。
・・・この家の娘として嫁に出してやりたいからな」


いつかこんな話しが来るかもしれないとは思っていたけど、改めて言われるとショックだった。
確かに俺たちのような家の子供は早くから公の場所には連れて行かれる。

むしろつくしのように隠して育てるなんて普通はしない。
つくしは全然気が付いていないけど、それは両親が実の子ではないつくしのこの先の使い道を悩んだから。

特別養子縁組だから戸籍上実子になっている。
だが、俺たちのような社会の家は少しでも不安材料があれば徹底的に調べてくる。

あえて公表するなら問題はないが血縁を重視する相手の場合、養子では繋がりが薄いと思われる。
つくしの場合は捨てられていたのだから両親の素性がわからない・・・それも問題だろうから。
両親はすごく悩んだはず・・・つくしは可愛いけどそれよりもこの家のためになるかどうかを。
このまま実子として嫁がせるか、もし離縁するならそれなりの理由まで揃えるつもりなんだろう・・・

結論は実子として嫁がせる・・・もう17年も前のことを探られることはないと踏んだんだろう。

それに何より、つくしが随分と美しく成長したから。
今のつくしならどんな相手でも見劣りせずに嫁がせることが出来る・・・そう思ったんだろうな。


「類・・・今年のあなたのバースディパーティーでつくしのお披露目もするわ。ちゃんと社交界にデビューさせて
うちの娘として公表するわね。今までこんな席に出したことがないから・・・その日はつくしのエスコートを頼むわ」

「わかりました・・・」

とうとう来てしまったんだ。
つくしをこの家の娘として、いずれはどこかの企業の息子と結婚させる・・・社交界デビューとはそういうものだ。
それをよりによって俺のバースディパーティーでするんだ・・・。


つくしにも同じような話しをしている。
素直に頷いてはいるけど、多分何もわかってはいない。

「つくし、これからはあなたも花沢の一員として色んな方とのお付き合いも始まるわ。
類に教えてもらいながら、少しずつ慣れていってちょうだいね」

「はい。お母様」


そんなに笑って答えないで・・・つくしを守っていくのはこの俺1人で良かったのに・・・!
つくしは俺の宝物・・・幼いときからの想いは今でも変わっていないのに・・・。


*******


食事の後片付けをしている加代に話しかけた。

「ねぇ・・・加代。つくしは英徳に行ったら変わってしまうのかな。あそこは世間で言うほど綺麗なところじゃないよ。
つくしはそんなのに染まらないかな・・・」

つくしの乗った車が花沢の門を出ていく・・・。
きっとあの中でサンドイッチを食べてるんだろうな・・・この春からの事なんて気にせずに。

「つくし様はそんな方ではありませんよ。むしろ、戦ってしまいそうで加代は心配です。類様が大学ではなくて
同じ高等部ならよろしかったですけど・・・旦那様がお決めになったのですもの。仕方ないですわ」

「そうだね・・・確かに誰かと戦いそうだね」


誰かと何かと戦うなら、俺はつくしを全身で守るよ。
出来れば兄としてではなく・・・1人の男としてつくしを守りたい。

この願いを叶えられる日が来ればいいのに・・・そんな事を思いながら俺は次の春を待っていた。


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