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plumeria

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「父さん、俺の母さんのことを教えていただけませんか。
これまで調べた限りでは、恐ろしい計画を立てた人・・・そんなイメージしか無いんです。せめて違う部分を知りたいんです」

「・・・・・・良子のことを?良子には会ってないのか?」


類は聖司の言葉でハッとした。
聖司はかつての恋人の死すら知らないのだと。

それは聖司が良子を忘れるために総てを断ち切ったのか、それとも良子が聖司に持っていたほどの愛情が無いために気に掛からなかったのか・・・いずれにせよ、事実は伝えなくてはならない。
「数年前に亡くなりました」と言葉に出すと、聖司は再び両手で顔を覆った。


泣いているのかどうかは判らない。
噎ぶような声も聞こえない・・・ただ暫くその体勢のまま動くことはなかった。


懺悔でもしているかのよう・・・類はつくしの事もあり気が焦るのだが、捜索は今も二人がしてくれている。今は聖司と向き合おうと、父が落ち着くのを待った。
そして数分後、聖司は顔を上げで逆に類に良子が亡くなった時の事を尋ねた。


「あの人は・・・何処でどうして暮らしていたのだ?知っているなら教えてくれないか」

「・・・出産後は元々住み慣れた伊豆に戻って誠二郎と暮らしていたようです。花沢に勤務していた時の蓄えは総てあの計画で使ったために、生活は苦しかったみたいですね。
だから昼も夜も働いて、その結果身体を壊して職場で倒れたのが誠二郎が高校の時です。そのまま一人で逝ってしまったようで、妹の由美子さんもその事を随分後で知ったそうですから」

「・・・一人で・・・・・・たった一人でか」

「はい。誠二郎は駆け付けることもなかったみたいです。そんなだから地元では親不孝で有名だったんですね・・・俺に怒鳴った老人もそう言ってましたから」


聖司の目が赤くなるのを類は冷めた気分で見ていた。

亜弓が亡くなった時、聖司は事務的だったような気がしたからだ。
「泣き顔を見せてはならない」・・・葬儀の最中、もうこれで亜弓の顔を見るのは最後だというのに泣かなかった。そのせいで類も泣けなかった。
冷たくなっていてもいいから最後に触れたかった母の顔・・・それに手が伸びなかったのだ。

それなのに今日は泣くのか・・・・・・亜弓が可哀想な気がして聖司から視線を外した。


その後、聖司は低い声で遠い日の話を始めた。
まだ自分が花沢に入社して間がない頃・・・専務という肩書きに押し潰されそうになり、毎日その苦しみを誰にも言えない時期があった、そんな内容からだった。



~聖司・回想~


ー今年の受付には凄い美人がいるー

そんな社員達の噂は聖司の耳にも入った。
だが一般社員のように浮かれて見に行くようなことは出来ないし、そんなに興味もない。
どうせ自分には選ばれた誰かが来る・・・その人が花沢にとって有益かどうかは父である社長が決めて、最終的に結婚相手として自分のところに来るのだろう、そう考えていた。

だから恋など無用・・・学生の時から女性に言い寄られても総て無視して来た。


そんなある日、自分の関わった商談が上手く纏まらず、気分転換にと一人で昼食を食べに出掛けた。
秘書の同行を認めず、兎に角一人になりたかった。この商談が失敗すれば、また父に「それでも後継者か!」と叱責される・・・それが鬱陶しくて社内に居たくなかった。

食事を済ませて社に戻った時、前を見ていなかった社員が聖司にぶつかり、そこで一揉め起きた。
ムシャクシャしていた聖司が声を荒げて受付前で社員を怒鳴り、辺りは急にシーンとなる。社長の息子である専務に怒鳴られた社員は平謝りで、それでも聖司の気が治まらなかった。
殴るつもりなどなかったが、ついその社員の胸ぐらを掴み上げた時、それを横から止めた女性・・・それが良子だった。

不意に自分の腕に触れた細い手・・・聖司は驚いて社員の襟元を離した。


『専務、場所を考えて下さいませ。ここにはお客様も沢山いらっしゃいますわ』
『・・・五月蠅いな。君は受付だろう?自分の持ち場で大人しく仕事をしたらどうだ』

『受付ですからこの場を守るのも私の仕事です。案内だけではございませんわ。花沢物産をお訪ねになった方が1番始めに受ける印象、それを大事にしております。
本日、この瞬間に初めて来た方が驚かれるようなことは、たとえ専務であっても見逃せませんわ』
『・・・な、なんだと!生意気な・・・・・・まぁ、いい!』

『ご納得いただけました?でもひと言申し上げますけど、専務も余所見をしておいででしたわ』
『・・・・・・ふんっ!』



これが二人の出会いだった。
この時の事はすぐに秘書室に伝わり、その数ヶ月後には良子が秘書室に異動となった。
気難しい聖司を宥めたことが評価されたのか、女性秘書の方が気持ちが安らぐと考えられたのかは判らないが、異例とも思える速さで役員秘書となり、専務付きの一人となった。


聖司は自分に意見した良子のことが忘れられなくなっていた。
それ故に良子が役員秘書になった時、二人の距離はすぐに縮まった。

お互いに自分の身の上を話し、好きな事、好きなものを話し、その話題が尽きることはない。
あの受付での一件も今ではすっかり笑い話だった。
良子も元々は控えめな性格だったが、自分が少しばかり虐めに遭っていたという過去もあって、弱い立場の人を見ると放っておけないのだと言った。


『あの時はその・・・少しイラッとしてて・・・いつもはあんな風じゃないんだ!』
『うふふ、判ってますよ。執務室以外のお顔は優しいですから、あの時だけなんでしょうね』

『執務室ではそんなに酷い顔?』
『はい。苦虫を噛み潰したようなお顔ですわ』

『・・・君がいつも一緒だとそんな事無い気がするんだけど・・・』
『専務・・・?』







「・・・良子は派手でもなく押しつけがましくもなく、いつも冷静で頭も良かった。
特別な気分を抱いたのは私が先だったが、良子は初めのうち拒否し続けたよ。立場が違いすぎるって言ってね・・・そんな辛い恋はしたくないと言っていた。
でも、1年ぐらいして・・・そういう関係になった。寧ろ恋人になった後の方が良子は淋しそうな顔ばかりで私も戸惑った。
いつまで続けられるだろうかと・・・そればかりが頭を過ぎってね」


類が聞く母の話・・・その話からは子供をすり替えると言う恐ろしい計画を練る人物には感じられなかった。
正義感があり、仕事熱心で真っ直ぐ前を向いていた女性、そんなイメージだ。

それなのにどうしてここまで変わってしまったのか・・・それが「恋心」というものなのだろうか。


確かにつくしの為ならなんでもしたいと思う。
今は裏切られる等と考えはしないが、もしも自分達の間に裏切りが生まれたらどうなるのだろう・・・その時には一緒に地獄に墜ちても構わないという気持ちなら判る気がする。

ただ、相手だけを地獄に突き落とそうとは思わない。
そこは母と違うのだな・・・と、冷静に考えた。


「母を花沢に迎えようとは1度も思わなかったのですか?」

「思った事は何度もある。でも良子が絶対に嫌だと言ったんだ。こんな家には似合わないからと・・・それだけは勘弁してくれと言われて無理を言えなかった。だが私の跡取りが必要なのは当然で、出された縁談が滝川家の亜弓だった」

「・・・母さんの第一印象は?」

「美しい人だと思った。それは良子とは違う魅力だった。
華やかで品があって、会話も上手で隣にいてドキドキするのは初めてだったな・・・それは自分の中では都合よく良子と区別出来る感情だった・・・」



花沢にウンザリして安らぎを求めたのが良子。
花沢の為に迎え入れても良いと思ったのが亜弓。
でもそのどちらにも生まれた恋心・・・一人に絞れなかったというよりは、それぞれ違う世界で恋をしたのだと聖司は言った。


類はそんな器用な男ではない。
違う世界など要らない・・・自分の中には1つの世界しかなく、そこに恋人はつくしだけだ。





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