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plumeria

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美作邸のゲストルームに入れられた誠二郎は、見た事もない調度品に囲まれた空間を苦々しく見ていた。

あまりにも自分には似合わない上に居心地が頗る悪い。
夢子の趣味で飾られているから仕方ないのだが、これでも美作邸では1番落ち着いた部屋なのだ。
レースのフリル付きカーテンに真っ白なベッド。クリーム色のソファーに壁には華やかな油絵がある。アンティークな時計、猫足のキャビネット、やはり花を模ったランプ。


「悪いな、こんな部屋で」
「・・・・・・気持ち悪い・・・」

「まぁ、俺だってそう思うから仕方ねぇな。一晩くらい我慢しろ」
「・・・明日になれば解放されるのか?」

3人に背中を向け、部屋の真ん中で突っ立ったままの誠二郎がそう言った。


解放・・・その言葉が出る辺り、この男は花沢に入る気などないのだろう。
類はそれを感じたが、聖司に会わせない訳にはいかない。誠二郎は正式な花沢の跡取りなのだから、彼が花沢を拒否すれば後継者はいなくなる。

聖司がそれを許すとは思えない。そして類も花沢からの解放を願っているのだ。
この男に押し付けようとしているような気は否めないが、拒否されたからと言って自分がこれから先もあの家で暮らす事は考えていなかった。


「この部屋の前には見張りをつける。ついでに言っておくが窓から飛び降りるのも無駄だからな。
庭にも警備がいるし、この部屋には監視カメラを設置してある。着替えや必要な物は使用人が持って来るし、バスルームとトイレはこの奥にあるから自由に使ってくれ」

「使用人・・・いいご身分だな。俺が使ってもいいのかよ」

「必要な事でなら構わないけど?内線はここだから」


あきらの説明も聞いてはいるが目で確認することもなく、本当に気持ち悪そうに片手で口を覆った。

汚れた場所ならいくらでも座れるし、むしろ安心出来る。
でもこれだけ華美で白い部屋だと何処にいたら良いのか判らないのだ。目の端に映るベッドなど鳥肌が立つ・・・頭上のシャンデリアが眩しくて顔が上げられない。

その時にノック音がして、入って来た可愛らしい使用人が夢子に言われた着替えを持って来た。
あきらの指示でテーブルの上にそれを置くと、「西門様と花沢様のお部屋もご準備出来てますので」と一礼して出ていった。


「・・・・・・・・・お前達もここに居るのか」

「当然。暴れたりするなよ?判ってるだろうが、この家にはそれなりの装備がしてある・・・下手に動けば怪我するぞ」


あきらの言葉に返事もせず、誠二郎は足が床に吸い付いているかのように動かなかった。
総二郎もあきらもそれを見て部屋を出ていき、最後に類がドアに手を掛けた。
振り向けば誠二郎も自分を見ている・・・夢子に見せた表情とは違い、今度は刺すような鋭いものだ。だがその口は真一文字に結ばれ、何かを問い質す雰囲気ではなかった。

今は何も話すことはない・・・類も無言のままドアを閉めた。



あきらは2人を連れて、この時間でも稼働している地下のメインシステムルームに向かった。
そこに入るとこれまで指示していた調査内容の報告を受ける。しかし相変わらずつくしの目撃情報も仙道の名前での搭乗記録もない。
飛行機だけでなく東京発、新函館北斗行きの新幹線最終便には情報部員を潜り込ませていたが、そこでも期待された報告はなかった。。


「後は何が考えられるんだ?」
「やっぱり車か・・・・・・いや、フェリーもあるか?」

「フェリーでしたら大洗から出ています。夕方と深夜で北海道への直通があります」

「フェリーなら現地で車を使える・・・?」
「そうだな。おい、乗船者を探れるか?!」

「やってみますが、今まで侵入した事のないシステムですと時間が掛かります。今すぐには難しいかと・・・。どうぞ今日はお休み下さい、私共で調査を続けます」

「万が一仙道篤の名前があったら着岸時に間に合うように北海道に滞在している人間を港に向かわせろ」
「了解しました!」


時間ばかりが掛かるフェリーなど普段から使う事がない類達・・・それ故、見落としたことに悔しさが滲んだ。






『つくし、海洋調査に行ってくる。1人で留守番出来る?』
『大丈夫だよ~!そっちこそ気をつけて、ちゃんと帰って来てよ?』

『俺が帰るのはここしかないから。それよりちゃんと帽子被って店に行くこと!ここは日本より紫外線が強いんだから』
『はーい、判ってまーす』



類が白いシャツにハーフパンツというラフな格好で仕事に行く。
ダークカラーのスーツもネクタイも無い・・・革靴じゃなくてビーチサンダルだ。

家の前には青い海が広がっている。
そしてつくしが手を振って類を見送り、姿が見えなくなると眩しい太陽を両手で遮る。次に持ったのは大きな手提げ袋で、それを肩に担ぐと大きな帽子を被って自分の店に向かう。

『bouquet of sunflowers』・・・”向日葵の花束”という名前のつくしの店だ。


『よーし!今日も頑張るぞー!』と、つくしは店に入ると工房に道具を並べ、店のドアと窓を開ける。
太陽の光が差し込み、店内のアクセサリーに輝きが生まれる瞬間・・・つくしの笑顔がそこにある。

なんて幸せなんだろう・・・窓から海を見ていると、急に沖の方が暗くなった。


『類・・・大丈夫かしら。今日は天気が良いはずだったのに・・・』

そう呟いた瞬間、今度はつくしの店の前で雷が鳴った!!
そして何も見えなくなる・・・昼間なのに辺りは真っ暗になった。

『類、助けてー!!』



「・・・・・・・・・はっ・・・!」

ガバッと起き上がるとつくしはびっしょりと汗をかいていた。
心臓がバクバク鳴り、身体が震えている。瞬間、ここが何処か判らずに頭が真っ白だった。


「・・・なんだ、目が覚めたのか?」
「・・・・・・・・・!」

真横から聞こえた声は類ではなかった。
ビクッとして声のした方を見ると、そこには仙道がニヤけた顔で座っていた。


「・・・・・・・・・・・・ここ・・・」
「ここはフェリーの中。もうすぐ夜明けだ。あんまりにもお前が戻らないから探しに来たらこんな所で寝てるからさ。心配で付き添ってやってたんだぜ?」

「・・・フェリー?」
「もう忘れたのか?つくしは今から俺の実家に行くんだよ」


仙道に言われてもう1度目の前を見たら、窓の向こうには白み始めた空と、まだどんよりした色の海が見えた。さっきまで見ていた青い海ではない・・・あれは夢だったのだとつくしは額の汗を拭った。

類が出ていった沖が荒れて、自分の店に落雷・・・なんという不吉な夢なのだろう。


それを仙道に話す訳もなく、ただ自分の顔を覆って俯いていた。
夢であって良かったけど、この現状は受け入れ難い・・・でもこれが現実なのだと隣で笑う仙道を見て思った。


「バカだな、こんな所で他の人間に寝顔なんて見せて」
「・・・そんなの誰も見ないわよ」

「そういう行動は母さんが凄く嫌うんだよ。下品な振る舞いはしない事だ」
「・・・部屋に入りたくなかっただけ。ここの方が良かったのよ」

「つくしが1人になりたいなら下船までそうしていたらいい。どうせ昼過ぎまで乗ってなきゃいけないからな。でも、船を下りたらもう俺から離れることは許さない・・・判ったな」

「・・・・・・・・・」



仙道は席を立ち、何処かに消えて行った。
それを見ることもなく、つくしは窓の向こうを眺めていた。

水平線の向こうから光りが差す・・・朝日は希望だと喩えられるが、今のつくしにはそんな風に感じない。
夢に見たように類に災いなど起きていませんように・・・目を閉じてそれだけを願った。





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