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plumeria

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類達が誠二郎と会っている頃、つくしはフェリーの中に居た。
こんな状況なのに仙道が予約したのはオーシャンビューのプレミアムルーム。とは言え所詮船の中だから置かれているベッドは凄く近い。
そんな所で寝られるはずもなく、つくしはアパート同様窓際の椅子に座って膝を抱えていた。

仙道はそんなつくしを見ても何も言わない。
ここでも無理に求めるようなことは無く、やはり愛情など彼にも無いのだとつくしは感じていた。


「どうせ船の中から逃げられないんだ。星でも見たければ行って来るがいい。展望ラウンジがあるから」
「・・・・・・星?」

「俺と行くか?」
「・・・1人で行く」


何故そんなに自信あり気に笑うのか・・・つくしはムッとしながら仙道の横をすり抜け部屋を出た。

別に星が見たい訳では無いが同じ部屋には居たくない。
自分だけでなく、類に攻撃を仕掛けた張本人は仙道なのだから当然のこと・・・もっと力があれば自分が倒したいぐらい憎かった。


展望ラウンジに行くつもりがフラフラと歩いてしまい、広い船内で迷子になった。
でも慌てることもない。仙道の言う通りこの船からは逃げられない、そう思うと当てもなく適当に歩いても不安にはならなかった。むしろこのまま行方不明になれたらいいのに・・・と考えたぐらいだ。

その時目の前に見えたのは小型犬・・・つくしはその茶色の犬に目が行った。
人懐こい犬なのだろう、つくしの側まで来ると擦り寄ってきて大きな愛くるしい目を向けてきた。その犬の毛色・・・類の髪の毛の色にに似ていて、つくしも手が伸びた。
一緒に居る飼い主は小学生ぐらいの男の子だ。


「可愛いねぇ、君の犬?」
「うん!シェットランド・シープドッグだよ」

「そう!名前はなんて言うの?」
「こいつの名前はルイ!」

「・・・えっ?」
「ルイって言うの。お姉ちゃん、犬好きなの?」

「・・・うん!大好きなの」


イルカだけではなく、ここにもルイが居る・・・つくしは思わずシェットランド・シープドッグを抱き締めた。ルイは飼い主でもないつくしに抵抗もせず大人しく抱かれていて、その男の子と一緒に犬も遊べるスペースに行くことにした。
床を歩かせれば良いものを降ろすことが出来ず胸に抱き抱え、男の子も人見知りもせずにつくしに色々話し掛ける。これまで緊張の連続だったつくしにはホッとする時間だった。

つくしの頬をルイが舐めて、擽ったくて首を竦める。
真横に類が居るような気がして涙が出そうになる・・・ほんの少し流れたそれをルイの背中で拭き取った。


「君は北海道に帰るの?それとも遊びに行くの?」
「帰るの。東京に住んでる伯父ちゃんのお葬式だったからパパたちと行ってたんだけど、それが終わったから」

「そうなんだ・・・だからワンちゃんも?」
「うん。ルイね、1人にすると大泣きするの。さみしがり屋だし、僕じゃないとダメなんだ」

「・・・そう、君じゃないとダメなのね」
「うん!他の誰も僕の代わりは出来ないんだよ」


その時に男の子の母親が帰ってこない子供を探してやってきた。
心配していたのか少し怖い顔だ・・・つくしは慌てて事情を話し、自分から遊んで欲しいと頼んだ事にした。母親は困ったように笑って許してくれたが、ここでルイとはお別れだ。
男の子に抱かれたルイがずっとつくしの方を見ているのを、類と重ねて見てしまう・・・廊下を曲がって見えなくなると、その場に踞って泣いてしまった。


類を1人にしてしまった・・・彼があの部屋で泣いているような気がして心が痛い。


一頻り泣いたら立ち上がり、今度こそ展望ラウンジに向かった。
星空など目には映らないが、ここ以外何処にも行けない・・・つくしは結局夜が明けるまでそこで目を閉じていた。





あきらの指示で美作の車が新宿に到着した。
黒のワンボックスで後部座席は外から見えないようにしてある。

この車なら物騒な物を出していても問題は無いとばかりにあきらはそれを手に持ったまま・・・誠二郎に向けている訳ではないが、いつでも構えられるようにしていた。
誠二郎の隣には総二郎が座り、類は少し離れたところに座って執事に電話を入れた。

聖司が自宅に戻っているかどうかの確認・・・結果は不在だった。


『旦那様は本日お戻りになれないそうです。例の件で鳴海様ともお話しされているのですが、同時にフランスでもトラブルが起きまして、今は本社で対応に当たっておいでだそうです』
「そう・・・話せそうにない感じ?」

『本日はお止めになった方が宜しいかと思います』
「判った、明日にする」

『類様、本日はこちらにお戻りで?』
「いや、今日はあきらの家に行くから心配しなくていい」

『畏まりました』


電話が終わるとあきらはすぐに運転手に自宅に戻るように指示、今夜は美作邸の一室に誠二郎を置くことにした。


その車が美作邸に着くと、誠二郎の顔色が変わった。
華やかな洋館だからと言うだけではない。夜だったが庭園灯で庭の花々が見えるし、窓から漏れる灯りは温かそうで、車が着くとすぐに開けられたドアから女性が出て来た。

その人が手を振って迎えてくれている・・・そんな味わったことがない生温い感覚にゾクッとした。


この男にとって自宅と呼べるものは狭く暗く、決して温かい場所ではなかった。
今も自分の部屋と言うよりは誰かの部屋を転々としているようなもので、自分名義で部屋を持ったことはない。良子と暮らしていた伊豆の家も古くて冷たいものだった。


帰っても母が出迎えてくれたことはない。
温かい食事など殆ど食べた事がない・・・良子は時間帯に関係なく働きに出ていたからだ。
参観日など1度も来なかかったし、悪戯をして保護者として呼び出された時にだけ慌てて学校に現れた。

そして帰れば無言。叱ってくれることさえ無かった。
母は自分には関心が無いのだ・・・そう思うようになったのは中学に入る前。


そんな誠二郎にはこの光景が別世界のように思えた。


「お帰りなさい、あきら君。お友達連れて来たんだって?」
「お袋、出迎えはいいから入ってろって!」

「あら、珍しい~!君じゃない?随分大きくなったわ~」
「・・・こんばんは、おばさん。久しぶりです」

「総二郎君も一緒なのね?あら、そちらが新しいお友達?」
「おばさん、相変わらず元気だね~!今日は邪魔するね」


再び誠二郎の顔色が変わった。
これが母親・・・あまりにも自分の母とは違い、明るく人懐こい夢子に面食らって足が止まる。
逆に夢子は鋭い顔の誠二郎を見ても臆すことなく近付いて、ジッと顔を見上げた。

途端、誠二郎がビクッとして一歩下がり、それを見た3人が夢子ではなく誠二郎に驚いた。こんな反応をするとは思えなかったから・・・誰を見ても無感情な男なのだろうと思っていたからだ。


「あなた!もしかしてお風呂に入ってないでしょ?」
「・・・あぁ?!」

「少し汗臭いわ、すぐにお風呂に入りなさい!そんなに汚れてちゃダメよ?男性だって最低限のお洒落はしなくちゃ!」
「風呂・・・・・・面倒臭ぇ・・・」

「なに馬鹿なこと言ってるの!はい、あきら君、すぐにバスルームに連れて行きなさい!」

「・・・お袋、もういいから・・・」
「良くないわ!服も新しいの出すから着替えなさい。ちゃんと髪も洗うのよ?」

「・・・・・・判ったよ・・・」



初めて見せた誠二郎の照れた顔・・・口を尖らせ目を逸らせてはいたが、これまで纏っていた危なっかしい空気がその時には無かった。


真っ直ぐ自分を見てくれる目と声・・・この男が21年間求めていたのはこんな極普通の言葉だったのかもしれない。





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