Sister Complex (10)

部屋に戻るなり俺の手から離れて、つくしはその場に伏せて泣きだした。
せっかく選んだドレスが汚れてしまうのに・・・そんな事はもう関係なかったのかのしれない。

「どうしよう!お父様達に怒られるわ・・・!せっかくの類のお誕生日なのにその会場であんなことを・・・
類のお友達を引っぱたいてしまうなんて・・・!」

「別にいいよ。司も悪いんだし・・・父さん達が何か言ってきたら俺が説明するから・・・」

確かにあんな席で女の子が男性を引っぱたいたのは見たことはない。
しかも、あの道明寺家の人間に手を上げたのはつくしが初めてかもしれないけどね。

「でも・・・私にも初めてのパーティーだったのに印象が台無しだわ」

「自分がしたんでしょ?次から呼ばれないからラッキーじゃん。つくしだって面倒くさいってさっき言ってただろ?
もう泣き止みな・・・眼が腫れるよ?」

「お父様はもう私をこんな席には出さないかしら・・・あんな騒ぎを起こしたから?お母様からもやっぱりすごく怒られる?
・・・どうしてあんな事しちゃったんだろう・・・」

それは俺のためでしょ?・・・自分の事より許せないって言ってくれたのをちゃんと聞いてたよ。

それに・・・このくらいのことで娘を公の場から消してしまうようなことはない。
むしろ強烈な印象を植え付けてしまったかもしれない・・・それが良い結果を生むかもしれないと考えるんだ。
そして道明寺を引っぱたいたせいで、他の企業の経営者達は自分に可能性が出てきたと喜ぶんじゃない?

この世界の大人が考えることなんてみんな同じだよ・・・。


「どうしても許せなかったのよ・・・類のことを何考えてるかわかんないなんて言い方して!
私のことはいいのよ・・・何て言われても!でも類の悪口は誰が言っても許せないの・・・」

そんなに顔を赤くして怒らなくてもいいのに・・・それって実の兄でもそんな気持ちになるの?
それともつくしのなかで俺は兄を通り越した存在なんだろうか・・・聞きたくても聞けない質問だったけどね。

せっかく作った桜色のドレス・・・それをぐちゃぐちゃにして部屋のソファーに座っている。
もうそんなに皺をつくったら会場に戻ることも出来ない。
つくしは下を向いたまま動かなくなったから、また横に行ってその肩に手を置こうとした時だった。


部屋をノックしたのは加代・・・俺の方を厳しい目で見ていた。

「類様・・・つくし様のイメージにも繋がりますから、ここはお召し替えをしてもう一度会場に戻りますわ。
その時もエスコートして下さいませ・・・それではつくし様、着替えに行きましょう」

「いいわよ、加代さん。私はもう今日はあそこには戻らない・・・戻りたくないわ」

「そういう訳にはいかないのですよ。これは旦那様からのご命令です。さあ、もう準備は出来てますからね。
これ以上時間をかけるわけにはいきませんわ」

加代は嫌がるつくしを強引に部屋に連れて行った。
すぐにまたパーティーには連れて行かれる・・・そう思ったけどまさか今日のパーティーでもう一度出されるなんて。


「可哀想に・・・そこまでしてつくしを利用したいの?もう・・・いいのに」


ウンザリだった。また、あいつらの前につくしを連れて行くなんて。
それでも俺しかつくしを守ってやれないんだから仕方がないんだけどね。
大きなため息と共につくしのドレスとお揃いだったチーフを外してテーブルの上に投げた。


*******


次につくしが着たドレスはブルーのフォーマルドレス。
さっきと随分印象を変えてきた。今度のはホルターネックで背中の開きも前のとは比べものにならない。
こんなに大人っぽくしなくてもいいのに。
サファイヤのネックレスがまるでそこだけ妖しく光ってるように見える。
まだ高校生のつくしにはどう考えても似合わないドレス・・・人形のように扱われるのが可哀想で仕方なかった。


「類・・・さっきはごめんなさい。私・・・あの人に謝るわ」

「いいんだよ、そんな事しなくても。招待された司だって人の家であんな態度とったんだから・・・。
周りだってちゃんとわかってくれてるよ。そんな事より、今日の主役は俺なんだけどね・・・忘れてたでしょ?」

「あ!ホントだ・・・一瞬忘れてたよ。私じゃなかったんだった!」


ぷっ・・・一瞬でも自分だって思ってたの?変なつくし。
あんたのお披露目は俺のバースディパーティーのついでだったんだよ?
二人で笑ったら少し気分が変わったのか、つくしはまた俺の腕に手を添えて会場に戻った。

遠くで少し険しい顔をした母さんが見ているけど、つくしはもうさっきの事なんて忘れたかのように
明るい笑顔で色んな人と挨拶を交わしている。
今度は俺から離れないようにしっかりと横に付き添って・・・俺は背中に当てた手からつくしの体温を感じてる。
この背中を他の男に見せているかと思うだけでものすごく嫌なんだけど・・・そう思うと余計にこの手が外せなかった。


「類君は随分と妹さん思いなんだね。こんなに美しいと心配なのかね?」

どこかの経営者がそんな事を聞いてくる。よく見たら後ろには俺と年の近そうな息子がつくしを見ていた。
自然とそいつを睨んでしまったのかもしれない・・・その息子は俺から視線を外した。

「えぇ。とても大事な妹ですから心配の種は多いんです。・・・妹にはいつも笑っていて欲しいと思ってるんですよ」

そう・・・笑顔にするのはこの俺だけどね。
こんな男達につくしは絶対に触れさせない・・・両親の思惑には反するだろうけど。
この親子がどう思っても構わない・・・つくしを見る眼がただの男の眼だと思われても構わなかった。


*******

<side司>

「司・・・つくしちゃん戻ってきたぜ?どうする・・・会いに行くか?」

「ほっとけ!あきらはイチイチうるせぇんだよ!なんで俺があんな女に自分から会いに行かなきゃなんねーんだ?
あんな女・・・二度と話すか!」

口ではそう言っても俺の眼には類の向こうにいるあの女が映っている。
何でだ?・・・初めて見たときから妙に気になって・・・さっきも別に絡みたくもねぇのに絡んでしまった。
類の妹だから?・・・あいつがずっと大事に隠してきた妹だからか?

いや、そんなんじゃねぇ・・・あの女の何かが引っ掛かるんだ。

「司も悪かったんだから、ここはお前の方から謝ってみたらどうだ?・・・類の誕生日だぜ?」

「関係ねぇ・・・。この俺を張り倒したんだ!・・・総二郎も余計なこと言ってんじゃねぇよ!」


この気持ちがどうであれ、あの女は許さねぇからな!
この後もガタガタと二人が煩かったが、それでも俺には類とあの女しか見えてなかった。

誰の言葉ももう耳には入らない。この会場の中であの二人だけに色が付いてるみてぇだ・・・。


それにしても類の態度が気に入らねぇ・・・。
まるで男の眼であの女を見ている類が何故か許せなかった・・・!

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