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plumeria

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それから2日間、なんの手掛かりもなく時間だけが過ぎた。
美作の情報部がずっと空港で監視しているがつくしが来た様子はなく、北海道にある東京と繋がる4つの空港にも監視員を配置させたが目撃情報はない。

車種の特定が出来ないためにNシステムは使えない。
それでも高速道路のパーキングエリアにも人を配置し、万が一車で移動した時のために備えた。
それをマンションのパソコンであきらが情報を集め、総二郎と類はイライラしながら報告内容を聞くしかなかった。


「・・・くそっ!」
「総二郎、お前がイラつくな」

「・・・いや、考えたんだ。どうして仙道って男がここを知ったのか・・・もしかしたら俺が原因かと思ってさ」
「総二郎が?どうして?」

「誠二郎に会った時・・・もしかしたらその近くに仙道が居たんじゃねぇかな。
俺達が殴り合いとかしたから出てこなかっただけで、そこら辺に居たとしたら・・・俺、類と電話で牧野の事を言ったよな?」


類もハッと顔を上げ、総二郎と話した内容を思い出した。


『牧野は?元気か?』
『ん、元気してる。マンションの近くの公園で開かれたフリーマーケットでアクセサリー売ってたよ』

『へぇ!今日、あきらのマンションの近くでそんな事してたのか?フリマねぇ、牧野らしいや!あいつの事だから必死に売ったんじゃねぇの?』
『いつも閉じ籠もってるからね。今日は楽しかったみたい』



誠二郎が仙道の指示で暴れていると考えれば、その行動の後に2人が落ち合うのは当然だ。
おそらく金を受け取るはず・・・そのために必ず待ち合わせていただろう。でも総二郎が現れたせいで姿を隠していたとしたら・・・
総二郎はそれしか考えられないと言って、自分の軽率な発言を後悔していた。


「それが真実だとしても最終的に許したのは俺だから。ずっと部屋に居るから可哀想に思ったんだけど、そんな事を言ってる場合じゃなかったんだ。フリマが原因なら俺のせいだ」
「・・・悪い、俺も言葉にしなかったら良かったんだ」

「それを今考えても牧野は帰ってこないだろう。それよりも牧野を自由にするには仙道の事を解決しないとダメじゃないか?」

「仙道のこと?」

「執着するには理由がある。それが愛情なら話は別だが、そうじゃなくて度が過ぎるマザコンだろ?そいつを止めさせないと繰り返すだけだ」
「確かにそうだな・・・流石、あきら!」


マザーコンプレックス・・・子供が母親に固執し、成人になっても支配されている状態を指す。
それは特に精神的な部分での固執が高く、母親の意見や指示がないと何もできない状態もあるが、仙道の場合は何よりも母親を優先する状態だ。
彼女や妻よりも母親を大切し、何事も母親の意見を優先するタイプと言える。

聞いてもいないのに母親の自慢話をして、自分の中心には常に母親がいる。それ故にどれだけ素晴らしいかを周りの人に認めてもらいたいのだ。


「出会った頃の牧野は仙道に逆らわずに、言う事をなんでも聞いてたんだと思う。母親が好きなものを好きになれって言われてたらしいから」

「なんだ、そりゃ!牧野らしくねぇな・・・」
「類から離れるためなんじゃないか?他の誰かを好きになれば俺達から遠離れる、そう思ったんだよ」

「ん・・・そんな風に言ってた。司との事があったから怖かったって」

「そっか・・・でもクソバカだな!」
「総二郎、お前が怒るな」

「母親を神格化してるんだよ。どうにかしてそれを崩せれば、仙道が目を覚ますってこと?」


理想が崩れればそこに向かう気力はなくなる。
しかし仙道の母親の事など類達は何も知らない。

それならば、と北海道に滞在している情報部員に命じて仙道の両親の調査をさせる事にした。
何か綻びが出てくるかもしれない・・・あきらが彼等に命じている言葉を聞きながら、類は椅子に深く埋もれ膝を抱えた。


ー今何処に居る?牧野・・・必ず助けに行くから待っててー







鳴海商事前・・・ここにスーツ姿の誠二郎が立っていた。

そのスーツは仙道のもので、ネクタイなど締めたことがない誠二郎は息苦しくて仕方がない。
何度も指で緩めながら目の前のビルを睨んでいた。


『この会社に行ってひと芝居打つのが最後の仕事だ』


そう言って呼び出されたのは2日前。
いつものように繁華街の雑踏に紛れ込んで今日の計画を聞いた。


『鳴海商事という会社に行け。
そこで花沢類だと名乗って社長令嬢の春菜を拒否する言葉を出してこい。その時の言葉はお前が普段使う言葉でいい。出来るだけ社員が多く、人に聞こえるように話せ。
そして俺はもうお前に会うことはない。これが最後の金だ』


掴まされた金は100万円、それに今着ているスーツ一式・・・先払いで貰った上にもう会わないと言われたのだ。
面倒臭い事はしたくなかったが、別の考えが浮かんでここまで足を向けた。


あの日に見た会社など欲しくは無い。
でも遊ぶ金は欲しい。しかも働かずして手に入れられる方法はないのかと考えた時に、類と自分の出生を持ち出して強請ろうと思った。その為には騒ぎを起こして本人が接触してくるのを待てばいい。

新しい金蔓を手にした気分で誠二郎は鳴海商事のロビーに入った。


スーツを着ているだけで警備員は誠二郎を止めることなく通過させ、それでも雰囲気が企業人でない彼を社員達は訝しげに見ている。類がまだ学生であるために一般社員には知られてないと言う事もあって、入って来た男が誰なのかは気付かれない。

ズボンのポケットに手を突っ込んだまま受付を素通りしようとした誠二郎に、そこに居た案内係が当然の役目として声を掛けた。


「あの、お客様。どちらにご用でしょうか。担当部署にアポイントメントは取られていますか?」
「・・・・・・は?」

「大変失礼ですが、どちら様でしょうか。当社の担当者がお判りでしたら確認致しますので教えていただけますか?」
「・・・担当?そんなもん、ねぇけど?」

「はい?」


受付の女性がポカンとした顔で固まり、辺りがザワッとした。
近くを歩いている社員が足を止め、数人が誠二郎に視線を向ける。それを感じた誠二郎は仙道の言葉通り、いきなりここで大声を張り上げた。


「俺の名前は花沢類、そう言えば判るか?!
ここの小娘に付き纏われて迷惑してるから文句言いに来たんだよ!誰でもいいからこの会社の娘に伝えとけ!お前なんか相手にしねぇから2度と俺の目の前に現れるな!他にいくらでもイイ女がいるんだから引っ込んでろってな!
・・・用件ははそれだけだ」


その声はロビー全体に響き、叫び終わった時にはシーンと静まり返った。

やがて聞こえて来たのは警備員の足音だったが、受付の女性が「花沢様です!」と言えば取り押さえることも出来ない。
それを見て誠二郎は踵を返してエントランスに向かい、さっさと鳴海商事から離れた。


スーツの上着を脱ぎ、ネクタイを外し、太々しい顔でオフィス街を歩く。
その姿は誰もが振り返るほどその場に似付かわしくなく、誠二郎は唾を吐き捨て自分の居場所に帰っていった。




この「類」の奇行はすぐに花沢物産の聖司の耳に入り、鳴海商事との共同事業である「メキシコ湾海底資源発掘プロジェクト」が中止されるという大問題となった。





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