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plumeria

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次の日の朝、美作邸のダイニングは異様な空気に包まれていた。


昨日の夜、見窄らしい格好でこの屋敷に来た誠二郎が真新しい服を着て座っている。ボサボサだった髪も洗ったからなのか、伸びきっているがサラッとしていた。

夢子はいつも通りの服装でニコニコして、その横ではあきらの双子の妹が賑やかな朝食を喜んでいる。
いつもはあきらにべったりだが今日は類と総二郎、それに見たこともない誠二郎が居るのだ。雰囲気は怖くても見た目は類・・・つまり整った顔立ちだからなのか双子は興味津々だ。

いつもより男性の多いテーブルに浮かれて気分はハイ状態・・・あきらは余計にウンザリしていた。
類は平然として特に変わりなく、総二郎は久しぶりに会う双子を揶揄う。

テーブルの上には花が飾られ、その横にはフルーツバスケット。
真っ白な皿に乗せられた1人分のサラダとスクランブルエッグ、それに焼きたてのパンに珈琲。見たこともないドレッシングのボトルにフレッシュジュースまで揃えられている。


それを囲む人間の中に自分が居る・・・この光景を誠二郎はむず痒く眺めていた。


そもそも普段から朝食のためにテーブルにつくという事もない。
珈琲だって殆ど淹れることもなく、食べ物があれば口に放り込むぐらいだった。
それなのにこれだけ並べられてもどうしていいのか判らない・・・皿を睨む誠二郎に双子のうちの1人、絵夢が話し掛けた。


「お兄様?」
「・・・・・・・・・は?」

「ごめんなさい、名前が判らないから。お兄様、嫌いなものがあるの?好きなものだけでもお食べになったら?」
「・・・・・・・・・あぁ・・・」

この会話を聞いてもう1人の芽夢も口を挟む。

「このジャム、凄く美味しいのよ~!ね、食べてみて?」
「・・・・・・うん・・・」


小さく白い手が自分の前であれこれと動き、「はい!」と差し出されるパン・・・それを手に取り仕方なく口に入れるが、甘いと言う感想以外の何もない。
「美味しい?」なんて顔を覗かれても上手く返事も出来ない不器用な男だ。

それを面白そうに見る夢子と、呆れたように見る総二郎とあきら。
類は無骨な態度の異母兄を、3人とは違う目で見ていた。



「ほら!あなた達は終わったんでしょ?自分の部屋に戻りなさい」
「「はーい!ママ」」

夢子に言われて双子達は先にダイニングを出て行った。
誠二郎はその軽やかな後ろ姿を目で追っていたが表情は変わらない・・・でも針のような鋭さはこの時も無かった。そして夢子にも「その服、似合うわ」などと言われ、同じように目を向けるが言葉は出ない。

こういう会話に全く慣れていないのだ。
優しくされることも、褒めてもらうことも誠二郎の記憶にはない・・・だからそれに応える術を知らない。
そんな言葉が欲しいと思っても手に入らない、だから1人で尖り続けた男だった。


「それじゃ、私は仕事に行くわ。あきら君、このところ外泊が多いようだけどそろそろ自宅に戻りなさいよ?何してるのか知らないけど!」
「はいはい。もう少しやる事があるけどね」

「ごめん・・・あきらが帰らないの、俺のせいだから」


類もまた不器用な表情で夢子を見上げ、それにも夢子は笑顔を向けた。
類が幼い頃から淋しさを抱えていたのを知っているから・・・10歳にして母を失った類を我が子のように気に掛けていたからだ。


「類君の為なの?じゃあ仕方ないからあきら君を貸してあげるわ。でもあなたも疲れた顔をしてるわよ?ちゃんと食べてちゃんと寝ること!判った?」

「・・・ん、ありがと。おばさん」

「おばさんじゃなくて夢子さんって呼んでくれる?」
「くすっ・・・ごめん、夢子さん」


軽く頭に手を置かれ、それにドキッとする。
21歳にもなって髪を撫でられるとは思わなかったと、顔が火照るのを感じた。それは恋人とのスキンシップとは違うもの・・・亜弓の手の温かさを思い出した。



夢子もダイニングを出ると4人だけになり、ここで類はスマホを取り出した。
電話の相手は聖司だ。

数回目のコールで父の声が聞こえた。


『・・・なんだ、こんな朝から・・・』

その声は昨日の疲れからなのか機嫌が悪そうだったが、そんな事に構ってはいられない。


「今、誠二郎と一緒に居ます。父さん、時間をとっていただけませんか?花沢に彼を連れて行きます」







フェリーのレストランではつくしが仙道と朝食を食べていた。
と言っても目の前に並んでいるモーニングセットのサンドイッチには手が出ない。辛うじてカフェオレだけを口に運んでいた。

最近殆ど真面に食事をしていないつくしの顔色は悪い。
ただ座っているだけなのにフラフラして、まるで病院を抜け出てきた患者のように見える程だった。
仙道はそんなつくしを見ても、彼女の体調がどうかと言うより、この状態で母親に会わせて良いものかどうかを悩み顔が歪む。


「少しは食えよ。そんなのでちゃんと挨拶が出来るのか?」
「・・・・・・・・・食べたくない。気持ち悪くて」

「船酔いか?そんなに揺れなかっただろう」
「そんなんじゃないけど・・・でも食べたら吐きそうだから」

「はぁ、困ったな。つくしが自己管理出来ない人間だとは思わなかった。仕方ないな・・・実家には明日、行こうか・・・」
「・・・・・・・・・・・・好きにしたらいいよ」


自己管理出来ないと言われた時、昔なら頑張って取り繕っただろう。
でも今は仙道の言葉に従う気も合わせる気も起きない。無理に笑うこともしない・・・そう決めたのだから2人きりなら愛想良くなどするつもりもなかった。

ただ、この時つくしは本当に具合が悪くなっていた。
ムカムカするのも本当で、食べたら吐くと言ったのも嘘ではない。
全身が怠くて力が入らない・・・それに頭がふわふわして真っ直ぐ歩けないぐらい体力が無くなっているのも判っていた。

精神的な過労と栄養不足による貧血・・・嫌な汗が出て、まだ暑い季節なのに何処かが震えている。


仙道がそれに気付かず実家に電話するために席を立つと、つくしはテーブルの上に突っ伏した。
だんだん意識が遠退いていく・・・頭に浮かんでくる類の笑顔も揺らいでしまう。


ー類・・・助けて・・・・・・ー


この願いが類に届くのはあと少し・・・フェリーはまだ東北沖を進んでいた。






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