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plumeria

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美作邸では情報部の人間が夜通しフェリー会社のシステムへのアクセスを試みていた。
それに成功したのは翌日の朝で、昨日の夕方の搭乗者名簿にその名前を見つけた。その内容を伝えるため、すぐさまあきらに電話を掛けた。

メインシステムルームからの電話をあきらが受けたのは類が聖司に掛けた直後、これから花沢に向かうと言うタイミングだった。


「どうした?何か判ったか?」
『はい!昨日の19時45分に大洗を出たフェリーに仙道篤の名前がありました。これは免許証提示による記録ですので牧野様のお名前は見当たりませんでした。因みに乗船した車のナンバーも判明しました』

「そうか!そのフェリーは何時に北海道に着く?」
『苫小牧に着岸するのは本日の13時30分です。その時間までには新千歳に張り付いている連中を向かわせることが出来ます』

「よし、すぐにヤツの車の情報を伝えろ!絶対に見失うなってな。でも俺達が向かうまでは手出しするな。ただし牧野に危害を加えようとしたらすぐに救出、判ったな!」
『了解、すぐに配置させます!』


誠二郎に向けていた目はこの時ばかりはあきらに向けられ、仙道が見つかったとの情報にホッとした。
でもその時間に苫小牧ならその日中に小樽に連れて行かれる。
一刻を争うことに変わりはなく、早く聖司との話合いを終わらせ北海道に向かわなくては・・・と、類は焦りとも気合いとも取れる顔付きになっていた。


誠二郎はこの動きを黙って見ていたが、総二郎に肩を掴まれ椅子から立ち上がった。
チラッと見るとこの部屋の出入り口にはスーツ姿の男が居る。窓に目を向けても植え込みの間から動く人影が見える・・・つまりは逃げることは出来ないと言うことだ。
肩に置かれた総二郎の手を払い除け「逃げやしねぇよ」と悪態つき、ニヤリと笑った。


この時、誠二郎は既に悟っていた。
花沢家を強請ろうと思っていたが無駄だという事・・・限られた狭い場所でいきがって暴れているような自分には太刀打ち出来ない世界だと。
それならば最後に「父」に会ってから自分の世界に戻ろう、そう思っていた。


こんな真新しい服は着心地が悪い。
こんな真っ白な世界は眩しすぎて息が出来ない・・・自分に似合った場所で今まで通り、自由に暮らした方がいい。


「ちょっと待って~!」

急に甲高い声が聞こえたと思ったら夢子が奥から走って来た。
その手には可愛らしい包みがある。4人が振り向くと、夢子はその包みを誠二郎に差し出した。


「はい、持って行きなさい」
「・・・は?」

「は?じゃないわよ、今日のご飯!
あなた、放っておくと栄養なんて考えずに適当に食べてるでしょ?若い男性がそんな事でどうするの?いいからこれを食べなさい。うちのシェフが作ったんだから美味しいわよ?」
「・・・・・・要らねぇよ」

「好意は素直に受けなさい。人はね、1人で生きてるように見えるけど決してそうじゃないの。誰かの助けや力や愛情をもらって生きてるのよ?たとえあなたが気付いてなくても、見えないところでちゃんと支えてくれてる人が居るんだから!
だから、はい!持って行きなさい。そして遊んでないで働きなさい」
「・・・うるせぇな・・・あんたに関係ねぇだろうに」

「関係ないけど、ここで会ったのも何かの縁ってことよ。もしも仕事が見つからなければ私のところに来なさい。いくらでも力になるからね」

「・・・・・・・・・」


押し付けられた包みの底はまだ温かい。
誠二郎は「お節介だな・・・」と小さな声で呟いたが、それを抱えるとあきら達に連れられてガレージに向かった。

もう1度、ほんの少し横に顔を向けて後ろを見た。
そこには昨日の夜に出迎えた夢子が同じように手を振っている・・・誠二郎は子供の時に何度かその光景を見た気がした。



もう忘れていた記憶・・・

あれほどの笑顔ではなかったが、母が玄関で突っ立ったまま見送ってくれたことがある。
友達に怪我をさせた時、学校の呼び出しで相手に頭を下げて自分の代わりに謝った事がある。
真夜中に目が覚めた時、母がまだ起きていて自分の成績表を眺めていたことがある。

小学生になった時、運動会の徒競走で1等になったら頭を撫でられたこと。
熱を出した時、一晩中タオルで身体を拭いてくれたこと。


確かに母の言動は誠二郎にとっては腹立たしいものが多かったから、その記憶の方が心に強く残っていた。可愛がってもらった記憶は自ら消していた。
自分は嫌われているのだと・・・愛されていないのだと思い込んで生きて来た。


夢子を見て、母の笑った顔を久しぶりに思い出したのだ。








「・・・・・・・・・んっ・・・あ、あれ?」

つくしが目を覚ましたのはフェリーの部屋の中だった。
ベッドに寝かされ布団を掛けられた状態・・・でも部屋には誰も居ない。驚いて飛び起きたが、その瞬間にクラッとして頭を抱え込んだ。

ここは何処だろうと見渡したら仙道の鞄がある。
つまりここは本来なら自分が寝泊まりする部屋・・・つくしはベッドから降りて仙道の鞄に手を掛けた。もしかしたら自分のスマホがあるかもしれない、そう思ったからだ。

でも鞄の持ち手を掴んだ時に開いたドア・・・仙道が戻って来た。


「何してるんだ?つくし」
「・・・・・・スマホを返してもらおうと思っただけよ」

「そんなものを持って来てる訳がないだろ?お前には新しいものを買い与えてやる。それまで我慢しろ」
「どうしてここで寝てたの?あっちゃんが運んだの?」

「勿論。昼過ぎには苫小牧に付くからそろそろ部屋に戻れって言おうと思ったら、つくしがテーブルに伏せてたからさ。一晩中あんなところに居るから具合も悪くなるんだって。ほら、昼食を買って来たからここで食べよう」

「・・・もうお昼?」
「あぁ、12時過ぎてるよ」


テーブルに伏せたことすら覚えていない。でも言われてみれば身体中が痛い。それに仙道は気が付いてないのかもしれないが身体が熱を持っている気がした。
額に汗もかいている・・・でも寒くて鳥肌が立つ。喉が乾いて頭も痛い・・・風邪を引いてしまったのかもしれないと自分の頭を抱え込んだが、仙道にはそれを告げなかった。

昼食だと出されたのはパスタと野菜ジュース。
流石に食べないと倒れるかもしれない・・・と、つくしはそれを口にし、ジュースも飲んだ。

味など全くしない。
ただ仙道の前で倒れる訳にはいかないと、目の前の食事は「くすり」だと思う事にした。


それを食べ終える頃、フェリーは目的地に近付いていた。
荷物は自分の鞄1つで下船の準備などないつくしは、窓から見える北海道の港街を眺めている。初めて来た北海道だというのに心躍ることはない。
この先に何が待ち構えているのかと思うとどんどん気分は滅入っていった。


やがて着岸を知らせるアナウンスが流れ、つくしは仙道の後ろをついて車に向かった。それに乗り込むと目を閉じて外に出る時間を待つだけ・・・やがて薄暗かった駐車スペースに光りが差し込み、仙道はエンジンを掛けた。



見慣れないフェリー乗り場を出て、通行案内に従ってゆっくり進んで行く。
つくしはどんどん上がっている体温で顔が火照り始めたが、それを隠すように運転席の反対側を見ていた。

その時に目に入ったのは1台の車。
グレーのセダンだが、乗っている人間の格好が観光客のそれではない。まだ暑い季節なのにスーツを着てサングラスを掛けている男だった。その車の前を通過した時、中の男もこの車を見た気がした。


「・・・・・・・・・」
「どうした?」

「ううん、何でもない・・・なんか小さな動物が居たからキタキツネかなって・・・」
「野良犬だろ?」

「うん、よく判んない・・・」


再び熱のために意識が遠くなるつくし。
そんな助手席の「恋人」を仙道が見ることなどなかった。






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