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plumeria

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その日の類は朝から不機嫌だった。
誰とも目を合わさずに食事さえ摂らない。部屋には誰も寄せ付けず、ただ時間が来るのをベッドに寝転んで待っていた。

早く終わってしまえばいい・・・そう思うのは鳴海春菜との食事だ。
それが今日の午後6時からで、場所はMホテルの展望レストランの特別席。
如何にも食後をそのホテルで、と想像させるようなセッティングにウンザリしながら、ソファーの上には滅多に着ないスーツまで出していた。

そんなものに目もくれず、類はつくしが作ってくれたネックレスを陽に当てて眺めていた。


確かにつくしのアクセサリーは何処か子供っぽくてカジュアル・・・だから類には可愛いとは思うが惹き付けられることはなかった。勿論男性だから興味としては薄い。つくしが身に付けているものはドキッとするが、ただ並べられている「商品」にははっきり言えばそこまでの感動はなかった。
どちらかと言うと作っている最中のつくしが楽しそうで、それは見ていて飽きないし、これがつくしの夢ならば全力で応援したという気持ちに嘘はない。

でもこれは違う・・・本当に美しく仕上がっている。
類が好きだと言った色に近づける為に苦労したんだろう・・・そのグラデーションも見事だった。

レジンアクセサリーなのだから高級感などは無い。それでも類にはどんな宝石よりもこの「小さな海の世界」が綺麗に見えた。


いつかこのネックレスを着けて自分の好きな道を歩けたら・・・類はそれを机の引き出しの中、自分の母子手帳と一緒に並べた。
懐かしい母の字の思い出と共に、この先の夢を実現させる宝物として。



そうしているうちに時間は過ぎ、自宅を出る時間になった。
なんの為の正装かと思いながら身仕度を整え、自分で選んだ訳でも無いプレゼントの袋に目をやった。
実物などは見ずに執事に任せたそれはイニシャル入りの万年筆・・・パソコンの時代に、と首を傾げられるだろうが、そのぐらいで丁度いいとばかりにそれを持った。

アルコールが入るから自分では運転しない。玄関まで行くと既に車が待機していた。



「・・・逃げなかったのだな、類」

聖司の声が自分の背中側から聞こえ、類は足を止めた。
逃げても良かったのならそうしたのに・・・と、小さく呟いたのは聖司の耳には届かない。


「もう1度伝えておくが鳴海の令嬢とのことは真面目に考えておけ。悪い話では無い。少なくともあの娘よりは花沢の為になる」
「俺ももう1度お話しておきますが、今日はあくまでご命令による食事です。俺の気持ちは変わりませんよ」

「いつまでも子供のような事を言うな。恋愛感情と結婚は別、そんな事は判りきっているだろう」
「・・・それでは母さんとのことは?そこに恋愛感情が無かったのですか?」

「私達の結婚は決められたものだったが不思議と恋愛感情が同時に生まれたのだよ。その方が珍しいと言っていいだろう」



「それに満足でしたか?」
「・・・なに?」

「いえ、何でもありません。では行ってきます」


満足しなかったから「良子」の存在があるんじゃないのか・・・類は亜弓以外の女性に触れたのかもしれない聖司の事が許せなかった。
あれだけ美しく優しかった母に何の不満があったのか、しかも事実なら妊娠中だ。
亜弓が知っていたとしたらどれだけ苦しんだだろう・・・それを思うと自分の胸が締め付けられるようだった。

もしかしたら自分がその苦しみそのものかもしれないのだから。




約束の時間、10分前に展望レストランに着いた。
すると既に春菜は来ていると告げられ、そのテーブルに案内された。

無感情のまま歩く足・・・その1歩に何の喜びも感じる事なく進み、見えてきたのは可愛らしいドレスの女性だ。
大事に育てられたと思わせる淑やかさと上品さを存分に見せつけ、マナー教本から抜け出したかと思うほど綺麗にお辞儀をして類を迎えた。

胸辺りまで伸ばした髪は柔らかいカールを描き、身に付けているアクセサリーは小粒だが高級なもの。グラデーションの掛かったネイルの先にはラインストーンが光り、艶やかな唇はふっくらと愛らしい。
美人と言うよりは可愛らしい女性だった。


「お待たせしたのですね?申し訳ありません」
「いえ、私の方が少し早すぎたのです。類様にお会い出来ると聞いて嬉しくて・・・あっ、はしたない事を申し上げました。ごめんなさい・・・」

「いえ。本日はお誕生日、おめでとうございます」
「ありがとうございます・・・嬉しいですわ」


本当はここでさっさとプレゼントを渡して帰りたい所だが、そういうものを渡すのは食後と決まっている。重くさえ感じる小さなプレゼントを内ポケットに入れたまま、類は席についた。
すぐに運ばれて来た食前酒・・・この先長い時間を掛けてのフレンチのフルコースが始まった。

差し障りのない会話が春菜から出され、類はそれに極簡単な返事をするだけで自分からは何も聞かない。そんな男だと言うことぐらい知っている春菜は少なめの返事にも苛立ちは見せず、寧ろそれを悟られないように必死だった。

それでも少しは自分を見て欲しい、そう思うのは女性として当然のこと。
しかも今日は自分の誕生日なのだから、少しぐらい笑顔を向けてくれてもいいのではないか・・・食事が進むにつれ、ソワソワと落ち着かなくなった。


「あの、類様・・・」
「何でしょう?」

「いつもそんなに静かでいらっしゃるの?もっとお話しを聞かせてきただきたいわ。類様の好きなこととか、好きなものとか・・・将来はどう考えていらっしゃるの?やはりフランスに行かれるのかしら。わたくしね、フランス語の勉強もしておりますのよ?」

「・・・女性は好きなものの話が好きですね。でも私の好きなものを聞いてもあなたは驚くだけですよ。そして夢はその好きなものに囲まれて暮らすこと・・・かな」

「・・・は?」
「ね?判らないでしょう?それにフランスに私の夢はありません」


その時、初めて類が笑った。
頭の中には真っ青な海を背景につくしが笑っているから。
そして観察船で沖に向かい、そこで沢山のイルカに出会いたい・・・そこには水族館のルイもいる。勿論総てが想像であり、実現するかどうかなど今の類には判らない。

その時に自分の名前が「花沢類」であるかどうかも判らない・・・それでも思い描くと微笑んでしまう。その微笑みが対面に座っている春菜の熱を上げてしまうことも忘れてしまう程に。



食事が終わり、最後のデザートになったら漸くプレゼントの出番だ。
類はポケットからそれを取りだし、もう1度祝いの言葉を添えて春菜に差し出した。
春菜はそれが自分の欲しかったものではないとすぐに判り、一瞬躊躇った。でも、すぐに満面の笑顔に戻ってそれを手に取った。


「ありがとうございます、類様」
「いえ、使っていただけたら嬉しいです。そろそろ帰りましょうか、遅くなりましたね」

「・・・・・・え?」
「なにか?あぁ、迎えが来るのですか?それでしたらロビーまでで宜しいですか?」



ここで春菜の顔色が変わった。
食事をしてそのままこのホテルで・・・そう思っていたのは自分だけだと。

類もそれぐらいの事は気が付いているが、だからと言って甘い言葉も愛想笑いも出来ない。不器用もプラスして完全に彼女を怒らせた、それを感じたが不味いとも思わなかった。
今日は命令に従っただけの食事、それだけで他に意味など無い。食事が終われば自分の時間であって、それを春菜に使うつもりはなかった。


「・・・私はもう少し場所を変えて飲みます。類様、お付き合いくださる?」
「いえ、私はこれで」

「そう・・・お帰りになるのね?私を置いて」
「何かを期待しておられたのなら申し訳ないけど、ここに来たのはあなたのご希望によるディナーの相手、それだけです」


「・・・もう結構です。類様のお気持ちは判りました。どうぞお帰りになって」

「素敵な1年を・・・では、失礼します」



テーブルに飾られた一輪の薔薇・・・それを見つめる春菜には申し訳ないと思ったが、今度はヤケに足取りが軽い。


早く帰ってつくしに会いたい・・・その思いが類の足を速めた。





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