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plumeria

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執事からの連絡を受け、類は自宅に戻っていた。
その時に荒々しく開けられた玄関のドア、そしてすぐに屋敷中に響いた聖司の声は使用人達を震えさせた。


「類!!類は何処だ!」
「お、お帰りなさいませ、旦那様!類様は・・・」

「戻って来ているのか!いいから類を私の部屋に連れて来い!」
「畏まりました!」


それは部屋に居ても聞こえるほどで、執事が慌てふためいて類の部屋をノックする前にドアを開けた。そして震える声で聖司の部屋に行くように伝え、類は黙ってそれに従った。
何かあったとすれば誠二郎が動いた、それしか考えられない。

そしてもう聖司にも総てを話さなくてはならない・・・思ったよりも類は落ち着いていた。

ノックをしたが返事はない。
仕方なくドアを開け、逆光の為に聖司のシルエットだけを類の目が捉えた。


「父さん、お呼びだと・・・」
「入れ!!」

「・・・失礼します」


こんなにも余裕のない聖司は初めてだった。
厳しい人間だが言葉を途中で遮るような事はなかったのに・・・と、ドアを閉めた瞬間、類の目の前には額に青筋を張った聖司の顔があった。
驚いて立ち竦んだ時には襟元を掴まれ、すぐ横の壁に押し当てられた!

そのような行動も初めてで、類も自分の首を締めている聖司の手首を掴んだ。
年齢的に類の方が力はあるはずだが、この時の聖司の怒りは相当なものだった。どれだけ引き離そうとしても聖司の力は強くなるばかりで、体格が同じくらいの類を少し持ち上げたほどだ。


「何をするんです!くっ・・・!父さん、離せ・・・っ!」
「どう言うつもりなのだ、類!お前・・・どれだけ花沢物産の・・・私の顔に泥を塗るつもりだ!」

「だからなんの事かと聞いてるんです!」
「何の話だと?鳴海に出向いて何を言ったのか、忘れたのか!」

「・・・鳴海?」
「この大馬鹿者!!」


今度はそのまま床に投げ倒され、類の身体がすぐ傍のテーブルにぶつかった!
その物音で執事が飛び込んで来たが「出ていけ!」のひと言ですぐに追い出し、背中を打ち付けた類は暫くその場に踞った。
だが聖司の手は緩まない。すぐに類を掴み上げ、再び首を締め上げた。


「・・・・・・つっ!」
「私があのプロジェクトを成功させるためにどれだけ苦労したと思うのだ!まだ何も判っちゃいないお前がどうしてそれを打ち砕こうとする?類・・・お前は花沢を潰す気か!!」

「・・・父さんが何を言ってるのかさっぱりだ・・・俺は鳴海になんか出向いてない!」
「なんだと?!この期に及んでまだシラを切るのか!」

「それは俺じゃない!!」
「類、まだ言うか!」

「どうして父さんが信じないんだ!俺は何もしていない!疑うのなら調べたらいい・・・なにか起きたと言うなら、それは俺じゃなくて松島誠二郎だ!」


その名前を聞いて聖司が手を離した。
類は聖司の手を軽く払い除け、咳き込みながら父から離れた。

先ほどまでの怒りに満ちた顔ではなくて、目を見開き口は開けたまま・・・狼狽えた聖司の顔も類には初めてだ。
いつも他人と壁を作り決して弱みを見せない聖司。その震えた口元は「松島誠二郎」と言う名前に心当たりがあると言う事・・・以前この名前を口にした時に思った事は事実だったのだ。


「・・・・・・・・・」
「ご存じなんでしょう?この名前・・・ゴホッ、それよりも何があったのか教えていただけますか?」

「・・・お前じゃない?本当にお前じゃないのか・・・」
「話してもらえれば俺は自分のアリバイを証明出来ますよ。何があったんです?」

「お前が・・・鳴海商事に出向いて社長の令嬢を侮辱したと・・・2度と付き纏うなと怒鳴って帰ったと聞いたのだ。それで鳴海社長が怒って今回の共同プロジェクトを中止すると言って来た。
それはもう凄い剣幕で捲し立てられ、私は何が何だか判らなかったんだ。でも鳴海の社員に聞けば、確かにその男は花沢類と名乗り、受付で醜態を晒したと・・・もう向こうではその話で春菜さんが泣き崩れて大変だと聞いたのだ!」

「いつですか?」

「昨日の夕方だ・・・今朝1番に報告を受けて、それで・・・」

「それならあきらと総二郎と一緒でしたよ。この場で聞いて下さい、証言してくれると思います。もう3日間、俺はあきら達と同じ場所に居ましたから。
それより、話があります。その松島誠二郎について・・・です」


まだ呆然としている聖司に座るように促し、類も聖司の対面の椅子に腰掛けた。
両手を震わせたまま両足の上で拳を作り、何処を見ているのか判らない目・・・何度もゴクリと喉を鳴らし、額に浮かんだ汗を拭き取る。

まるで何かの事件の犯人の取り調べのよう・・・そんな聖司に類は静かに話し始めた。



「父さん、松島誠二郎を知ってますよね?いえ、正確には誠二郎の母親・・・良子さん知っていますね?」
「・・・どうしてそれを?!いや、そんな女性は・・・」

「隠しても無駄ですよ。黙って父さんの過去を調べた事は謝ります」
「私の過去を調べた?何故だ!」

「俺がこの家に居ることが正しいのかどうかを知りたかったからです。花沢の後継者と言われる人間なのか・・・それにずっと違和感を持っていました」

「・・・・・・お前、そんな事を考えていたのか?何故だ・・・何故そんな事を思ったんだ?」


「根拠なんて何もありません。ただ、そう思うだけ・・・自分の中にその意識が芽生えたのはまだ子供の頃でしたよ。
母さんが亡くなってから特にそれを感じるようになりました。本当に母さんの子供なのか、実は違うんじゃないのか・・・俺はこの家の子供ではないのではと思って生きてました。
それを調べる勇気がなくてこれまで暮らして来ましたが、もう限界だったんです。父さんには申し訳ないけど、俺は花沢物産に魅力というものを感じなかった。自分が企業人になる気がしない・・・それを考えると気が狂いそうになるほど憂鬱でした」


聖司の驚きは言うまでもない。
誠二郎の名前を聞いた時とは違うショックが聖司の中にあった。

震えていた身体は逆に硬直し、類から視線を外した。


類はこの後、これまでに調べた内容を伝えた。
聖司と良子の関係と、亜弓と同時期に妊娠が判った事、良子の失踪と由美子と博美の行動・・・そして3月30日に起きた出来事。その時に聖司が博美と交わした会話についても話した。

それは聖司にも忘れられない事だったのだろう。類の話が終わる頃には両手で顔を覆い、表情を見せなかった。


「・・・これがあの日の出来事です。父さん・・・俺はあなたの息子に間違いはないけど母さんの子供ではありませんでした。この家を継ぐべきは松島誠二郎、彼なんですよ」

「・・・そんな馬鹿な!そんな事・・・そんな・・・!」

「嘘ではありません。それが事実です。
今、ここに居るべきは彼だったんです。本当なら彼がちゃんとした教育を受け、経済学を学び、花沢を継がなくてはならなかったんです。それを幾つもの偶然と何人もの人間がすり替えたんですよ」

「違う!!この家を継ぐのはお前だ・・・お前は亜弓の産んだ子だ!」

「すり替えを認めた人が居ます。直接話を聞きますか?」


聖司は小さく首を振った。
各国の大企業家と取引をする男には到底見えないほどに小さく丸めた身体・・・いつものように人を見下したような態度の聖司に嫌悪感を持っていたものの、目の前の父にはそんなプライドは微塵も感じられない。

認めたくないのは判るが、これは過去の過ちの結果だ・・・同情は出来ない。


「では、その乱暴者が企業人に相応しい男だとでも言うのか!ろくに学びもせず人を傷付け、夜な夜な店で暴れるような男がこの花沢の!」
「でもあなたの息子です。あなたの妻が産んだのは彼です。俺は・・・あなたが捨てた女性の子供です」



類の表情は穏やかだった。
やっとこの言葉を聖司にぶつけられた・・・新しい自分に生まれ変わる第一歩だと思えた。





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