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plumeria

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松島良子の名前を聞いて博美の表情が変わった。
それは彼女を知っていると言う証拠でもあり、類は出ようとして開けかけていた扉を再び閉めた。

博美は驚いたまま類から視線を外し、自分の口元を手で覆った。でもその時に何故か安堵の表情も浮かべたように感じ、博美の変化を逃すまいと類の目が光った。


確かに口元が少し緩み、見ようによっては笑ったように感じる。
人の死をそのように表すのは憎しみか怯えからの解放か・・・そのどちらかしかない。


「ご存じなのですか?」
「え?・・・い、いえ・・・知らないわ」

「知らない人なのが亡くなったことでそんなに驚きます?」
「別に驚いてなんかないわ。あなたが急に変な事を言うからでしょう?今までその人の名前も出してないのに・・・兎に角、そんな名前に心当たりはありません。さぁ、帰って!」

「判りました。でもお伝えしておきますね・・・私の知り合いには警察よりも頼りになる情報屋がいます。出来るならそこを頼らずに調べたかったのですが、お話しいただけないのなら他の手段で調べます」

「・・・・・・・・・」

「ご迷惑はかけませんからご心配なく。私の目的は自分の出生に関する事実が知りたいだけで、その為に誰かを陥れることなど考えていません。たとえ事実が自分にとってどんなに辛い事でも受け入れる覚悟で調べています。では、失礼します」


この暮らしを守る為ならそのうち連絡してくる・・・そこに望みをかけて類は博美の自宅を後にした。
車に乗り込んでからバックミラーで確認すると、彼女の方が小窓から覗き見ているのが映った。その行動を見ても彼女は山本産婦人科診療所の火事、そして松島良子に関係しているという事が判る。


そして21年前の3月30日にも・・・。





その頃つくしはやっと類のネックレスの製作に取り掛かっていた。
絶対に失敗出来ないと思い、何度もデザインや形を考えているうちに時間だけが経ってしまい内心焦っていた。


綺麗に仕上げるのなら底がある型に流し込んで「海盛り」と呼ばれる波をイメージしたものを作ればいいのだが、それだと類のイメージと合わないような気がしていた。
もっと海の中を漂う感じにしたい・・・そうなると雫型にして枠などを作らない方法もある。

だたしそっちの方が失敗しやすいというリスクがある・・・が、ヒメルリガイはひとつしか無い。


悩みに悩んで、結局少し大きめになるが枠がない雫型で作ることに決めた。


「よし・・・頑張る!」

気合いを入れて道具を準備し、モールドと呼ばれる雫の型を目の前に2つ並べた。


まずはレジンの色つけから。
透明のレジン液にパステルを削って色を付けるのだが、グラデーションを付けるために濃いめの青と薄めの青、そしてエメラルドグリーンを少しだけ。
3色作った液を濃い色から流し込んでグラデーションを付け、1つにはヒメルリガイと星の砂を沈めた。
そこにほんの少しだけクラッシュホログラムを入れて輝きを持たせ、もう一つには白い波模様を作る為に白レジンを少しだけ垂らす。
白レジンを少し広げて次に透明レジンを幾つかポトッと落とすと、白レジンがその縁に寄って波模様が出来る・・・海のイメージの出来上がりだ。


「はぁっ・・・緊張する!でもどうかしら・・・・・・綺麗かな?」

半分ずつ作ったものを硬化させたらモールドから取り外し、今度はその2つを真ん中でピッタリ合わせレジン液で固める。
くっついたらヤスリで形を整えるのだが、何しろ「類のネックレス」・・・そう思うだけで息をするのも忘れて磨いていた。

形が整い、ブルーの海の中にヒメルリガイが浮かんでいる・・・まずまずの出来だ。


「落ち着け・・・落ち着け・・・・・・ここから失敗したらそれこそ海の藻屑だわ!」

今度はそれにネックレスの金具を取り付けて、それがすんだらいよいよ仕上げのコーティング。
透明のレジン液をたっぷり塗った後で筆で綺麗に伸ばしていき、最後は日光で硬化させた。窓際で陽の光を浴びて輝くそれは自分で言うのもなんだがとても美しかった。


これまでに作ったどれよりも綺麗・・・両手で頬杖をついて、下からそれを眺めてはニヤニヤと笑った。


雫型の下の部分は類が好きだと言ったデルフト・ブルー、上の方はエメラルドグリーン。その間に白い波模様とヒメルリガイ・・・類は気に入ってくれるだろうかと、その雫を軽く突きながら帰りを待っていた。


「ふぁ・・・眠くなっちゃった。疲れたぁ・・・類、まだかなぁ・・・」

張り切りすぎて力尽き、つくしはテーブルの上を片付ける前に転た寝を始めた。
本当はちゃんと箱に入れて青いリボンを掛けて渡そうと用意までしていたのに、完全に硬化させる時間はかなり掛かる。それを待ちきれずに机に伏せると、すぐに夢の中に行ってしまった。

類の胸の上で光るネックレス・・・その背景は鮮やかな海、そんな夢を見ていた。




「・・・ただいま」

どのぐらいの時間が経ったのか、もう日が傾いて空の青が薄らいできた頃に類がマンションに戻ってきた。

でもいつもなら出迎えてくれるつくしが来ない。
それにいつもなら何かしら食事の匂いがするのに今日は何も匂わない。どうしたのかとリビングに急いでみると、つくしがテーブルに伏せてスヤスヤと寝ていた。

少しだけ鼻をつく匂いはレジン。
この匂いのせいで必ずアクセサリーは作業部屋で作っていたはず・・・不思議に思って覗き込むと、そこには初めて見る雫型のネックレスがあって、それが柔らかくなった日差しに当たってキラキラと光っていた。


「・・・まさか、これ・・・」


少し触れてみると、それは完全に乾いていたから手に持ってみた。

・・・中央にあるのはヒメルリガイだ。
その周りに星の砂・・・ちゃんと波模様があって、態と残した気泡がまるで貝が呼吸しているように見えた。


「・・・すごい・・・・・・出来てる」


「・・・・・・・・・ん?」
「牧野、作ってくれたんだね。これ・・・」

「あっ!類、帰って来たんだ・・・って、あああーっ!!」
「どうしたの?」


類の手の中にはヒメルリガイのネックレス・・・つくしの前にはプレゼント用の小箱。

呆然とするつくしが可愛らしくて、類はネックレスを持ったままつくしを抱き締めた。
疲れて寝てしまう程夢中になったんだろう・・・そう思うと抱き締めてる手に力が入る。それでつくしが「痛いよ~」と叫んでも類の耳には届かない。


「ありがとう・・・牧野。凄く嬉しい・・・」
「・・・えへへ!頑張ったでしょ?気に入った?」


「・・・最高!」





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