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plumeria

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翌日、類は1人で都内の高級住宅街に来ていた。

ここはあきらから聞いた旧姓、森田博美の現在の住まいがあるところだ。
結婚した相手はかなりの資産家なのか、付近の邸宅よりも一回り大きな屋敷でガレージには外車が停まっている。
この時間にあるのだからこれが博美が使用する車だとしたらやはり贅沢な暮らしぶりなのだろう。

その家の前に車を停め、大きな門の前に立った。


ここまで接触を長引かせたのは質問の内容に戸惑ったからだったが、松島の目撃情報などがあったために迷ってはいられなくなった。
それに聖司がつくしの事を知った以上、鳴海以外でも動きがあるかもしれない。
身動きを封じられても恐れはしないが、出来るなら早く自由になりたい・・・その気持ちが類を焦らせるようになった。

出した指が1度インターホンの前で止まる・・・でも、大きく肩で息をした後、それを押した。


『はい、どちら様でしょう?』

落ち着いた優しい声・・・この声がどう変わるのかと思うとドキドキする。。


「突然お訪ねして申し訳ありません、私は花沢と申します。少し聞きたいことがあります・・・お時間をいただけませんか?」

『・・・花沢・・・さん?』


その少し間の開いた返事・・・そこに記憶の片鱗を見た気がした。
彼女は「花沢」と言う名前を覚えている、そう思えた。

とは言え「花沢物産」というネームブランドで知っているだけかもしれない。
どちらにしても早くこの扉が開かないかと待っていた。でもインターホンから返ってきた声は初めに聞いたものと違い、明らかに拒絶を表していた。


『花沢さんと言う方に知り合いはおりません。お話しすることはありませんのでお帰り下さい』

「まだ何も聞いていません。私の話を聞いていただけませんか?静岡の山本産婦人科診療所の事です」

『・・・・・・どうしてそれを?いえ、やはり何もお話しは出来ません。あ、あの病院の事は忘れましたから・・・』


インターホンの声が小さくなった。
切ろうとしている、そう感じた瞬間、類はインターホンに顔を近づけて声を大きくした。


「お願いします、どうしても知りたいことがあるんです!自分の事を今では誰も教えてくれません!あの病院で俺を産んでくれた母も10年前に亡くなりました。お願いします!どんな事でもいい、知りたいんです!」
『やめて!ご近所に聞こえます・・・お願い、やめてください。今、開けますから・・・』


少しやり過ぎたか、と辺りを見たが誰もいない。
でもこれで博美と話が出来る。どんな手を使ってでも1度は会わなくてはと思っていたから内心ホッとした。



ガチャとドアが開き、出てきたのは上品な服装の女性。
静岡で聞いた通り、50歳前後と思われる容姿でふくよかな人・・・家に居るのにきちんとアクセサリーも付けていて、とてもあの田舎出身だとは思えないほどだ。

その女性が玄関から出てきて門を開けた。
そして左右を1度確認してから類に「どうぞ」と小さな声で話し掛けた。
類が入るとさっさと門を閉めて足早に玄関の中に入る、その行動に違和感を覚えたが、類は然程急がず彼女の後について玄関の中に入った。


「困るわ・・・あなたみたいな人が訪ねて来て、大声出したのが誰かに聞かれたら変な噂になるんですよ?」
「・・・はい?」

「そうじゃないって言っても1度噂になったら中々判っていただけないの。ここ、そう言う話が好きな街なんですよ」
「あぁ、そう言う事ですか」


今になって博美の言葉の意味が判った。
所謂昼間から繰り広げられる不貞行為・・・自分がその浮気相手と思われると言う事か、と。馬鹿馬鹿しいと思ったが博美は真剣そのもので、カーテンを閉める前にも外の様子を窺っていた。

こう言ってはなんだが、そんな歳ではあるまいに・・・でもその言葉は絶対に出せない。
念の為博美とは距離を取ったままリビングの入り口に立っていた。


「もう部屋の中だからいいですよ。どうぞ、お座りになって」
「はい、失礼致します」



動揺した表情の博美はキッチンに向かい、暫くしたら珈琲の香りがしてきた。
それをマイセンの珈琲カップに注ぎ、類の前に差し出した。

部屋を見回すような下品な振る舞いはしないが、目に入って来る部分だけでもかなり豪華な調度品に囲まれたリビング・・・革張りのソファーも高級なものだとすぐに判る。
でもこの暮らしぶりを尋ねようとも思わない・・・ただ21年前の事だけが知りたかった。


「それで・・・あの病院の何が知りたいんですか?院長先生の事ならもう知りませんよ」
「・・・・・・?山本さんの事ではありません。あなたは先ほど花沢と言う名前に反応されたようですが、私が産まれた時の事を覚えていますか?」

「え?あぁ・・・そっちのこと?」
「そっちとは?」

「いいえ、何でもありません、ごめんなさい!えっと・・・あなたが生まれた時の事?そんなのもう随分前でしょう?覚えていませんよ、そんなの」

「嵐の夜に緊急で入ったはずです。山本産婦人科の患者ではなかった花沢ですが」
「覚えていません。これまで何人もの出産に立ち会ってきたんですよ?それを全部覚えるなんて無理ですもの」


今の博美の返事は何処か謎めいたものを感じた。
山本医師の事は「もう知らない」、その言い回しと「そっちのこと」・・・それに最後の質問には悩む時間さえなかった。
普通なら考え込むか、思い出そうとするなら質問してくるはず・・・それをせずにすぐに覚えてないと言った事が酷く不自然に思えた。

そして目も合わせようとしない。
それならば、と火事の話に切り替えた。


「どうして今頃調べてるの?あれも20年前なんですよ?」
「すみません。私が自分の生きていく場所を探すために必要なんです」

「あなたの・・・場所?」

「えぇ、どうしても自分の出生に不明な部分があるんです。それを確かめないと前に進めない・・・子供の時からそれを感じて来ました。だから今、それを調べていてあなたに辿り着きました。何か嫌な過去を思い出させているのなら申し訳ないと思います。
でも何でもいい・・・覚えていたら教えてください」

「・・・そう言われても・・・」

「あなたは火事があった時、旅行の発案者でありながら急用で行けなかったと聞きました。その急用はお聞きしませんが、火事が発生してからあなたが病院の中から出てきたのが目撃されていますよね?
そして泣き崩れていたと・・・あなたは燃え盛る火の中から何を持ち出そうとしたのですか?」


博美は片手で自分の腕をギュッと掴み、眉間に皺を寄せた。
小刻みに震えている唇に指先・・・ゴクリと喉が動いたのも見えた。
類は真っ直ぐに博美を見つめ、その唇が真実を語るのを待った。でも、暫く俯いていた博美が深呼吸と共に顔をあげ、キッと睨みつけるように類を見た。

それは真実か拒否か・・・類にも緊張が走った。


「自分の職場が燃えたのよ?誰だって驚くし慌てるわ。
それに持ち出そうとしたのは病院のものじゃなくて私の私物・・・ロッカーにその時付き合っていた人からの頂き物があったの。だからどうしても取り出したくて飛び込んだけど、炎の勢いが凄くてロッカーまでいけなかった・・・だから泣いてたの。
贈ってくれた彼に申し訳なくてね・・・それだけよ」

「そうですか・・・」

「もうお帰りいただけるかしら。悪いけど時間をかけずにさっさと車を移動させてくださいね。私、お見送りなどいたしませんから」



おそらくこの説明の中に真実はないのだろうが、この状態で何を話しても無駄だと感じた。
だからひと言礼を言って立ち上がり、玄関に向かった。


「もし、何か思い出したら連絡していただけますか?」
「だから何も知りませんって!」

「あぁ、それともう一つ。数年前に亡くなった松島良子さんの事ですが・・・」


「えっ・・・亡くなった?」
「・・・・・・ご存じなのですか?」






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