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聖司と亜弓の結婚は類が産まれる4年前だった。
その披露宴の招待客には会社関係者として役員を始め、役員秘書までが含まれた。

当然、専務付き秘書の良子は出席・・・しかも祝わなくてはならない。
その頃2人の事は社内でも噂になっていただけに、ここで良子が喜ぶ事でこの疑いを晴らさなくてはならなかった。だから必死で笑顔を作り、拍手を送った。
それを目の端で捉えながら隣にいる美しい亜弓と微笑み合い、リクエストに応じてキスまで披露・・・泣いてはならぬと我慢していた良子が会場を出ていくのも気が付いていた。


「随分な仕打ちですね」
「そうしたかった訳じゃない。私は秘書の招待など反対したのにお爺様がお決めになったのだよ。その頃は今よりも派手な事をする時代でね・・・兎に角人を多く見せねばと考えたのだろう」

「母だけでも何かの都合で欠席にすれば良かったでしょう?」
「勿論初めはそのように上司に伝えたようだが、専務の慶事を無視する秘書など以ての外だと言われたようだ。その頃は私も良子と二人で会うことも出来なかったから、悩んでいたことの相談にも乗れなくてな」


母の目には亜弓の幸せそうな笑顔がどれ程辛かっただろう。
会場を出て1人きりになり、何処かで噎び泣く母の背中を想像して胸が痛んだ。



~聖司・回想~



結婚による様々な行事が終わった頃、社内でも祝いムードが落ち着けば極普通の毎日・・・そして終止符が打てなかった関係はその後も続き、亜弓の知らないところで不貞の愛は密かに育っていった。

だが元々恋愛に関して上手が出来ない聖司のこと・・・そこは女性の方が勘は鋭い。夫の行動に違和感を覚えるようになった亜弓は、聖司に何も言わずに自分で調べ始めた。
社員達の噂や聖司のスケジュールから良子を見つけたのは結婚後1年目・・・だが、いきなり夫を責めるような事はしなかった。そのぐらいの事で、という亜弓のプライドもある。
ただの火遊びなら知らん顔をしてやろう・・・初めのうちはそうだったが、2度の流産を経験した頃から焦りが出始めた。

聖司に何も言わずに突然花沢本社を訪ね、秘書室に顔を出すのもこの頃からだった。


『どうしたんだ?亜弓、本社に来るなんて言わなかったじゃないか』
『あら。私が顔を出すと困ることでもあるんですの?』

『何を馬鹿な事を・・・でも秘書達に君が来ることを告げてなかったら驚くだろう?』
『・・・秘書?どなたの事かしら』

『はぁ・・・困った人だね。もしかしてあの噂を信じてるのか?』
『噂で終われば宜しいですけど』




そうして暫くした頃、亜弓が3度目の妊娠した。
今度こそ大事にしなくては、と花沢家が慎重になる中、聖司には別の問題が起きていた。
あれだけ慎重になっていたはずの良子の妊娠・・・しかも亜弓より少し早くに判っていた。

流産を経験している亜弓だが、今回は体調が良さそうだった。
聖司も漸く我が子の誕生を喜べる予感があったが、それは同時にもう1人の我が子については辛い決断をしなくてはならないという事だった。
この屋敷以外で育つ子供がいるのは不味い・・・聖司は心を鬼にした。



名古屋への出張を利用して近くの水族館で良子と2人になり、そこで聖司は残酷な言葉を出した。


『悪かったな、気分が優れないだろうに付き添わせて』
『いえ、大丈夫よ。それよりもまだ目立たないけど他の出席者の人にはバレなかったかしら?それが心配だわ』

『・・・あぁ、大丈夫だろう』
『そう?ふふっ、悪阻もそんなに酷くないわ。ご心配、ありがとう・・・聖司さん』

『・・・良子、今日ここに来たのは他でもない。その子の事で話があるんだ』
『この子の事?』

『病院は極秘に準備する・・・悪いが、そこで手術を受けてくれないか』
『・・・え・・・なんて言ったの?』

『申し訳ない・・・産んでもらう訳にはいかないんだ。判ってほしい、良子』



良子はその日、その場所から姿を消した。
走ることですら恐ろしかったろうに、聖司から逃げるように水族館を飛び出し、聖司は何故かそれを追うことが出来なかった。





「何故追わなかったのですか?もっと話し合えば良かったのに」

「・・・・・・お前を前にして言うのは申し訳ないが、良子が無茶をして強制的ではなく自然に・・・そうなることを望んだのかもしれんな」

「・・・・・・・・・」
「いや、よく判らない・・・自分でもその時、何故足が動かなかったのか・・・」


結局良子はそのまま行方不明となり、社に報告されたのは「宿泊先から無断でいなくなった」とだけ。
本人不在のまま退職手続きが取られ、その異様な行動は暫く噂になった。

そして花沢家にも不審な事が度々起きるようになり、聖司は良子が東京に潜伏しているのだと思った。


「亜弓とは直接良子の話などしたことはないのに、不思議な電話が掛かってきただの妙な領収書が届いただのと少し揉めてしまってな・・・それで東京に居ては気鬱になるからと静岡に戻ったんだ。
私はこのまま東京にいて欲しかったが、丁度フランスでも新事業が始まって暫く滞在することになったから、それを機にお互い落ち着けば良いかと思って許したのだ」

「それが母の妹の仕業とも思わずに・・・」

「妹がいたのは知っていた。元々松島という名前であることも、義父の家が富士市だと言う事もな・・・」



話は山本産婦人科診療所に移り、そこで亜弓が産んだ子供を見に行った時の衝撃的な再会に変わった。案内してくれたのは由美子だが、ここが義理の姉妹だったとは聖司も知るわけがない。

この時には早く我が子に会いたくて、他の事など何も考えていなかった。
待望の男子・・・自分の後継者になるのだから無理もない。これで花沢も安泰だとホッとしていた。


「新生児室にカーテンが掛かってて、そこには母親以外入ってはいけないと言われた。
そのカーテンの隙間から女性が見えて、その人にカーテンを開けてくれるようにと廊下から頼んだんだ・・・そうしたら」

「佐藤良子・・・母がいたんですね?」

「あぁ。本当に驚いた・・・そのまま心臓が止まるかと思うぐらい驚いた。
名古屋で別れたきりだったし、本当に産むのかどうかも聞いていなかった。それなのにどうして静岡のあの病院で・・・あんな田舎の病院で産んだのかと信じられなかった」


その時良子が世話していたのが亜弓の産んだ子・・・松島誠二郎だ。

そこに入院している間、聖司と良子は会っていない。
あえて病室も聞かなかったし、新生児室への出入りは母親だけ・・・その時にはカーテンが掛けられていることが多くて、何度か足を運んだが出会うことはなかった。

看護師に名前を聞いても教えてはもらえない。
産まれた時の事を聞けば機嫌を悪くされる・・・聖司は1日も早く亜弓を連れて東京に戻ろうと思った。


ここに居てはいけない・・・かつての恋人の笑顔はゾッとするほど恐ろしかった。


「退院する時、良子は子供を抱いて窓から私を見ていたんだ。それは嬉しそうに・・・私はその顔が恐ろしくて振り向くことも出来なかった。
もしかしたら、彼女が抱いている子供は亜弓の産んだ子供じゃないのか・・・そう感じたのも事実だが、病院の説明では無理だと思った。だから全部忘れようと・・・良子には悪いが、私の息子はお前だけだと思う事にしたんだ」


窓から差し込む日差しが聖司の窶れた顔を照らした。
そこに浮かんだ涙は誰に・・・何に対しての涙だろう。


類は父の後悔を見た気がした。






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